第69話 「同棲」
真紀が、ホッとしたように言った。
「良かったわ。これで私も、一安心。
誠さん、そのうちみずきちゃんも、この事を知る日が来るとは思うけど、
今のところは、内緒にしておいてね。
みずきちゃんに罪は無いし、両親も内緒にしているみたいだから。」
真紀は、話し終えると立ち上がった。
「私の本日の役目も終わったみたいだから、帰りますね。
とは言っても、すぐ隣だから、何か有ったら呼んでください。」
「ありがとう、真紀。」
瑠美は、真紀に感謝した。
瑠美の口からは、本当の事なんて話せるはずもなく。
心優しい誠に対して、真紀のように情に訴えるような話をして、引き留めることなどできはしない。
真紀が居なかったら、今頃、誠はみずきと手を繋いで帰り道を楽しんでいることだろう。
真紀が居なくなったソファーでは、瑠美が誠にくっ付いたまま離れようとしない。
「ねー瑠美さん。少し離れませんか?」
「どーして? 私、こんなにうれしいこと、今まで無かったんだもん、いいでしょ。」
「でも、あなたは、スターなんだから。」
「また始まった。そんなの関係ないよ。仕事とプライベートは別。」
「でも、こんなに、くっ付いたままじゃ、困りますよ。」
「あっー、もしかして、変な事考えてるんでしょー。」
「そ、そ、そんなことないですよ!」
「いいんだよ、別に、私は。」
「えっ・・・。」
「今日、泊っていくでしょ?」
「そっ、そんなこと出来ませんよ。」
「帰ったら、彼女にちゃんと説明できるの?
ちゃんと納得させられるの?」
「それは・・・・・。」
「自信ないんでしょ?
私も、自信ない。
あなたが、このまま帰って、またここに来てくれると思える自信が。
私と付き合ってくれる自信が、私には無いの!
だから、帰っちゃダメ。
もう、みずきには会わないで!」
「そう言われても・・・。
必要な物も置いてきてるし、教習所でみずきには会っちゃうし。」
「必要な物とかは、事務所の人に取りに行かせるし、アパートは解約して。
教習所も止めて欲しい。免許証が欲しいなら、別なとこへ行けばいいわ。
費用は、全部出すから。
随分自分勝手なことばかり言ってるように聞こえるかもしれないけど、お願い。
私、必死なの。
今の状態から、あなたが居なくなったら、立ち直れない。
お願い、ここで私と一緒に暮らして!」
「えっ。ここで一緒に?」
「そう。生活に必要なお金は、全部私が出すわ。大学の費用だって出したって構わない。
あなたのような人に出会ったの初めてなの。
最初に会った日に、あなたのすべてが分かった気がしたの。
それに、あなたが、わたしの全てを知っても、好きになってくれると思えたの。
誠さんも私と会った時、そんな気しなかった?」
「うーん、どうだろう? 鮎川瑠美って云うだけで、ドキドキしてたから。」
「そっかー・・・。」
少しの沈黙が有った後、誠がにこやかに言った。
「分かりました。一緒に暮らしましょう。」
「ありがとうー。」
瑠美は、無邪気にまた、誠に抱きついた。
その頃、みずきは、誠が帰って来ないとも知らずに、夕食の買い物をしながらアパートに向かっていた。