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第58話 「気持ちの整理」


誠は、マンションを出ると駅に向かって走り出した。

どうして走っているのか、自分でも良く解らなかった。

ただ、自分でもどうしようもないくらいの矛盾が、心の中で暴れているのが解った。


「パァーン! パァーン!」

突然、車のクラクションが、けたたましく鳴り響いた。

信号が赤なのに、横断歩道を走りぬけようとしている自分がいた。

急に我に返り、車道のセンターラインの所で青信号になるのを待つことになった。


「いったい僕は、何をしているんだろう。」


信号が青になった。

肩の力が抜けて足取りも重く、何人もの人が脇を追い抜いて行った。


「あの鮎川瑠美が、僕のことが好きで付き合いたいと言ってるんだ。

何をためらうことが有るんだよ。

毎日のように、携帯で歌を聴き、動画だって見ている。

恋人になったらどんなに嬉しいだろうと夢にまで見たことだって有るというのに、何で僕は素直に喜べないんだろう。

みずきが居るから?

僕は、みずきのことがそれほど好きなのか?

みずきの積極的な行動に押し流されているだけ?

いーや、違う。

みずきは、本来積極的じゃない性格。

なのに、僕の為に頑張って無理をしている。

その姿に心が打たれた?

いーや、それも違う。

きっと、もっと単純に、僕は、みずきのことが好きなんだ。

ここ何日か、一緒に見たり、話したり、聞いたりしたこと。

そんなみずきを見てきたことで、僕は彼女を好きになった。

ただそれだけ。

恋愛なんてフィーリング。

考えてするものでもなければ、方程式なんて有る訳でもない。

僕は、みずきが好きなんだ。」


自分の気持ちを整理することが出来て、気分も晴れて足取りも軽くなり、いつもの自分に戻った誠だった。


「そーだ、ケーキでも買って帰ろう。」

みずきの喜ぶ顔を浮かべて、誠はアパートへ向かった。



アパートのドアを開けた。

「ただいまー。」


「お帰り! 丁度良かった。

今、グラタン出来たとこ。」


「ケーキ買ってきた。」

誠が、ケーキの箱を持ち上げて、みずきに見せると、

みずきは、誠が浮かべていた、そのままの笑顔を見せた。


「わーっ! うれしーい! 何か有ったの?」


「いや、別に。」


「うそ。何かないと、ケーキなんて買ってくる訳ないじゃない。」


「あのさー。みずきって、可愛いよな。」


「ハハッ、やっと気づいたか。」


誠は、みずきに近づき、軽く抱きしめた。


「愛してるよ。 ずっと、離さないからな。」


「ありがとう。しっかり、聞いたよ。」


みずきの瞳が、潤んだ。




いつものように朝が来て、いつものように2人は、教習所にやって来た。

そして、それぞれ実技教習を行った。


誠が、教習を終えたみずきを迎えた。

「どう? 調子は?」


「う~ん、あんまり良くないかも。」


「どうした? 具合悪いの? 帰るか?」


「あ~大丈夫。気にしないで。ちょっと、教官に怒られただけ。」


「本当か? 文句言ってこようか?」


「いいの。私が、ドジしただけだから。誠さんは、どうだったの?」


「バッチリ! 教官に何も言われなかったし、ブレーキも踏まれなかった。」


「そっか、上手く行ったんだね。」


「早く免許取って、みずきとドライブ行かないとだから。」


「どこに連れて行ってくれるの?」


「そーだなー、伊豆かなー、温泉旅行とか。」


「温泉かー、いいかも。・・・もしかして、一緒に入る気でいる?」


「はははっ、分かっちゃった?」


「ばーか。うふふっ。」


教習が終わると、駅前のスーパーで買い物をした。

店内を歩いている時に、みずきが申し訳なさそうに言った。

「木曜日に八景島に行った時に、ちょっと家に寄って貰っていいかな?

着替えとか小物とか持ってきたいんだけど。」


「別にいいんじゃない。美樹ちゃんや知佳ちゃんのそばなら、2人を家に送り届けるのにもいいし。」


「何か必要な物ってなかったけ?」


「特に無いんじゃない? それよりも、合宿の方が有るよ。」


「そーだ、合宿だった。必用な物メモっといて、さっと終わらせないと、皆を待たせちゃうね。」


「そんなに気にしなくたって、大丈夫だよ。」


「合宿に必要な物は何?」


「2泊3日するのに必要な身の回りの物と、テニスに必要な物。

それと、花火。それに、仮装道具。」


「えーっ? 仮装道具?」


「恒例で、仮装パーティーやるんだよ。面白いぞ。

あと今年は、僕は花火担当になったから、大きな花火を買っていかないと。」


「何だか楽しそうね。あたしは、どんな仮装が良いかな?」


「アニメが好きだから、ほら、あの魔法使いのサラなんて良いんじゃない?」


「えっ? それじゃー、コスプレになっちゃうよ。」


「コスプレでいいんだって。最後に一人ずつファッションショーのように歩いて、審査して優勝者を決めるんだ。ちゃんと商品も有るらしいよ。」


「誠さんは、何にするの?」


「秘密。」


「ずるい! 教えてよ。」


「ずっと前から、用意してあるんだ。もう完璧。」


「えーっ、それじゃーあたしは、今日から、頑張らなくちゃ。もっと早く言ってよ。」


「手伝うよ。そういうお店も、いくつかあるから、あした行ってみよう?」


「うん。何だか、テニスよりそっちの方が、面白そうだね。」


アパートに帰って、サークルのブログを見ると、前の合宿の模様が出ていた。

春と夏に行われていたが、花火と仮装パーティーはどちらにも有った。

みずきが思わず声を上げた。


「すごーい! レベル高っ! みんな本気じゃない。

あたし、魔法使いのサラでいいのかなー?」


「それじゃー、サラにゴリラにされた王女様とか?」


「何よそれ、結局、ゴリラじゃない。もー!」


2人は、楽しく遅くまで話し合った。


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