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第44話 「奇跡の再会」


誠が、眠りについた頃、携帯が鳴った。

守からだった。

ゼミ仲間の前川敦が、実家のある名古屋で運転中に交通事故を起こして入院したので、ゼミの仲間で恋人の松本由香と車で、名古屋の病院まで見舞いに行っていたというものだった。


夜帰って来た守は、誠の部屋に明かりが点いてるのを見て、電話をしてきた。

「もしもし、誠? ゼミの前川が実家で車を運転してて事故に遭って、入院したと聞いたんで、由香と車で、名古屋まで見舞いに行って来んだ。昨日何度も電話したんだけど、電源が入ってないか電波の届かない所とかで、繋がんなかったぞ。一緒に行こうかとも思ってたのに。」


「ゴメン。みずきとちょっと喧嘩しちゃって、携帯全然見てなかったから、電池が切れていたのに気が付かなかったんだ。それで、前川は大丈夫なのか?」


「飛び出した子供をよけてセンターラインを越えて来た対向車に、前川の車が衝突したみたいなんだ。右足の膝の下辺りを骨折して、頭も打っていて入院してるよ。」


「そっかー、結構酷いなー。病院はどこ?」


「名古屋市内の牧野総合病院。名古屋駅からバスも有るけど、タクシーで15分くらい。」


「名古屋かー、遠いなー。」


「せっかく実家に帰ってのんびりしてた筈なのになー。事故なんていつ起きるか解らないな。誠が一緒だと思ってたみたいで、居なかったからがっかりしたような顔してたぞ。渉は、今週は都合悪いから来週行くって言ってた。」


「そっかー、僕は明日、行ってくるよ。教えてくれてありがとう。」

「ん、奴も喜ぶよ。気を付けてな。」


誠は、ゼミの仲間の前川が入院する病院に一人で見舞いに行くことにした。

安く済ませようと考えて、往復とも在来線でのんびり行こうと考えていた。

しかし、調べてみたら、時間がかかり過ぎて無理なので、仕方なく新幹線を使うことにした。


思わぬ出費に、貯金を下ろすことになったが、すんなりと病院に着いて、思いのほか元気だった前川に会うことが出来て安心した。

「前川! こんな所で、何やってんだよ!」

「おーっ! 誠! 来てくれたんだ!」

「当たり前じゃんか! どんな具合よ?」

「それがさー、右足骨折しちゃって、頭も横の窓枠にぶつけて、きのう検査だったんだ。」

「異常ないんだろ? もしかして、逆に頭が良くなってたりして。」

「そーなんだよ! 見えない物が見えるようになっちゃってさ。ほら、誠の後ろに居るかわいい女性、鮎川留美だろ?」


誠が慌てて、振り向いた。

「ジョーダン、だよ。 冗談。」

「びっくりさせんなよ。」

「あの慌てっぷり。よっぽど、鮎川留美が好きなんだな。」

「そんなことないよ。びっくりしただけ。」

「俺も、鮎川留美をおんぶしてみたいよ。」

「それで、事故はどんな風よ。相手が悪いんだろ?」

「おー、聞いてくれよ。反対車線側だけど、子供が飛び出して、それを避けるのに対向車が、センターラインを越えて、俺の目の前に出てきちゃって、俺も避けようとハンドル切ったけど、間に合わなくて、ほぼ正面衝突。車は、前がペシャンコ。足がダッシュボードとハンドルに挟まれて、出れなくなってさ。レスキュー隊が、目の前で、電動ノコで俺の大事な車を切り始めて、参っちゃったよ。助け出されてから、足が酷く痛くて、レントゲン撮ったら、右足が折れてたよ。頭も横にぶつけて、首も痛くてさ。車は全損。警察は、怪我がこれくらいで済んで、奇跡だって言ってたよ。」

話は弾み、2時間があっという間に過ぎて、帰りの予定の時刻になった。


新幹線に乗り、鮎川留美の音楽を聞いて楽しんでいるうちに、新横浜駅に着いてしまった。

ホームに立つと左右を眺めて出口を確認した。割と人も多く、流れに呑まれながら歩き出した。


階段を降りようとして下を見たとき、少し降りたところで、若い女性いが座り込んで足を押さえていた。

横を通過する人たちは、そんな彼女に気付いているはずだが、誰一人として声を掛ける者は居なかった。

今の世の中、みんな自分の事だけで精一杯で、余計な事に係わりたくないんだなーと、勝手に思いながら、誠は階段を降りながら女性に近づいた。


誠は腰を落とすと、何のためらいも無く声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

「すみません。転んでしまって、痛くて立てないんです。」と、うつむきながら足をさすっていた女性が、誠の顔を見上げて答えた。


誠は、彼女の顔を見て、驚きのあまり息を呑み込んだ。

彼女もまた、「あっ!」と、思わず声を出してしまった。


一瞬、見つめ合った後、同時に

「鮎川瑠美さん?」

「野田誠さん?」と、驚きの声を発した。


座り込んでいた女性は、なんと鮎川瑠美だった。

「野田誠さんなのね! ずっと気に掛けていたんですよ。」

驚きの表情が治まらないまま意外な事を言われた誠は、声が震えた。

「えっ?僕をですか? どうしてですか? あっ!それより、足は大丈夫ですか?」


一方、鮎川瑠美は、心に思っていればこんなことも有るんだと、にこやかな表情になった。

「動かさなければ痛くはないんですが、立とうとすると痛くて・・・。

でも、すっごい偶然。こんなところで会うなんて。

あの時の事覚えてますか?

あの後、病院から戻って、やっぱりきちんとお礼しなきゃと思い、ホテルのフロントであなたの事を聞いたんですが教えてもらえなかった。当たり前なんですけどね。手掛かりも無く、半分諦め掛けてたんですけど、まさかこんな所でまた会えるなんて。」

誠もずっと心に引き摺っていた事なので嬉しかったが、そんなことを口にすることは出来なかった。

「今は、そんな話じゃなくて、どうにかしないと・・・。駅員呼んで来ますよ。」

腰を落としていた誠が立つと、鮎川瑠美は慌てて声を出した。

「待って! 行かないで。また、このまま会えなくなりそう。」

誠は困った顔をした。

「でも、こうしてても・・・。」

鮎川瑠美がすぐに答えた。

「どこか腰掛けられるところまで、また、おぶってもらえませんか? 

あ~、駄目ですよね~、都合のいいこと言ってすみません。

あの時の事を思い出しちゃってつい。」

誠もすぐに答えた。

「いや、別にいいですよ。でも、腰掛けているだけじゃ治らないですよ。医者に診てもらわないと。」


鮎川瑠美は、携帯電話を取りだした。

「マネージャーに電話して来てもらいます。それまで一緒に居てもらえませんか?」

誠は少し曇った顔をして言った。

「一緒に? マネージャーさんは、すぐに来るんですか?」


鮎川瑠美は、マネージャーに電話をした。

しかし、ちょっと話をすると、表情が暗くなった。

「どうしようー。すぐに来れないって。今日、大阪での仕事が終わって分かれたんですけど、明日が休みだから、京都見物をしていて、まだ京都に居るんですって。

急いでも4時間くらい掛かるって。どうしよう・・・。」


誠が答えた。「やっぱり、駅員さんに言って、救急車を呼んでもらいましょう。早く病院に行った方がいいですよ。」

鮎川瑠美は、携帯電話を手にしたまま考え込んだ。

「でもー・・・。」

仕方ない感じで誠が言った。

「僕が、病院まで付き添いますよ。」

一瞬ニコッとして鮎川瑠美が言った。

「本当ですか? うん、それならいいかな。」

誠は無表情で答えた。

「じゃー、駅員を探して来ます。」

「お願いします。でも、絶対に戻って来てくださいね。」

「はい。」と言うと、誠は駅員を探しに行った。


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