第79話 「ごめん」
近づいて来たのは、みずきだった。
すぐ後ろに、守が居た。
「わりー、誠。 連れて来ちゃった。
別れ話もしないうちに、一方的に連絡を断つつーのは、やっぱり良くないなー。
一度ちゃんと、話すべきだよ。」
誠の顔色が、みずきを見た瞬間から、みるみる変わっていた。
「よけーな事、すんなよ!」
誠は、みずきから視線を外して、立ち上がり、みずきの横をすり抜けて出て行こうとした。
しかし、みずきがそのまま行かせる筈も無く、誠の腕を掴んだ。
「どーして何も言わないのよ! 何か言ってよ!
あたしは、どーすればいいのよ!」
「ごめん。」
「それだけ? たったそれだけなの?
あたし達が、一緒に暮らした日々が、たった一言だけで終ってしまうの?
ひどい、酷過ぎる。」
「ごめん。」
「何で、何で、瑠美なの? どこがそんなにいいのよ。
歌手だから? お金持ってるから? 可愛いから?
あたしだって、ちゃんとすれば、瑠美くらい可愛くなれるし、歌だって習えば、きっと上手く歌える。お金だって、頑張ればきっと・・・。」
「ごめん。」
誠は、みずきの手を解いて、店から出て行った。
守が、みずきの腕をそっと支えて、椅子に腰掛けさせた
「しょーもねえ奴だな。あんな奴じゃなかったんだっけどな。」
「誠さんが悪いんじゃない。瑠美が悪いのよ。
今までずっと、あたしの邪魔ばかりして、あたしに恋愛をさせないつもりなのよ。
そっちがその気なら、あたしだって・・・。」
大塚美佳が、不思議そうに聞いた。
「今までずっと邪魔して、って、鮎川瑠美と知り合いなの?」
「兄弟(姉妹)よ。血は繋がってないけど。」
「えーっ!」
3人とも、驚きの声を上げた。
「すごいね、誠さんって。そんな2人に好かれるなんて。」
「ずっと、恋人がいなかったのに、あの日の湘南から変わったなー。」
「あの日と言えば、渉! お前、付き合ってたのかー。えーっと・・・。」
「大塚美佳です。 その節は、どーも。」
「世の中分かんないよなー。あの日、あのホテルに泊らなければ、渉も誠も、今みたいになって無かったし。」
「それはどーかなー。別なタイミングで、会ってたかもしれないし。」
下を向いていたみずきが、声を出した。
「そうです。あたしと誠は赤い糸で繋がっているんです。あの日で無くても、きっと。」
みずきは、また、占いの館へ行こうと決めた。