第60話 「カップル誕生」
水族館に入ると、女子高生トリオは、はしゃぎ出した。
そして、巨大水槽を目の前にすると、そこは魚の国に居る様だった。
ジッと水槽を見つめていた、渉が呟いた。
「魚達には、可愛いとか、イケメンとかって認識は有るのかなー?」
「同じ種類の魚同士には有るんじゃない。」
すぐ隣に居た美樹が、答えた。
「有るわけないじゃん。みんな同じ顔してんじゃん。」
笑いながら、守が反論した。
「そうかなー、良く見ると違うような気がするけど・・・。」
誠が口を挟んだ。
間髪入れずに、みずきが指を差しながら言った。
「ほらっ、あそこ。後ろに3匹がくっ付いて泳いでる。きっと、前のがイケメンなのよ。」
競うように、渉が、イワシの大群を指さして言った。
「それじゃー、あれは、先頭のが鮎川瑠美みたいに可愛いやつで、歌を唄って、周りのみんなが引き付けられたんだな~。」
知佳が笑いながら言った。
「イワシのライブツアーなのね。」
「アホ臭~い。イワシが歌うのかい? 次行こうぜ。」
守が歩き出した。
渉が、美樹に手招きした。
「こっちに来なよ。」
美樹が来ると、渉が「あそこに行こうぜ。」と、誘った。
そこは、磯を再現して、ヒトデなどを触れるコーナーだった。
それを知ると、美樹の足が止まった。
「嫌だよ。そんなの触りたくないよ。」
「どうしてさ。面白いのに。」
渉は、一人で入って、ヒトデを掴んで見せた。
知佳がそれを見ると、「あっ! 私も触りたい。」と入り込んだ。
渉は知佳がそばに来ると、ヒトデを知佳の頬に着けた。
「キャー」知佳がよろめいて、倒れそうになると、渉が慌てて抱き支えた。
二人の目が合った。
「もーなによ。危ないじゃない。」
「ワリーワリー、ちょっとふざけただけなんだけど。」
見ていた守が、声を掛けた。
「いつまで、そうしてるんだよ。ご両人。」
知佳が慌てて、渉の腕を払って胸から離れた。
渉は、知佳が怒っているのかと思った。
「そう怒るなよ。ヒトデって触ると硬いけど、水につけると、ほら、裏の触手みたいのが動き出すんだぜ。」
渉が、しゃがんでヒトデを水につけた。
「怒ってなんてないよ。急に変なことするから、びっくりしただけよ。」
知佳もしゃがんだ。
「ほんとだ、動いてる。」
渉が、ニッコリして、ヒトデをまた手に取り、知佳に差し出した。
「あっーかたい。面白い。」
誠が、みずきの手を引っ張り、「行ってみようぜ。」と誘った。
みずきは、「うん。面白そう。」と入って行った。
4人が遊んでいると、つまらなそうに守が声を掛けた。
「先行くぞー。」
隣に居る美樹が、「守さんも、行って一緒に遊んで来れば?」と守に言った。
守は「いいんだよ、別に触りたくないし、あいつらはほっといて先行こう?」と、美樹に問い掛けた。
美樹は、「そうね、行きましょ。」とニッコリした。
2人は、話しながら一緒に歩き出した。
不思議と興味を持つものが一緒で、話が合った。
そんな中、守は、このまま2人で行動していいのか不安に思って美樹に聞いてみた。
「美樹ちゃんは、渉が好みのタイプじゃなかったの?」
美樹は、守が気にしている事など、お構いなしだった。
「ぜんぜーん。みずきが誠さんの事が気に入ってたから、その流れで収まってただけで、別に好きとかじゃないよ。そう言う守さんは、知佳がタイプじゃなかったの?」
「知佳ちゃんが、話し掛けて来るから応じてただけで、特別にどうこうは無いね。そもそも、俺は二人の付き添いみたいなものだし。」
「付き添い?」
「あー、彼女が欲しくてたまらない渉と誠の運転手みたいな。」
「そーなんだ。守さんは、彼女は欲しくないんだー?」
一瞬、守は自分には彼女が居ると言おうとしたが、美樹の話し方が自分に好意を持っているように感じた事で、誠の下心が顔を出して言う事はなかった。
「そんなことは無いさ。美樹ちゃんのような子が彼女だったら、いいと思うけどね。なんちゃって。」
「えっ? そうなんだー、意外だなー。それじゃー、私とお試しで付き合ってみる?」
守は、ラッキーと心の中で微笑んだ。
「いいの? 本気になっちゃうかもよ。」
「望むところよ。(笑)」
守と美樹は、2人の世界に入り込んで、他の4人の事など忘れたかのように、先に進んで行った。
薄暗い水族館が終わり、急に視界が広がりイルカなどのショーが行われる明るいプールに出て来た。
ふと、美樹は後ろの4人が気になった。
「まだ来ないかなー?」
「先に座って席を取っておこう。」
「そうね。」
守と美樹は、ほぼ中央の前の方に座ると、渉と知佳が水族館から出て来た。
渉が、守と美樹の前に来て言った。
「2人とも、早いよ。皆で一緒に回った方が面白いのに。」
守と美樹が、顔を合わせて、どっちが返事をするのか、迷っているような感じになった。
その様子をを見た渉が、「えっ?」っていう感じで言った。
「まさか、カップル誕生? マジ?」
守が、口を開いた。
「渉が、知佳ちゃんと仲良くヒトデで遊んでるからだろ?」
すぐに言葉を返せないでいた渉より先に、知佳が言った。
「いいじゃん別に。同じ事に興味が有った方が楽しいよ。」
渉が、知佳に向かって言った。
「えっ? 良いの? 知佳ちゃんは、守が良かったんじゃなかったの?」
「ん~、最初はね。・・・アレ? もしかして、美樹の方がいいの?」
知佳にそう言われた渉は、美樹を見てしまった。
すると、美樹は、アーカンベーを、渉にお見舞いした
「ヒトデなんて、キモーイ! 知佳と上手くやって!」
渉は、言葉も無く、そのまま守の前に座った。
知佳が、美樹にアーカンベーのお返しをして、渉の隣に座った。
誠とみずきが、手を繋いで渉の隣にやって来た。
守が、声を掛けた。
「おっせーよ! どっかで、チューでもしてたんじゃねーの?」
「えっ? 見てた?」
座っていた4人が、誠を見た。
「うっそ! マジ!」
みずきが、顔を赤らめて、誠の腕を引っ張った。
「もーっ、ばか!」
渉の席から3つ空けて、誠が座り、隣にみずきが座った。
何とも言い難い距離を置いて、3つのカップルが誕生した。