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第46話 「瑠美の自宅」

誠が、マンションを見上げながら言った。

「このマンションですかー。上の方は眺めがよさそうですね。留美さんは何階ですか?」


瑠美が、指を差しながら答えた。

「あの辺かな?24階なんですけど、また、おぶってもらって良いですか?」


誠は、「えっ!」と言う顔をして、瑠美の顔を見た。

「良いですけど、部屋がどこだか分かってもいいんですか?」


瑠美は誠に警戒心など微塵も無かった。

「いいの。野田さんは、悪い人じゃないから。」


誠は、瑠美に背中を向けてしゃがみ込むと言った。

「じゃー部屋まで、どうぞ。」


瑠美は、喜ぶように背中に乗った。

誠は、背中に瑠美を感じた。

「この感じ、なんだか懐かしいな。もう二度と無いと思ってた。」


直ぐに、瑠美が言った。

「私は、必ずまた会えると思ってたわ。」


誠は、お決まりのジョークを口にした。

「前より、重くなったんじゃないですか?」


すぐに瑠美が、にこやかに反応した。

「何よー、そんなことないですよー。」


エレベーターに乗ると、瑠美は自分で立った。

「足首に体重が掛かると、痛くて立っていられないや。」


マンションのエレベーターにあまり乗った事の無い誠は、気になったことが有った。

「夜のエレベーターって怖くないですか? 変な奴が一緒に乗るかもしれないし。」


瑠美も日頃気になっていた事なので、気が付いてくれた事が少し嬉しかった。

「そうなの。いつも気にしながら乗ってる。たまに、酔っぱらった人と一緒になって、変な目で見られたりして、怖かった時もあったわ。エレベーター出たら右ね。」


誠は、再び瑠美をおぶった。そして、24階に着きドアーが開くと右に進んだ。


部屋の前まで来ると、誠は瑠美を背中から降ろした。

「それじゃー、僕はこれで・・・。」


後ろを向こうとする誠に、瑠美は慌てて声を掛けた。

「あっ、ちょっと何か食べて行って、約束だから。それに、連絡先も交換してないし、このままじゃまた会えなくなっちゃうわ。」


誠は、後ろを向こうとしていた身体を止めて、瑠美の方を見た。

「えっ? 本当に、良いんですか?  でも、2人だけでしょ? 僕のこと、信用して良いんですか?」


瑠美は、ショルダーバックに手を入れて鍵を探しながら答えた。

「下心のある人はそんなことは、言わないだろうし、もしその気なら、ここに来るまでにそういうチャンスは有ったし、第一、あなたがそんな人でないことは、私は分かっているから。もう少しお話ししたいし、どうぞ入って。」


瑠美は、鍵を手にするとドアを開いて、誠を招き入れた。

「さぁー、どうぞ。」


誠は遠慮しながらもドアを開いてくれている瑠美の前を通り中へ入った。

「お邪魔しまーす。」

留美をおぶっている時もそうだったが、玄関に入ったとたんに、とてもいい香りがした。


誠の後を瑠美は、ドアに手を着きながら入った。

「どうぞ、そのまま進んで奥のソファーに掛けて。飲み物は、何がいいかしら?ジュース、ウーロン茶、それともビール?」


誠は、ベランダのガラス越しに外を眺めて言った。

「それじゃー、ウーロン茶で。でも、やっぱり、いい眺めですね。」


瑠美は、壁に手を着きながら、誠の隣に立つと一緒に外を見た。

「私も、みなとみらいの景色が好きで、ここにしたの。ほら、観覧車も綺麗でしょ。」

「横浜港って良いですね。こんな所に住んでみたいなー。」

「気に入って貰えたなら、いつでも来てもいいよ。事前に連絡くれればね。」


誠は、一瞬、ドキッとした。

「また、そんな冗談を。」


瑠美は首を振った。

「冗談なんかじゃないよ。メルアド交換しよう?」


誠は呆気に取られた。

「えっ? マジで?」


瑠美がマジ顔で携帯を手にした。

「うん。マジで。住所も教えて。」


誠は頭を傾けた。

「いいけど。どうして?」


瑠美はニッコリしたまま続けた。

「どうしてって、・・・どうしても。」


誠が少しふざけて言った。

「まさか、僕に惚れたとか?」


瑠美は、携帯に向けていた顔を上げて、誠の目を見た。

「うん。惚れた。」


4~5秒、2人は見つめ合った。


と、急に瑠美が、笑い出した。

「ジョーダンだよ! 冗談!」


誠の緊張が取れた。

「あーびっくりした!一瞬、本気にするところでしたよ。まー、有り得ないけどね。」


その言葉に、瑠美が喰いついた。

「どーして? どーして有り得ないの?」


誠の笑顔が消えた。

「だって、超人気の歌手と、二流大学の平凡な学生ですよ。」


瑠美の目の色が変わった。

「そんなの理由にならないと思うけどな。大事なのは本人の気持ちだよ。」


誠は、一体何を言い出すんだ、のような顔をした。

「そんな真剣な顔で言うと冗談に聞こえなくなるんですけどー。」


瑠美が少しムッとした感じで言った。

「そう。それならそれで、別にいいよ。」


誠は、瑠美が何をそんなに気にしてるのか分からなかった。

「でも何だか嘘みたいだよなー。僕があの鮎川瑠美さんの自宅で、2人きりなんて。

誰も信じないよ。」


電話番号とメルアド、それに住所までも交換した誠は、何か裏が有るんじゃないかと素直には喜べなかった。

それとは反対に、誠の連絡先を手に入れた瑠美は、足の痛みも忘れて気分も上々になっていた。


「そうそう、お腹が空いていたのに、ごめんなさい。何が食べたい?

デリバリーだから、大したものは出せないけど。」

そう言って、何店かのメニューを出して、誠に渡した。


「んー、それじゃー、中華丼で、お願いします。」

「遠慮しないで、ステーキとかでも良いんですよ。」

「中華が好きなんです。」

「そうですか。中華ですか。でも、中国料理に中華丼って無いんですよ。」

「えっ! そうなの?」

「はい。それじゃー私も、中華で何品か頼みますから、一緒に食べましょう?」


留美は、電話をすると、何品目も2人分とは思えないほど注文した。

それを聞いていた誠が、思わず言った。

「そんなに沢山注文して、食べきれないですよ。」

「後で、マネージャーも来て食べると思うから良いんですよ。」


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