第72話 「新しい生活」
窓の外を見ている誠を、瑠美が気にした。
「どうしたの? ぼーっとして。みずきのことが、気になる?」
「そりゃー、怒らせちゃったから、普通は気になるでしょう。」
「そっかー。それなら、二股かけてみる?」
「えっ?」
「ジョーダンだよ。深刻な顔してるから、言ってみただけ。
もしかして、みずきと別れて、後悔してる?」
「そんなことないけど、裏切ったような気がして。」
「そっかー。 誠さんは、やさしいもんね。」
「そうでもないと思うけど。」
瑠美は、こころにつかえていた思いをぶつけてみた。
「私を選んでくれたのも、真紀が私の過去を語って、可哀そうだと思ったからなんでしょ?」
「そんなことないよ。」
「それじゃーどうして?」
「どうしてって、ずっと前から好きだったし・・・。」
瑠美にとってみたら、誠の答えは意外だった。
自分の過去を可哀そうだと同情して選んだとも言って欲しくなかったが、他の答えを見つけられずにいたから、単純に好きと言われて、モヤモヤしていたものが取れたように嬉しかった。
「えっ、そーだったんだ。 でもみずきのことも好きだったんでしょ?」
「うん、そう思ってた。でも、みずきと一緒に居ても、何て言うか、妹と居るみたいで、ときめきが無いというか・・・。でも、目の前に瑠美が居ると、胸はドキドキして、握手なんかすると、鳥肌が立って・・・。」
「じゃー、こうしたら、どうだ! ちゅっ!」
誠が話している傍から、瑠美は、ほっぺにキスをした。
誠は、顔を赤くして慌てた。
「もー、急に、何するんですか!」
誠の慌てる姿を見て、瑠美は笑いながら言った。
「誠って、可愛いよねー。」
「馬鹿にしないでください。」
誠は、不機嫌そうに言ったが、瑠美は気に留めずに話した。
「でもさー、今はこうして、素直に話してくれるけど、前に、私が付き合ってって言った時は、何だかんだ言って断ってたよね。あの時なんか、私のことが好きだなんて全然思えなかったし、突っぱねる感じで、嫌われてるのかなーって、散々悩んだんだから。」
「でも、あの時は、スターと付き合えるなんて本気で思ってなかったし、みずきの熱心さが可愛く見えてたから、他の女の子と仲良くしちゃ駄目みたいな気がしてて・・・。
それに、女の子と付き合うのが初めてだったから、傍にみずきが居ることが嬉しかったし・・・。」
「なるほど、ね。 男心は、複雑なのね。
でもね、心がブレて欲しくないから、言っておくけど、
私は、本気だから!
本気であなたのことが、好きだから!
何でこれほどまでに、あなたを好きになったのか、自分でも解らないけど、
そんなこと、どうでもいい。
誠が一緒に居てくれないと、今の私は、死んじゃうんじゃないかって云うくらい辛いの。
だから、毎日、ここへ帰って来てね。お願い。」
「何だか、夢のようですよ。憧れのスターから、そんなこと言われるなんて。
ドッキリでも、撮影されてるんじゃないかって、疑ちゃいますよ。」
「人が、本気で言ってるのに、酷くない?」
「すいません。」
瑠美は、笑った。
そして、二人の同棲生活が、はじまった。