第50話 「相違」
2人は、教室で学科教習を受けたり、食堂で食事をしたりして、2時まで一緒に過ごした。
「みずき、どーする?」
「何が?」
「何がって、これから。」
「何て言わせたいの?」
「いや、別に。」
「なんか、ずるくない?」
「そうかなー。」
「そういうハッキリしない所、嫌い。」
「・・・・・。」
「優しさの裏返しなのかもしれないけど、自分の気持ちで突っ走るのも必要だと思うよ。俺に付いて来いみたいな。男らしさとでも云うのかなー。」
「でも、そう言うことは出来ても、それは、本当の僕じゃないよ。僕は、その人が、どうしたいかを優先させたいんだ。無理やりさせるのは、好きじゃない。」
「だったら、どうして、私に家に帰るように言ったのよ。」
「それは、社会常識やルールってもんがあるだろ?」
「恋愛には、そんなもの無いとは思わない?」
「高校生なのに、ひと月一緒に住むって云うのは、駄目だと思わない?。」
「半年後に卒業したら、いいって云うこと?」
「学生同士ではあまり良くないと思うけど、最低線はクリア出来るのかなって。」
「なんか、たった半年のことなのに、おかしいよ。」
「日本の社会って、そんなものだと思うよ。20歳になった途端に、急に色んな事が良くなるし。」
「つまりは、世間体ってことなのね。そして、それを破れるほど、誠さんは私を好きじゃないって云うことなのね。・・・分かった。でも、何でまた、私にこれからどうするなんて聞いたのよ。夜、私が居なくて寂しくなった? そんな訳ないか・・・。」
「それは、・・・。」
「分かった! 美樹か知佳に何か言われたんでしょ。絶対そうだ!」
みずきは、誠の顔を覗き込んだ。
2人の目と目が合い、数秒後、誠が先に視線をそらした。
「実は・・・、昨日、美樹ちゃんから電話が有って。みずきが今までに無いほど、頑張ってるから、分かって欲しいと言われた。」
「やっぱり! ・・・で、それだけ? もっと色々話したんでしょ?」
「そんなことないよ。一方的に話して、直ぐに切れたから。」
「そうー。 ・・・私のお姉ちゃんの事とか言わなかった?」
「あー、今まで好きになった人は、みんなお姉さんに横取りされたとか言ってたかな。そんなにお姉さんって、モテモテなの?」
「まーね。」
「一度会ってみたいな。」
「ほらーっ、もうそう云う気持ちになっているでしょ?」
「なるほど、これで僕はお姉さんに興味を持ったわけかー。」
「そういうこと。」
「でも僕は大丈夫だよ。みずきのいいところが、解ったから。」
「今までの人も、みんなそんなこと言ってたわ。」
「僕って、信用ないんだな。」
「信用ないんじゃなくて、普通の人は、お姉ちゃんの方が好きになるってこと。」
「でも、そんなに何人も横取りされたということは、長続きしてないってことなんだよな。もしかしたら、みずきの彼氏になろうとする奴を、取ることが目的なんじゃないの? 逆に、みずきの方にばかり男子が集まって、嫉妬してるとか。」
「えーっ!まさかー。そんなこと考えたことなかったわ。お姉ちゃんは私よりも綺麗だし、勉強も出来るし、才能もあるし。でも云われてみれば、家に友達連れてきたことも無いし、男子と遊んでいるのも見たことなかったかな。」
「ほらー、案外辛い思いしてるのは、お姉さんの方だったりして。」
みずきは下を向いて、昔を思い出そうとしているようだった。
「そうだったのかな・・・、いいえ、そんなはずない。どっちにしても、それは、昔の話。今は、全然違うんだ。モテにモテまくってるから。」
「どんな人か、ますます会いたくなっちゃった。ちょっと挨拶ぐらいなら・・・。」
「ダメー! 絶対にダメー!」
「チェ、なんだよ。 そこまで言わなくても。」
みずきの動きが止まった。
「あたし、今、凄く嫌な女だよね。きっと、男の人は、こんなところに気付いて、離れて行くんだね。」
「そんなことないさ。」
誠は、財布の中の百円玉を掴んで、手を突き出した。
「じゃー、これ、電車代。」
みずきは、誠が突き出したグーの手の下に、両手を広げた。誠が手を開けると、百円が7個、みずきの手の平に落ちた。しかし、みずきは、手を見ることなく、誠の目をずっと見つめていた。誠は、それが分かっているのか、手の方をずっと見ていて、みずきと目を合わさないようにしていた。
誠は、時計を見ると、思い出したように言った。
「そろそろ送迎バスの時間だ。行こうか。」
「そうね。」
「来週は、教習の予約は入れないようにしてくれよ。合宿の予定表は明日渡すよ。」
「うん、分かった。でも、みんなとは、遊ばない?」
「そうだなー、今週は、教習の予約入れてるんだろ?」
「うーん。でもさー、木曜日、教習所が休みじゃない?」
「そっかー、忘れてた。それじゃー、木曜日に会おうか。」
「そうしよう。土田さんや水越さんに都合聞いてみて。美樹と知佳にも聞いてみる。」
「OK。今からメールしてみるよ。」
2人は、送迎バスの中で、メールを始めた。
直ぐに返事が返って来たのか、みずきが誠の顔を見た。
「美樹から返事が来た。 大丈夫だって。」
話してる間に、みずきの携帯がまた着信した。
「知佳も大丈夫だって! そっちは?」
「まだだよ。ふつう、そんなに直ぐ返信来るはずないじゃん。」
「そうなの? それじゃーどのくらいで来るの?」
「それはー、人それぞれでー、1時間後だったり、3時間後だったり、半日や、次の日だったり。」
「えっ! 次の日? それじゃ、返事より先に、会うかもしれないじゃない。」
「まー、会ってからの返事ってのも、有りかなー。」
みずきが、意外そうな表情をして言った。
「うそーっ。ケンカになったりしないの?」
「別に。急ぎの時は、メールじゃなくて、電話にするし。」
「なら、今、電話してよ。ハッキリしないとみんな動けないじゃない。」
「分かったよ。バスから降りたらするよ。」
誠の携帯に着信があった。
「あっ。渉からだ。大丈夫だってさ。」
「あとは、土田さんだけね。一番大事な人じゃない、彼が駄目だと車も無しになっちゃうし、って言うか、みんな揃わないと、行かないか・・・。」
その時、誠の携帯に着信があった。
「あっ。守からだ。大丈夫だって。」
「良かったー。みんなに決定のメール入れなきゃね。」
「あっ! ランボルギーニが届いたから、今から見に来いだって。」
「私も、見たーい!」
「じゃー、一緒に行く?」
「行くー!」