第53話 「みずきの味」
2人は、アパートに向けて歩き出した。
誠は、自分が気に入ってる食堂が、みずきはどう感じたのか本当のところが知りたかったので、2人きりになってから聞いてみた。
「あそこ、どうだった?」
みずきは、ニッコリしながら答えた。
「美味しかったー。誠さんはいつもあそこで食べてるんだね。なんか解るような気がする。お母さんみたいな人だよね。」
誠は、安心したように言った。
「気に入ってくれたようで良かった。安いし、ボリュームあるし、おふくろの味みたいな。色々サービスしてくれるしね。」
「あたしが、毎日料理しなくても良さそうだね。なんか助かちゃった様な気がするー。」
「みずきの料理には、みずきの味があるから、また別だからね。」
「そう云うの解るの?」
「当たり前じゃん!」
「そうなんだー・・・。」
誠は、話を変えた。
「免許取ったら、バイク買うの?」
「250のスクーターを買おうかなって思ってるの。」
「ビッグスクーターっていうやつね。」
「有ると買い物とか便利だし、夏休みが終わっても、ここにも来れるし、誠さん乗せてちょっとどこかに行くなんて簡単に出来るしね。」
「免許取って、直ぐには2人乗り出来ないんじゃなかったけ?」
「あっ、そうだっけ?」
「おいおい、免許取れんの?
そー言えば、スクーターならオートマ免許で良かったんじゃない?」
「今思えばそうなんだけど、申し込む時には、何が違うのか解んなくて、ギアの方が色々なのに乗れると言ってたから、そうしちゃった。」
「そっか、聞いてくれれば良かったのに。」
「でも、スクーター以外のも乗りたくなるかもしれないし、いいの。」
2人は、アパートに戻ると部屋に入った。
誠は、すぐにテレビをつけて、その前に座り込んで言った。。
「先に風呂入れば?」
みずきは、誠が気を使ってくれたと思い、すんなり応じた。
「うん、そうする。」
誠は、テレビに向かっていたが、頭の中では、みずきが風呂から出てきてからの事を色々考えていた。
そして、考えもまとまらないうちに、バスタオルを身体に巻いたみずきが出てきた。
「出たよー、お先に、ありがとう。誠さんも入るんでしょ?」
「あぁー。」
誠は、パンツ1枚になるとバスルームに入って行った。
みずきは、身体を拭くと、トレーナーを着て、缶ジュース片手に、テレビドラマを見始めた。
少し経つと、誠が風呂から、いつものように、何もつけずに出てきた。
「こっち見るなよ。」
「あっ! もーどうして、バスタオルとかで隠して出てこないの?」
「いつも風呂場に、持って行かないし、ユニットバスだから、湿っちゃうじゃん。」
「そーだけど・・・。あっ、もしかして、わざとでしょ?
あたしがびっくりするのを楽しんでるとか。
またはー、あたしが、その気になるのを期待したりしてるんでしょ?
・・・分かった、いいよ。しよう。
その方が、気持ちの整理もつくし、誠さんも色々と気にしないで済むでしょ。」
「えっ! でも・・・。」
「何日も泊るのに、しない方が不自然でしょ?」
「まー、そうだけど・・・。」
「こう見えても、本当は、わたし、奥手なの。
学校でも目立たないし、でも、美樹を真似して、あなたには積極的にしてきた。
占い師にあなたが運命の人だと言われたから。
けど、それだけじゃなくて、今の自分じゃダメ、このままじゃいけないと思ったからなの。だから、ここで前のあたしに戻る訳にいかないの。」
「うん、電話で美樹ちゃんに、そんなようなこと聞いた。」
誠は、みずきにキスをすると、優しく包み込んだ。
いつの間にか2人は寝てしまい、気が付くと、朝日が差し込み、目が覚めた。
みずきが眩しそうに呟いた。
「あっ、もう朝?」
誠は、みずきの身体に目を向けた。
みずきは慌てて起き上った。
「もー、明るい所でそんなに見ないでよ。恥ずかしいでしょ。」
みずきはトレーナーを着ると、顔を洗い、朝ご飯の用意を始めた。
誠も顔を洗い、いつでも出掛けられるようにした。
みずきが、台所から呼んだ。
「お待たせー。」
誠は、テーブルに付いた。
「おー、鯵の開きかー、昨日行った、まごころ食堂でしか食べてないなー。」
「あのおばさんのとどっちが美味しいかな?」
誠が、一口はしを運んだ。
「美味い! 食堂のおばさんのより美味いよ。」
「ありがとう。でも、焼いただけだし、きっとお魚自体が美味しいのよ。」
誠は、真面目なおもむきで答えた。
「違うよー。焼き方で味も変わるし、美味しい魚を選べるのも料理が上手ってことだからね。」
「褒め過ぎだよ。」
「そんなことないよ。今だけじゃないから。お弁当だって、今までの全部が美味しかったよ。」
嬉しいこと言ってくれるじゃない。あたし、お姉ちゃんに負けないように、何か一つだけでも武器になるものを作ろうと頑張ったんだ。」
「大成功だね。これで、綺麗なお姉さんに会ったとしても、僕の心は動かないよ。」
「だと、いいんだけど・・・。」
「僕が、洗い物するから、支度しちゃいなよ。」
「ありがとう。」