第40話 「ケンカ」
少し赤い顔をした誠は、みずきの前に立って言った。
「さぁー、帰ろうか。疲れただろ。」
みずきは、少し酔った誠に違和感を感じながらも答えた。
「ちょっとね。初めてのことばっかりだったから。」
「初めてのことか・・・、そう言えばテニス、割と上手いんだな。」
みずきは、褒められて、嬉しくなった。
「少し見直した?」
誠は、歩き出しながら言った。
「少し、びっくりした。」
みずきが、誠の後ろから腕を掴んで歩き出した。
「びっくりと言えば、誠さんがあんなにテニスが上手なんて、本当にびっくりだよ。」
誠は、テニスのことについて言われると、表情が硬くなった。
「やりたいことも、やらないでそれなりに頑張ったから、その分少しは出来ないとな。」
「本気で、またやればいいのに。どうして、止めちゃったの?」
何かを考えたかのように、少し間をおいて誠は答えた。
「色々有ってさ。」
「話したくないのね。ごめんね、余計なこと言って。」
みずきは、食材が無い事を思い出した。
誠が良く利用する、深夜まで営業しているスーパーが帰り道に在った。
2人が買い物をして帰ると、11時を過ぎていた。
誠が、手慣れた感じで、浴槽にお湯を張り始めた。
「疲れただろう。先に風呂入って、寝ちゃいなよ。」
「うん。ありがとう。」
みずきは、30分程で、バスタオルを身体に巻いて出て来た。
「お先に。ありがとう。」
誠は、みずきの姿が、目に入ると動きが止まってしまった。
みずきは、誠の様子を見て、心に決めた。
「私、男の人の汗の臭いって好きだから、そのままでもいいよ。」
誠は、少し慌てた。
「なっ、何言ってんだよ。そんな軽はずみなこと言うなよ。美樹ちゃんからのメールに、今までそんな経験ないし、良く考えろみたいなこと書いてあったぞ。」
「えっ! 美樹からメール来たの? 誠さん、勝手に読んだの? うそー、ひどい!」
「あっ~、ごめん。てっきり、ご両親から帰って来いの電話だと思って、携帯を手にしちゃったんだ。ご両親には僕がちゃんと話さなきゃいけないと思ってたから、手が勝手に動いたというか。で、開いてみたら電話じゃなくてメールで、つい見ちゃった。ごめん! 本当にごめん!」
「信じらんなーい! 人のメール勝手に読むなんて。誠さんがそういうことする人だと思わなかった。」
「悪かったよ。ごめん。」
みずきは、浴室に戻って服を着て出て来た。
誠は、見た事が無いみずきの態度に動揺した。
「服なんか着てどうする気だよ。」
「家に帰る。」
誠は、更に動揺した。
「おいおい、今から? 電車無いかもよ。」
「関係無いもん、ここには居られない。」
「なー、謝ってるじゃん。もうしないからさー。」
「そんなの信じられない。あの水川っていう人とだって、何かあるんじゃないの?」
「えーっ? 水川と? 何も無いよ。そんなの気にしてたの?」
「あの人、誠さんの事何でも知ってるみたいな言い方して、何か嫌だったんですけど。」
「ちょっと、みずきの事かまっただけだよ。本来は、良い性格なんだよ。」
「何で、水川さんの事、かばうのよ! もームカつく!」
誠も、みずきの態度に少し腹が立って来た。
「そんなに怒らなくたっていいだろ? 携帯だって、ちょっと見ただけじゃん。」
「ちょっとだけ? サイテ―。信じらんない!」
「あーそうかよ。こんなに謝ってるのに、分からず屋! 勝手にしろよ。」
「勝手にするわよ!」
みずきは、出て行った。
少しすると誠は、急に心配になって、守にみずきを車で送ってもらうことを考え付いた。
すぐさま、守に電話をした。
守が運良く自宅に居ることが分かり、すぐに車を出してくれるように頼んだ。
守も、特に何かをしていたわけでもなく、渋々引き受けた。
守は、車に乗り込むと、駅までの道を走り出し、みずきを探した。
しばらく走ると、急ぎ足のみずきを見つけた。