第80話 「占い」
夏休みも残すところ、今日1日になった。
みずきは、なんとか普通二輪自動車の免許証を取得した。
そして、バイトで貯めたお金をはたいて、250ccのビッグスクーターを買って、乗り始めた。
これで、当初の目的だった機動性が、グンと上がった。
この日の朝、白いバイクのトランクにカバンを詰め込み、思い出の詰まった誠のアパートを、じっと見つめてさよならを告げた。
「あたしは、決して忘れないよ、誠。 ここで、あなたがくれた、沢山の愛。
そして、言ってくれた、『愛してるよ』の言葉。
あたしは、ここでの事が、偽りだったとは思えない。
だから、決めた。
あなたを、絶対に取り戻すと。」
みずきは、誠がくれたヘルメットを被ると、バイクに跨り、キーを捻った。
エンジンの音を残して、バイクはゆっくりと横浜に向かって動き出した。
もともと運動神経が良いのか、女性の初心者とは思えないくらいにスムーズに、野毛までやって来た。
目的は、そう、あの時の占いの館。
早速行ってみると、他にお客さんは居なくて、すぐさま水晶玉を前にした。
「あのー、恋愛についてなんですけど、・・」
みずきが、占い師が話し出す前に、先走った。
そんなみずきを気にすることも無く、占い師は話した。
「少し前に、こちらに来られてますね。
今日、また、来られたという事は、恋愛が上手くいってないということですね。」
水晶玉に、両手をかざす様に言われると、みずきは不思議と落ち着いた。
「はい、見えます、見えます。なるほど、ライバルに取られたのですね。
そして、諦めずに取り戻す覚悟をした訳ですね。」
みずきは、声を強くした。
「どうやって取り戻したらいいのか、教えてください。」
占い師は、水晶玉を見つめたまま話した。
「どうやら、ライバルは、有利な立場にいるようですね。
なんだろう・・・顔? スタイル? いや違う。
もっと強いオーラを感じます。」
「それは多分、歌手だからだと思います。」
「なるほど、それなら解りました。
あなたも同じ土俵に立ちなさい。
そうすれば、彼の考えも変わるかもしれない。」
「えっ? かも、ですか? あたしに戻って来てくれないんですか?」
「それは解りません。しかし、このままでは、確実に戻りませんよ。
まずは、同じ土俵に立つことです。」
「でも、赤い糸で結ばれているのですよね?
運命の人なんですよね?」
「はい、今はそうです。
しかし、この先を約束するものではありません。
人の運命は、変わることも有ります。
強い信念やアクシデントによって。
ライバルの女性の信念は、とても強いです。
自分の命をも燃やそうとしているほどの強さを感じます。」
みずきが、前に乗り出した。
「あたしだって、彼を愛する気持ちは、絶対に負けません。」
水晶玉を見つめて、占い師はゆっくりとした口調で話した。
「ん~、あなたとは、違ったタイプのようですね。
ん~、命を燃やそうとしているのではなく、燃え尽きようとしているのかな~。
はっきりは、解りませんが・・・。
とにかく早く同じ土俵に上がる事です。」
「はい、解りました。
有難うございました。頑張ります。」
「それじゃー、学割で、3500円ね。」
「えっ? 3000円じゃないんですか?」
「あ~、この前は、初回割引だったからね。」
「そーなんですか・・・はい、3500円」
「はい、どーもね。」
みずきが、立ち上がり帰ろうとした。すると、占い師が、突然、語り掛けた。
「お嬢さん、腹が立っても、決して相手の女性に刃を向けては駄目ですよ。」
「もちろん、解ってます。」
みずきは、占いの館から出ると、考え込んだ。
「同じ土俵って、歌手になるってことじゃん。
どーやってなるのさ。そんなの、出来る訳ないじゃん。」