第7話 「渉のデート」
渉が、ロビーで待つこと、約20分。
案内係りの女性がやって来た。
「お待たせしました。さぁ行きましょうか。」
2人は、ホテルから出て歩き出した。
渉は、彼女の和服以外の姿を想像していなかった。
「別人のようですね。」
渉は、彼女の変わりように、びっくりしていた。
束ねていた髪は、奇麗にセットされ、薄いメイクだったのが、きっちりメイクされていた。
案内係りの女性は、ニッコリして答えた。
「仕事とオフは、きっちり分けることにしてるの。和服はちょっと窮屈で、この格好の方が楽でほっとするの。オフの私を見て、がっかりしましたか?」
渉は、以外にも慣れのせいか先程よりも緊張していない。
「がっかりなんて、とんでもない。とても奇麗です。」
案内係りの女性は少し照れた。
「ありがとう。そう言えば、まだ、お名前を教えてもらってないですね。」
「水越渉って言います。 すみません、あなたのお名前忘れちゃって、もう1回、いいですか?」
案内係りの女性は、立ち止った。
「えーっ。私の名前忘れたんですか? ひどーい。」
渉は、慌てて言い訳をした。
「だって、部屋の案内の時に、チラッと言っただけだから、みんな覚えてないですよ。」
案内係りの女性は、歩き始めた。
「まーね。そんなもんですよね。私、大塚美佳と言います。東郷大3年です。ここの仕事はバイトなの。水越さんは、何をされてる方ですか?」
渉はびっくりした
「えっ? 大学生なんですか? 僕は、東京創工大の1年です。」
美佳は、渉の顔を見た。
「1年なんだー。19歳?」
「はい。」
美佳は、ニッコリした。
「2コ下で、未成年かー。」
渉は、もしかしたら、これで終わってしまったかもと、緊張した。
「年下は、ダメですか?」
美佳は、自分が優位な立場にいることを実感した。
「ん~ん。そんなことないわよ。見た感じ年下だと思ってたし。ほら、着いた。あそこ。」
ちょっと古めの雑居ビルに、明るい見なれた看板のカラオケチェーン店が入っていた。
2人は、店に入って行った。
店は空いていて、直ぐに案内された。
美佳は、お腹が空いていた。
「何か、頼みましょ?」
渉は、年下として扱われたくなかった。
「うん。じゃー、ビール。」
美佳は、苦笑いを浮かべた。
「エーッ、未成年がいいのかなー。後で何かあると困るから、ノンアルコールにしてもらえると嬉しいんだけど。私は、レモンスカッシュ。それに、お腹空いちゃったから、ラーメン食べていい?」
渉は、美佳に言われて、素直にビールをやめる気になった。
「うん、いいよ。それじゃー、俺は、ジンジャーエールと、焼き鳥セットにピザと、フライドポテトあんどチキン。他に何かいる?」
美佳は、メニューを閉じて返事をした。
「うーうん、取りあえずは。」
渉は、印象を良くするために、直ぐに電話を取って注文した。
美佳はそれが解ったのか、渉の顔を見て、ニッコリした。
飲み物が直ぐに届けられた。
美佳は、直ぐにでも飲みたかった。
「乾杯しよーよ。」
渉は、何かかっこいい言葉はないか、考えた。
しかし、パッと思い浮かばずに、在り来たりになってしまった。
「それじゃー、2人の出会いに。乾杯!」
「かんぱーい!」
美佳が、カラオケ本を手に取り、渉に突き出した。
「何か歌って!」
渉は、何を歌ったら良いのか悩んだ。
もし、嫌いなものを歌ってしまって、しらけても困るし。
「どんなのが好き?」
「うーん。何でも好きだよ。」
「演歌とかも?」
「全然オーケー。」
渉は安心した。
「それじゃー、マイケル・ジャクソンのウイアー・ザ・ワールド。」
美佳は、軽くコケた。
「演歌じゃないじゃん。」
渉は、笑いながら言った。
「深く考えないでー。気持ちは、演歌だから・・・。」
美佳も笑顔になった。
「訳分かんないんだけどー。ウフフッ。」
渉は調子に乗ってきた。
「一緒に歌おう?」
美佳は、ちょっと困った顔をした。
「英語なんか歌えないよー。」
渉は、美佳に近づいた。
「そんなの別にいいって。」
それから2人は、歌ったり、食べたり、楽しい時間を過ごして打ち解けていった。
一方、ホテルに残された2人は、部屋でテレビを見ていたが、誠が突然立ち上がった。
「ちょっと、その辺、走って来るよ。」
守がびっくりした。
「何だよ、突然。こんな時間に?」
誠は、着替えだした。
「もうすぐ、テニスの試合があるからさ。」
守は、テレビから目が離れない。
「泳いだ後なのに、タフだなー。」
誠は、部屋を出ていった。
「じゃー。」