表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/96

第66話 「みずきと瑠美」


真紀の車は、みなとみらいの海にほど近いマンションの地下駐車場へ降りて行った。


決められた場所に止めると、3人は降りて、防火扉を兼ねた鋼鉄の扉に向かった。

扉には、カードキーが有り、真紀がカバンから取り出したカードで扉を開けた。


エレベーターに乗ると、真紀は30階のボタンを押した

エレベターは、あっという間に30階に着いた。

エレベターの速さに、驚いている様子のみずきだったが、声に出す雰囲気ではなかった。

ドアが開くと、真紀は、いつもの歩き慣れた廊下を奥に向かって歩き始めた。

2人は、少し間を開けて、付いて行った。


一番奥の右のドアの前で、真紀は立ち止った。

真紀は、後ろに居る2人を見ると、

無言で、「覚悟はいいかしら?」と言いたげな表情をした。

みずきは、それを感じてか、大きくうなずいた。


真紀が、インターホンを押した。

すぐにドアのカギを開ける音がして、ドアが開いた。


ドアが半分くらい開いたところで、瑠美が、「どうぞ。中へお入りください。」と言った。

真紀が最初に入り、次に誠が入った。

誠の後ろに隠れるように、みずきが最後に入った。


瑠美の目には、真紀と誠が映ったが、みずきの顔は、誠に隠れて解らなかった。

真紀が、スリッパに履き替えて、瑠美の横をすり抜け、誠が前に進んだ瞬間、

瑠美の動きが止まった。

みずきと瑠美の視線が合っていた。


はじめに瑠美が、驚きの余り声を出した。

「ど、どうして、みずきが居るの?」


その声に、反応して誠の動きが止まり、真紀が振りかえった。

ずっと黙っていたみずきが、口を開いた。

「それは、あたしのセリフ。どうして、瑠美が居るのよ!」


驚きのあまり思考が停止していた瑠美の脳が、動き出した。

真紀と誠さん以外にここに居る人は、誠さんと今付き合っている人。

つまりは、同棲中の彼女のはず。

と、云うことは、みずきは・・・・・誠さんの彼女。


「何で、また、あなたなの?」


「それも、あたしのセリフ。いったい、何度、同じ事を繰り返すのよ!

でも今回は、絶対に負けない!」


真紀が、言った。

「中で、一旦落ち着いて、話しましょ。」

 

誠も、ただならぬ雰囲気を察して、真紀に続いて言った。

「そうそう、玄関で立ち話も何ですから、入りましょうよ。」


瑠美とみずきも2人の言葉に、水を差されて、リビングに入った。

ソファーに腰掛けると、部屋を見渡して、みずきが言った。


「良い暮らししているのね。テレビも大きいし、みんな高そうなものばかり。」


瑠美は、飲み物を持ってくると、みずきの正面に座った。

「欲しいものが有れば、持っていくといいわ。」


「要らないわよ。人気者になったら、家にも来なくなる親不孝娘の物なんか。」


「何も解らないくせに、何勝手な事言ってるのよ。」


「あー、何も解りませんよ。

瑠美だって、二重の手術をした時に、母さんがどれだけ心配していたか解ってるの?」


会話を聞いていた誠が、思わず声を出した。

「えっ? 2人は姉妹?」


構わず、みずきは続けた。

「何日も前から、落ち着きがなくて、瑠美の小さな時からのアルバムを毎日のように夜遅くに見返してたのよ。きっと、顔をいじってほしくなかったに違いないんだから。

それに、どうかうまくいきますようにと神社にお参りにも行って、お医者さんにも、どうか宜しくお願いしますと、うちは裕福でも無いのに手術代20万円とは別に、30万円渡してるのよ。あたしちゃんと見てたんだから。」


一瞬、瑠美は目をつぶって、今まで知らなかった母の思いを感じて、みずきの話を呑みこんだ。

そして、目を開くと、声を大きくして言った。

「あなたに分かる? 私が、高校に入る前に、二重に整形した気持ちが。

小さい頃から、ずっと可愛い、可愛いと抱かれるのは、いつもみずきだった。

あなたのその綺麗な二重が羨ましかった。

私も二重になればきっと、周りの人は、あなたよりも、私の方に振り向いてくれると思ってたわ。

だけど、違った。

顔は可愛くなったとしても、それまでのことが、私の性格まで変えてしまっていて、あなたのようにみんなに明るく振る舞えなかった。」


「そんなの自業自得でしょ? 私の二重が羨ましいからって、あたしが付き合っていた人を横取りするのは、おかしいでしょ?」


「うん、そうね。でも、あなたが付き合う人は、決まって私のタイプの人なの。

綺麗な二重だからって、皆が皆みずきにばかりちやほやするのは許せなかった。有りもしないあなたの悪口を並べて、私に振り向かせた。でも、話をしても、みずきの事ばかり聞いてきて、結局長続きなんてしなかった。中には、暴力を振る者もいたし、身体目当ての者もいたわ。」


「そんなのは、お姉ちゃんの勝手な思い込みでしょ?」

お姉ちゃんの付き合い方がそうさせたんじゃないの?

それじゃ何、あたしが傷つく前に、お姉ちゃんが守ってくれたとでも言いたい訳?」


「そんなことは、言ってないわ。ただ、私はみずきが思ってるほど良い思いなんてしてないのよ。」


「何言ってるのか、全然分からないわ!自分のやったことを正当化してるだけじゃない。

別に暮らすようになったから、こんなことはもう起きないと思っていたのに!」


「みずきが憎い訳じゃないから解って欲しかったんだけど、誠さんは別なの!

やっと巡り合えた心の通じ合える人だもの放しはしないわ。」



みずきは、興奮気味になって、ソファーから立った。

「何勝手なこと言ってるのよ! 

誠さんだって、あたしが付き合っている人なのよ!

誠さんは別とか言ったって、また同じことをしているだけじゃない。

きっと、付き合い始めたら、そのうち飽きちゃって、ポイッて、捨てるつもりでしょ!

誠さんがファンだからって、ずるいわよ!」


瑠美は立ち上がると思わず、みずきの頬を叩いた。

「パシッ!」


瑠美は、叩いた自分の右手を見つめて、後悔した。

「ごめん。つい・・・・・。」


みずきは、叩かれた左頬を手で覆いながら、玄関へと向かった。

瑠美は我に返り追いかけたが、みずきは既に出た後で、ドアが閉まりかけていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ