第81話 「音楽学校」
みずきは、歌手になるにはどうしたらいいのか本気で考え始めた。
学校での休み時間でも、美樹や知佳などに聞いたりしていた。
そんな中、美樹が音楽学校のパンフレットを持って来た。
「ねぇ、ねぇ、みずき。このカオス・アカデミー知ってる?」
「知らない。有名なの?」
「私も知らなかったんだけど、あのmikaやYUMIも、この学校を出てるんだって。」
「びっくり。2人が同じ学校だったなんて。」
「何でも、個人指導でヒットした作詞作曲を、徹底的に研究分析して、ワンパターンでなく色々なタイプの曲を作れるようにするらしいよ。ピアノやギターに発声レッスンもレベルが高いみたい。」
みずきの目に、力が入った。
「なんか、実践的で良さそうだね。あたし、ここに入ろうかな。」
「入校するのに、試験が有るみたいだよ。ほらここに書いてある。」
「ダメモトで、受けてみる。早速、今日の帰りに一緒に行かない?」
「しょうがない、付き合うか。知佳も行くでしょ?」
「どんなところか興味あるから、もちろん。」
3人は、学校が終わると渋谷に向かった。
すぐに、カオス・アカデミーは見つかり、みずきが受付に尋ねた。
「あのー、体験入学とか有りますか?」
綺麗な若い女性が、応対した。
「それは有りませんが、見学でしたらいつでも大丈夫ですよ。」
「それじゃー、3人、お願いします。」
「もし入学する気がお有りでしたら、今なら入校テストが受けられます。
見学して良かったら、また、声を掛けてください。」
みずきが、意を決した。
「あたし、受けてみる。」
美樹と知佳は、見学をして回ったが、みずきは、入校テストを受けることになった。
試験は、1対1で行われた。
中年の男性が部屋で待っていた。
まずは、カラオケでの歌唱テスト。
カラオケ好きともあって、あっさり合格となった。
続いて、ピアノかギターの演奏テスト。
みずきは、ギターを一人でいる時によく弾いていて、趣味の一つでもあった。
みずきが、弾き始めると講師の目が輝いて、自然と笑顔になった。
合格だった。
結果、みずきの入校が決まった。
テスト室から出て来たみずきに、美樹と知佳が駆け寄った。
「みずき、どうだった?」
みずきは、ニッコリして答えた。
「ご~かく~!」
「やったね!すごーい!」
「意外とレベル、低かったりして(笑)。」
入校手続きを済ませると、3人は喫茶店に行った。
美樹が気になっていたことを聞いてみた。
「費用は、どうするの?」
みずきの顔色が曇った。
「実は、そこが困ってるんだ。バイトでどうにかできる金額じゃないし。」
美樹が、思い付いたように言った。
「そーだ! 守さんに相談してみようよ。
ほら、知佳、電話、電話!」
慌てて、みずきが止めた。
「待って、美樹!」
「どうしたの? 守さんじゃ、駄目なの?」
「そうじゃなくて・・・。」
みずきは、言いづらそうで、言葉が止まってしまった。
知佳は、みずきの態度を見て、なんとなく感じ取った。
「知佳ごめんね。守さんには、彼女が居るの。」
美樹が、大きな声を出した。
「エーッ! 何よそれ。 って、私じゃなくて、知佳が言うとこだろ?」
美樹とみずきが、知佳を見た。
すると、知佳が、ゆっくりと口を開けた。
「私はいいの。 それほど好きだった訳じゃないし、それに、なんとなく、そうじゃないかなって感じてたし・・・。」
みずきは、知佳がショックを受けているように見えた。
しかし、美樹は、知佳の言葉を鵜呑みにして言った。
「そうだったんだ。さすが、知佳。恋愛コミックがバイブルなだけありますなー。」
「ごめん、美樹!」
突然、みずきが美樹に向かって言った。
「何よ、突然。 別に足は踏まれてないよ(笑)。」
「違う、そうじゃなくて・・・。」
「解ってる。渉さんにも彼女がいるんでしょ?」
「どうして?」
「話の流れと、みずきの態度見れば、小学生だって解るよ。」
「そっか。」
「でも、私も大丈夫だよ。知佳と一緒で別に、そんな好きじゃないし。ねっ、知佳。」
美樹は、両手の肘をテーブルに着いて、両手の平に顎を載せて下を向いている知佳の腕をいきなり掴んだ。
手を握り合っている2人を見て、みずきが言った。
「あたしには、2人とも大丈夫には、全然見えないですけど・・・。」
美樹が、みずきの言葉に返した。
「そんなことよりも、カオス・アカデミーの費用でしょ?」
「うん、あたしが、守さんにお願いしてみる。」
みずきは、携帯を取り出すと電話をした。
話はすぐに終わり、電話を切ったみずきの表情が明るくなった。
知佳が察して、「良かったね。」と、言った。
美樹が、「やっぱり持つべきものは、金持ちの友だね。」と言って、ニッコリした。
みずきが、2人を見て言った。
「ありがとう。明日から、学校が終わったら毎日ここだから、一緒に居られないけど・・・。」
知佳が、ニッコリして言った。
「解ってる。私達の分まで、がんばってね。」
美樹も笑顔で言った。
「必ず、歌手になれよ! それも、鮎川瑠美より人気の。
そしたら、みずきにサイン貰って、オークションで儲けるんだからさ(笑)。」
「うん。あたし、絶対に歌手になる!」
みずきも笑いながら言った。が、その眼差しは将来を見据えていた。