表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/96

第47話 「握手」


誠はソファーに座ると目の前のテレビに目をやった。

「大きなテレビですね。50インチくらい?」


瑠美は、振り向くと答えた。

「そう、50インチ。映画が好きでよく見るの。大きな方がのめり込めるしね。何か見てみる?スターウォーズなんか好き?」


誠は、ニッコリした。

「好きです。瑠美さんもそういうの好きなんですか?」


瑠美は、リモコンを持って操作した。

「私は、ジャンル問わずに何でも見るわ。」


大画面に、宇宙船の戦闘シーンが現れた。

誠は、目が覚めたように興奮した。

「すごい! すごい! 音も全然違う!」


瑠美が嬉しそうに聞いた。

「分かるの?」


誠のテンションは上がっていた。

「うん。映画館みたいですよ。」


瑠美が得意げに話した。

「最新の7.1CHなんです。音には、ちょっと凝っちゃったんです。

一応ミュージシャンですからね。

色んなアーチストのライブ映像とか見て勉強にも使ってるの。だから、仕事の機材として事務所に買ってもらっちゃたんです。」


誠は、大画面にくぎ付けになった。

「これなら、映画館行かなくてもいいね。」

「映画館に行きたくなったら、ここに来ることにする?」

「いいですね。そんなこと出来たら。」

留美は、いたって真面目に聞いたが、誠はリップサービスとしか思っていなかった。


「丁度色紙が有ったから、サインしますね。10枚でしたよね。」

「すみません。有難うございます。それと、写真も撮らせてもらっても良いですか?」

「はい。構いませんよ。私も記念に撮らせてくださいね。」


2人は、写真を撮り合って、まるで恋人のような雰囲気になった。

チャイムが鳴り、デリバリーの中華料理が届くと、その種類に誠が驚いた。


「えっ! こんなに頼んだんですか? 5人分は楽に有りますよ。」

「そう言わずに、好きな物どんどん食べて! こんなことでしかお礼できないから。」


「お礼なんて、もう十分ですよ。」

「あの時も、今日も、痛くて動けないのに、誰も声を掛けてくれない不安。何人も横を通り過ぎて行くのに、みんな見て見ぬふり。あの時の気持ちを思ったら、こんなお礼じゃ、足りないわ。何か他にお礼が出来ることが有ったら言ってみて。」


「ほんとに、そんなのいいですよ。」

「欲しい車とか、バイクとかは?」


「また、そんな高い物。冗談だか本気だか分からないじゃないですかー。」

「じゃー、時計とか服とかは?」


「物は、別に要らないですよ。」

「えっ? 物じゃいもの?」


「そういう意味で言ったんじゃなくて・・・。

 それじゃー、ライブの最前列に招待してください。6人分。」

「そんなことで良いんですか?」


「はい。一度、最前列で見たかったんです。」

「分かりました。ツアーファイナルが、10月28日に、武道館で有るので、そこで何とか手配します。」


「やったー!」

誠は、無邪気に万歳をした。

「そんなに嬉しいですか?」


「当り前じゃないですか。一番前なんか絶対に手に入らないですよ。オークションなんかだと、10万円でも買えないですから。」

「そうなんだー。」


「そうなんだーって、知らないんですか? みんな大変な思いをして、チケット取ってるんですよ。」

「でも、私としては、全員が平等に定価の8000円で買ってほしいな。」


「無理だって。瑠美さんみたいに、超人気の人は、すぐに売り切れちゃうから。」

「ライブには、よく行くんですか?」

「今は、瑠美さんのだけかな。」


2人は、その後も、会話が弾み、多過ぎると思われた料理も、大半を食べていた。

時刻も遅くなり、誠も、そろそろ帰ろうとした。

「足の具合は、どう?」


「うん。お陰で、痛みは引いたみたい。もう直ぐマネージャーが来ると思うし。今日はありがとう。メールくれると嬉しいなー。」


2人は、玄関まで歩くと、誠は下を向いて靴を履いた。顔を上げると、瑠美が握手を求めて手を伸ばしていた。

「じゃー、気を付けて帰ってね。」


誠は、慣れないことで少しちゅうちょしたが、手を伸ばして、瑠美の柔らかな手の感触を感じた。

「それじゃー。」

「あっ!それと、これ、少ないけど、タクシー代とお礼。」


瑠美の手から、5万円が差し出された。

「いいですよ。駅も近いし、まだ電車で帰れますから。」

「そう云わないで。色々困らせちゃったし、タクシー使って帰って。」


「じゃー、折角だから、1万円だけタクシー代頂くね。」

「えっ、でも・・・。」


「いいって、これで十分です。じゃー。」

「メールしてね。また、遊びに来てね。」

「はい。」

「きっとよ!」

誠は、笑顔で玄関を出て行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ