第43話 「知佳の家」
3人は、知佳の家へ向かった。
知佳が、玄関ドアを開けて、2人を招き入れた。
「ただいまー。みずきと美樹も一緒だよ。」
みずき・美樹「お邪魔しまーす。」
奥から知佳のお母さんが現れた。
「あら、いらっしゃーい!」
3人は、知佳の部屋に入って行った。
知佳の部屋は6畳の洋室で、ベッドや家具はビルトインになっていたので、さほど狭くは感じなかった。
知佳の父は一流企業に勤めていて、40坪ほどの一戸建てを昨年購入した。
知佳は一人っ子で、割と色々な物を買ってもらえて、部屋にはそれらの物が置かれていた。
美樹の目がテレビに止まった。
「このテレビ大きいよね。わたしんちのより大きいよ。」
みずきも美樹に同感だった。
「ほんとだ、いつ買ったの?」
「この前の日曜日に届いたの。42インチだったかな。」
みずきは、知佳が羨ましく思えた。
「知佳は、何でも買ってもらえていいなー。」
「そんなことないよ。」
美樹が間髪入れずに言った。
「そんなことあるわよ。パソコンにブルーレイレコダーでしょー、カバンだってブランド物だし。洋服だっていっぱいだしね。来る度に何か増えてるもん。」
「でも、それって物でしょ。美樹やみずきには、彼氏がいるじゃない。」
美樹は、それは違うと言いたげだ。
「そーね。でも、今は、いないわ。いるといたで色々と大変だし、いない方がいいとも思ったりもする。」
「でも、やっぱり欲しくなるんでしょ?」
美樹は返事に困った。
「で、みずきは、どーなの?」
「どーなんだろう? 自分でも解らない。でも、ちょっと疲れちゃったかな。」
美樹が心配そうに聞いた。
「一体何があったの?」
「んー・・・、私の携帯を勝手に開いて、美樹からのメール読んだの。」
美樹が眉間にしわを寄せた。
「ゲゲッ、最低じゃん。」
「でもないの。反対する彼に無理に泊めてって、私が言ったのが悪かったの。
親から電話が来たら帰るなんて言ったから、私の携帯が何時鳴るか気にしてたんだと思う。
だから、鳴り出した私の携帯が親からだと思って手にしたら、美樹からのメールで、気になって読んじゃったの。このことは、もう仲直りしたんだけど。このことで、何だか溝が出来ちゃったというか・・・。自分らしくない付き合い方をしていたから、疲れちゃったというか。」
知佳が、不思議そうな表情で言った。
「仲直りしたのに、上手くいってないなんて、よく分からないなー。」
美樹は、みずきが自分の真似をして積極的に行動したのが原因だと思った。
「みずきは、私の真似しちゃダメなんだよ。私は、あんまり深く考えないで、フィーリングで事を運ぶけど、みずきは、キスもなかなかしないタイプでしょ。それなのに、いきなり同棲したいみたいなのは、有り得ないわよ。今まで平穏に暮らしてた身体がびっくりしちゃって、上手くいく訳ないよ。」
みずきは、誠とはどんな形で付き合っても結ばれる運命の人だと信じていた。
「そうかなー。でも、占いでしっかりと、運命の人だと言われたんだけどなー。」
知佳は、一方的に決めつける占いがあんまり好きではなかった。
「占いが、100パー当たる訳じゃないし。自分の気持ちを大事にした付き合い方をした方がいいよ。」
美樹が、びっくりした。
「おーっ! 知佳がそんなこと言うとは。いつの間に成長していたんだい?」
みずきが、すっきりしたような表情になった。
「そっか、知佳にもそう見えてたんじゃ、美樹のまねしたんじゃダメなんだね。
分かった、やっぱり同棲するのは止めた。でも、毎日通うとお金掛かるんだよねー。」
美樹が、身を乗り出した。
「まこっちに出させればいいじゃん。」
「まこっち?(笑)えーっ?彼はお金持ってないよ~。」
「みずきのことが好きなら、何とかして出すよ。でなきゃ、会えないんだから。」
「会わなくったていいって言われたら、どーしよう。」
知佳が恋愛経験が乏しいのに言い切った。
「強気にならなきゃだめだよ。
私達には、いつも強いんだから、同じようにすればいいんだよ。」
「でも彼が、本気で私のこと好きなのか分からないもの。」
知佳が、不思議そうな感じで言った。
「付き合ってて、分からないの?」
美樹が、みずきが考える間もなく言った。
「知佳、それは、みずきには無理だって。経験積んでる私だって、分からないつーか、自信ないもん。恋愛なんて、そういうもんかもよ。」
「そんなものなのかなー。」
美樹は、落ち込んでいるみずきを元気づけるには、みんなで会った方が良いと思った。
「ねー、今度、6人でどこか行こうよ。みんなで楽しく過ごせば、上手くいくって。」
守に会いたいと思っていた知佳がすぐに同意した。
「賛成。」
みずきは、用心深げだった。
「どこかってどこよ?」
美樹は、パッとは思いつかなかった。
「そうねー、知佳はどこがいい?」
「八景島シーパラとか?」
美樹は、自分達が遊びなれているので都合が良いと思った。
「いいかも。みずき、誠さんに話してみてよ。」
みずきは、何で私が?と思った。
「ほんとにー? 誠さんのことで悩んでる私が?
私のことよりも、美樹や知佳が遊びたいんでしょ。」
美樹は、笑ってごまかすしかなかった。
「だから、みんなで、パーッと遊べば、悩みなんか吹っ飛んじゃうよ。」
その後、知佳のお母さんが夕食を用意してくれて、3人のおしゃべりは夜10時まで続いた。
美樹は家に帰ると、みずきの事が酷く気になって、誠に電話をしてみた。
電話に誠が出ると、緊張して一方的に話してしまった。
「夜分にすみません。今日、みずきと話してたら心配になって、電話をしてしまいました。
みずきは、誠さんのことをずっと考えて悩んでいるんです。
あのー、みずきは、きっと誠さんが思ってる、いいえ、それ以上の気持ちで、誠さんに接しているんです。
みずきは、本当は、まじめでおとなしいタイプの子だから、自分から好きだとか、付き合ってほしいだとか絶対に言わない子なんです。だから、今までいつも好きになった人はお姉さんに取られて、悲しい思いをして来たの。だけど、誠さんだけは取られたくないと、告白したし、すごく無理して誠さんのうちに泊めて欲しいって言ったんだと思います。今度だけはと、懸命に頑張っているんです。それだけ誠さんのことが好きなんです。色々なことに無理して、自分でも訳が分からなくなって居るんだと思います。解ってあげてください。お願いします。」
誠は、あっけに取られて、聞いているだけだった。
気が付いてみると、電話は既に切れていた。
落ち着いて、美樹に言われたことを思い出しては、眠りに落ちるまで考えていた。
「僕だけは、お姉さんに取られたくない? どういうこと?
お姉さんに会った事も無いのに?」