第68話 「真相」
真紀は、続けた。
「みずきちゃんの親は結婚してから3年間、子供が出来なかった。でも、どうしても、子供が欲しかったから、施設から一人の女の子を引き取ったの。それが、瑠美。」
誠は、真剣に聞いていた。
「そっか、瑠美は、施設に居たんだ。」
真紀は、誠が瑠美に同情しているのを感じて安心した。
今、誠がみずきと付き合ったのでは、社長を説き伏せた努力が水の泡になってしまうからだった。
「そう、何で施設に居たかと言うと、1歳の頃、両親と一緒に、大型ショッピングセンターに買物に出かけた時に、大火災に遭ったの。
パニックで逃げ惑う大勢の人達にもみくちゃにされて、ベビーカーは跳ばされ、瑠美は親と離れてしまって、一人泣いていたところを、消防隊に助けられたらしいんだ。身元の解る物を身につけていなかったから、しばらく保護されたんだっけ?」
真紀が瑠美を見ると、瑠美は、ゆっくりとうなずいた。
真紀は、瑠美と目を合わせると、話を続けた。
「たぶん、瑠美の両親は、自分達が逃げる事より、火災の中で瑠美を探し回ったんだと思う。でも、残念ながら、亡くなっていたらしいの。
この火災による犠牲者は600人を超えて、歴史に残る大惨事になったわ。
収容された遺体の多くは、焼け焦げていて、身元も解らない状態の人が多かったそうよ。
結局、瑠美の両親も見つからず、瑠美は、施設に預けられることになった訳の。」
誠の顔の表情が険しくなっていた。
「そうだったんだ。
何て言って良いのか、解らないけど・・・大変な思いをしたんだね。」
「そう! 瑠美は一人で大変な思いをして来たのよ。
その後、施設に瑠美が身内の物ではないかと確認に訪れる人はいたんだけど、結局、分からないまま数年が経って、みずきの両親に引き取られることになったのよ。」
誠は、真紀の話に引き込まれていた。
「ご両親の親とか、親戚の人とか探しに来て、気が付いても良さそうなのにね。」
「うん、そうなんだけど。瑠美にも、おじいさんやおばあさんの記憶がないみたいなの。
もしかしたら、結婚を反対されていたのかもしれないし、早くに亡くなっていたのかもしれない。」
「そっかー、でも、みずきの家に引き取られて、少しは生活が良くなったんじゃない?」
「始めはね。
我が子のように、大事にしてくれたみたいだけど、出来なかったはずの赤ちゃんが出来ちゃってからは、ガラッと変わっちゃったのよね。
まー、仕方のない事と言えばそうなんだけどね。
瑠美は、幼いながらも、追い出されるんじゃないか不安だったらしいわ。
母親に、あなたはこの家には要らない子なんだからと、事有るごとに言われていたらしいわ。
小学生になると、みずきちゃんに何か有ると、すぐ瑠美のせいにされて怒られる事が多くなったみたい。だから、瑠美は、みずきを守るようになったらしいの。
それが、今回のような事に繋がってるのよ。」
誠は、ピンと来ない様子だった。
「どういう事?」
「だから、みずきちゃんも中学生くらいになると、ボーイフレンドが欲しくなるわけよ。
でもね、瑠美から見ると、みずきちゃんが好きになる男の子は、不良っぽい子が多かったのよ。
そう云う子達と付き合うと、やっぱり悪い事を覚えていくでしょ。
そうなると、瑠美が怒られる事が多くなっていく訳。
だから、瑠美は、自分の立場を守る為半分と、みずきちゃんの事も本当に好きだったから、悪い方に向かないようにする為半分で、みずきちゃんが、そう云う男の子と付き合わないように、邪魔した訳なの。
結局、そう云うのが高校生になっても続いて、みずきちゃんには誤解され続けているんだけど。」
黙って聞いていた瑠美が、顔を上げて話し始めた。
「そうなの。私も中学生になった頃、この家は私の居る場所じゃないと解って、歌手になって、早くこの家から出て行こうと心に決めてたわ。
来る日も来る日も、毎日嫌味を言われて、怒られてばかりで、とても嫌だった。
だからって、みずきに、意地悪をしてた訳じゃないのよ。
みずきは、とてもいい子で、私と仲良くしてくれてた。
母親に怒られてる私をかばったりもしてくれたわ。
ただ、あの子の好きになるタイプが、いつもワルな子ばかりで、段々帰りも遅くなったし、引き離すのが大変だった。決して、私が横取りしてた訳じゃないのよ。
でもね。誠さんは、別。初めて私が、本当に好きになった人なの。
だから、みずきには譲れないし、本当の事を話したのよ。」
誠は、立ち上がると瑠美の隣に座り、顔を見て言った。
「分かったよ。話してくれて、ありがとう。
これからは、僕が瑠美さんを守るよ。」
瑠美は、横に来た誠に抱き付いた。
「ありがとう、誠さん。」