第78話 「渉の彼女」
部屋に入るとすぐに、瑠美はソファーに横になった。
「あー、疲れた。」
「やっぱり、ずっと運転してたから疲れたんだね。ごめん。」
「あ~、違う、違う。 単なる口癖。
最近、疲れてもいないのに、自然と口に出ちゃうだけ。
気にしないで。 す、ごーく、楽しかったんだから。
何年振りだろう、こんなに楽しかったのは。」
瑠美は、ソファーに座り直すと、急に真面目な感じで、誠にお辞儀をした。
「今日は、どうもありがとう。」
誠は、瑠美の態度を見て、かしこまった。
「こちらこそ、ありがとうございました。」
瑠美は、誠のギクシャクした動きを見て、吹き出した。
「へーん!(笑) 変だよ。(笑)」
自分でも、おかしいと思っていた誠も、笑いだして、部屋に笑い声が響いた。
すると突然、誠の携帯が鳴った。
渉からだった。
瑠美が、お風呂に入ると言って、居なくなった。
「もしもし、誠?
守から聞いたんだけど、みずきちゃんと別れたんだって?
何であんないい子と別れちゃうんだよ?
アパートも出たって云うじゃん、今、どこに住んでんだよ?」
「ん~、横浜。」
「横浜? 横浜のどこよ?」
「みなとみらい。」
「はっ? みなとみらいに、安いアパートなんて有ったけ?」
「アパートじゃなくて、高層マンション。」
「えっ? 高層マンション? 宝くじでも当たったのか?」
「じゃなくて、人の家に転がり込んでるだけ。」
「それって、女?」
「まーね。」
「スゲーじゃん。金持ちの女、ゲットしたんだー。
なるほど、それで、みずきちゃん、ポイしたんだー。
悪い奴だなー。みずきちゃんかわいそー。
でも、それなら、話が解る。
で、その女って、どんななのよ、かわいいの?
まさか、金持ちのおばさんじゃないよなー?」
「(笑)ちげよー、んな訳がないだろ。
ちょっと、言えないけど。」
「なんだよそれ。言えないって、どうしてよ?」
「ちょっと、訳有って。」
「なんだよ、怪しい奴だなー。 じゃー、明日遊びに行くから、住所教えろよ。」
「だから、駄目だってば。」
「じゃー、その辺行くから、外で会おうぜ。」
「まー、それなら良いけど。」
2人は、会う約束をした。
次の日、ランドマークタワーの喫茶店で、誠は、渉を待った。
約束の時間に、渉が現れた。
「よっ!」
渉の横に、女の人が居た。
誠は、その女の人に見覚えが有った。
「あっ、どーも。 どこかでお会いしましたよね。 えーっと・・・。」
渉が、割り込んだ。
「湘南のホテル。」
「あ~、そうだ。 お世話になった仲居さんだ。
渉が、ナンパしたんだった。
でも、あれから、付き合ってたんだ?」
「おーっ! 美佳さんのバイトが終わる時間に、ホテルに行ってカラオケデートしたり、
バイトが休みの日にドライブしたりで、結構毎日のように会ってたんだ。」
「そっかー、何も言わないから、もうダメになってると思ってたよ。」
美佳が、不満そうに言った。
「あれあれ、ちゃんと話してくれてなかったんだ。」
美佳の表情を見て、渉は、話題を誠の事に振ろうとした。
「誠、一体どんな人と住んでるんだよ。」
「それはちょっと、言えないんだ。」
「何だよ。 俺達、親友だろ?」
「そうだけど、言ったのがばれると、別れることになるんだ。」
「あーそーかよ。俺は、大塚美佳ちゃんと付き合ってるって教えたのに。」
「それとは話が違うし・・・・・絶対に人に言わないと約束してくれるか?」
「おう! 分かった。 誰にも言わない。 なっ、美佳さん。」
「えー、もちろん。」
「本当に、言わないでくれよ。
じゃー言うけど・・・一緒に住んでるのは・・・・・あ、あ、鮎川瑠美なんだ。」
渉と美佳は、顔を見合わせて、一瞬、沈黙した。
渉が、興奮して少し大きな声で言った。
「うっそ! マジ?」
周りに居る人が、一瞬、こちらに冷たい視線を送った。
「声が、でかいよ!」
「あっ、わりぃー。 でも、マジで、あの鮎川瑠美?」
「そう。」
「スゲーじゃん。 で、もうやったのかよ?」
「何言ってんだよ!」
「何だ、やってねーのか。」
大塚美佳が、軽く渉の頭を叩いた。
「聞くことが、違うでしょ! ねー。」
「何だよ、美佳さんだって、本当は興味あるくせに。」
大塚美佳が、もう一度、渉の頭を叩いて、誠に聞いた。
「それで、何で一緒に住んでるの?」
「えーっと、それは・・・。」
その時、誰かが、こちらに歩いて来た。