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第52話 「行きつけの食堂」


部屋に入ると、2人は座り込んだ。

「疲れたー。」

誠が、ため息をついた。


「あたしもー。お腹も空いたー。」

「晩飯どうしよう、何も考えてなかった。」

「今から作るのはちょっと・・・。いつもはどうしてるの?」

「近くの食堂で食べてるんだけど。」

「それじゃーそこ行こう?」

「いいけど、洒落たとこじゃないよ。」

「別に、そんなの気にしないし、返って、誠さんがいつも行ってるとこ、行ってみたい。」


2人は、少し休むと、部屋を出て5分ほど歩いた。


すると、のれんに「食堂・定食」と書かれた小じんまりした食堂があり、誠は、慣れた感じで入った。

みずきは、お店の前で立ち止ると、一瞬全体を眺めてから入った。


「いらしゃーい!」

お店の奥さんが、元気な声で迎えた。


誠は、みずきが一緒のせいか、少し抑え気味の声で言った。

「どーも。」


2人は、テーブルに着いた。

すぐに、お店の奥さんが水を運んで来た。

「あら、今日は、可愛い子と一緒じゃない。もしかして野田さんの彼女?」


誠は、少し焦って答えた。

「ええっ、まー。」


お店の奥さんは、他に客が居ない事もあり、興味あり気に話を続けた。

「あんまり可愛いから、女優さんかと思っちゃったわよ。」

「えー、そうですか?」

「ちゃんとプロのお化粧したら、そこいらのアイドルなんかより、ずっとスターらしいわよ。」


みずきが嬉しそうに、誠に言った。

「だって、誠さん!」


みずきと店の奥さんが、顔を合わせて、笑った。


みずきが、立ち上がって、店の奥さんに軽く会釈をした。

「橘みずきと言います。」


「みずきちゃん、よろしくね。野田さん、いつも1人で来てるから、こんな可愛い彼女がいるとは、全然思わなかったわよ。」


誠が、言い訳するように言った。

「つい最近知り合って、付き合い始めたばかりだよ。」


「あら、そうなの。野田さんの良い所が解るのには、時間が掛かると思ったから

もっと前から知り合っていたのかと思っちゃったわよ。」


みずきは、お店の奥さんの言った事に、つい反応してしまった。

「えーっと、すいません、どういうことですか?」


「野田さんって、こう言っちゃ悪いけど、ハッキリしない所が有るでしょー。

悪く言えば、自分の意見を持ってないって云うか、力強さが無いって云うか。」


「うん、そうそう、有る有る。」

みずきは、首を大きく縦に振りながら言った。


「でも、それって、野田さんの優しさなんだよね。あんたみたいな若い子は、グイグイ強引に引っ張って行くような男が男らしく見えて、好きになるもんだけど、何度か恋を経験した女は、野田さんの良さが解ってくるんだよ。自分はさて置き、相手の気持ちを優先する。相手が喜ぶことをしてあげたい。相手の笑顔が自分の幸せのような気持ちを持ってるんだよ、野田さんは。だからね、それが解るには、みずきちゃんは、ちょーっと、若いのになーって、びっくりしたんだよ。」


みずきは、お店の奥さんの言った事に納得した訳ではなかったが、同じような事に気が付いてる人が居ることに嬉しくて、笑顔で答えた。

「ハハハハッ! ちゃーんと解ってますよ! こう見えても、恋に涙したこと、何度も有りますから。さっきも、ハッキリしない誠さんに、カツ入れたんですよ。」


みずきの少しオーバーな言い方に、笑いながらお店の奥さんが答えた。

「そうかい、頼もしいねー。」


誠は、2人の会話に耳が痛くなった。

「もう止めてよ、そんな話。今日は、中華丼にしようかな。」


みずきは、壁に張られたメニューの短冊を見て言った。

「あたしは、クリームシチュウ定食にする」


「はい。少し待っててね。」

お店の奥さんは、ニコニコして言うと、厨房に入って行った。


みずきが、誠に小声で言った。

「誠さんのこと、解ってるのね。何だか羨ましいなー。」



15分くらい待ってると、料理が運ばれて来た。

「はーい、お待ちどうさま。」

「わぁー美味しそー。杏仁豆腐まで付いてる。700円でいいんですか?」

「大して美味しくないから、いいのよ(笑)。」


誠が、笑いながら言った。

「いやいや、美味しいよ。何頼んでも、そこいらのレストランより美味しいよ。」


お店の奥さんが、嬉しそうに言った。

「そーかい? そう言ってくれると、うれしいねー。」


2人は、木曜日の八景島計画を話しながら食べた。


そして、食べ終わると立ち上がり、レジに向かった。

「ごちそうさま。」


お店の奥さんが、レジに来て、「はい、600円と700円で1300円ね。」と言うと、

誠は、財布から1300円を出した。


後ろで、財布を出そうとしているみずきに「僕が出すからいいよ。」と言いうと、

「でも色々出してもらってるし、悪いわ。」とみずきが、気にした。

「いいよ、本当に。」

「そうー、ありがとう。」


みずきが、お店の奥さんに、にっこりして言った。

「ごちそうさま。とっても美味しかったです。」


お店の奥さんも嬉しそうに答えた。

「お粗末様ね。また来てね。」

「はーい。」


歩き出すと、みずきは、誠の腕に手を回した。

「やっぱり、お母さんの味っていいね。」

「毎日食べてんだろ?」


みずきは、返事をしないで、空を見て言った。

「明日は、雨かもよ。」


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