第4話 「シークレットライブ」
音楽が鳴り出して、男性の司会者が登場した。
「お待たせしましたー。始まりまーす。サマービーチフェスタ・イン・湘南。
司会は私、万年夏男の内海照夫です。
2日目の今日は、なんと、あの、乗りに乗ってる 鮎川留美さんが来てくれてまーす。
では、早速、呼んでみましょう、せーの! 留美ちゃーん!」
ステージのそでから鮎川留美が登場した。
「みなさーん、おはようございまーす! 鮎川留美です。」
司会者 「いらっしゃーい! 僕は、お会いするのは初めてなんですが、本当に可愛いらしいでね。」
鮎川留美「いえいえ、そんなことないです。」
司会者 「今日の出演は、内緒だったということで、びっくりしている方も大いいと思います が・・・。」
鮎川留美「はい、シークレットライブということで、一部のファンの方だけがご存じだったと思いま す。」
司会者 「それでは、今日突然ここで、鮎川留美さんのライブを聴ける人は本当にラッキーな方なんですね。」
鮎川留美「いえいえ、そんな、ラッキーな方だなんて、私の方がラッキーだと思います。
こうして私が、ライブをすることが出来て、こんなにたくさんの人が聴いて下さる、そのこ とが、私にはとても幸せな事です。」
司会者 「なるほど、謙虚でいらっしゃいますね。そんなところも、人気の秘密かもしれません。えー っと、ところで、留美さんは、泳ぎの方は、どうなんですか?」
鮎川留美「あーっ、私、全然泳げなくて、学校の授業なんかでも、泳いでるのか、溺れてるのか判らな いなんて、言われてました。(笑)」
司会者 「おっとー、そんな風には見えませんが、でも、留美さんが溺れていたら、ここに居る大部分 の方が、我先にと助けに行くんでしょうね。」
鮎川留美「嬉しいような、怖いようなですかね。(笑)」
司会者 「それでは、湘南シークレットライブと称しまして鮎川留美さんには、これから約30分間、 歌って頂くんですが、何かテーマみたいなものがありますか?」
鮎川留美「そうですねー。私、泳ぎは苦手なんですが、夏は小さい時から大好きで、暑さに負けず、い つも外で弾けていたんです。だから、皆さんも、冷房に当たってばかりでなく、外に出て青 春を一緒に弾けましょうみたいな。」
司会者 「家でゲームばかりやってちゃいけないよって、ことですね。はい、それでは、留美さんにマ イクをお渡しします。元気に青春を弾けてください。」
鮎川留美「はーい。ありがとうございます。それでは、初めの曲は、ホット・サマーです。アップテン ポな曲なので、皆さん一緒に弾けましょー!」
ライブは盛り上がり、熱いビーチは、更に熱くなった。
アンコールも歌い、鮎川留美のライブは興奮の渦の中、約40分で終わった。
3人も、飛んだり、跳ねたり、歌ったりで、すっかり疲れてしまった。
誠が2人を見て切り出した。
「なーんだ、ノリノリで、渉も守も鮎川留美が好きなんじゃないの?」
守が右手を振りながら答えた。
「そんなことないよ。」
渉が当たり前のような顔をして言った。
「場の空気をよんで、はしゃいだだけだよ。」
守が付け加えた。
「そうそう、カラオケと一緒。」
誠は、ちょっと悔しくなった。
「でも、可愛いと思うだろ?」
守は少し抑えて言った。
「そりゃー、普通の子よりはねー、でも趣味じゃないなー。」
渉がまた、守に付け加えるように言った。
「芸能人を好きになったて、一方通行で、永遠に片思いだからねー。」
誠は、なんだか悔しかった。
「そりゃー、そーだけど、歌もいいし、心豊かになるじゃん。」
守は一般論を良く口にする。
「でも、芸能人なんて、周りを蹴落として、生き残り合戦してるんだから、結構性格きついに決まってるよ。ファンの前では、好かれるように振舞ってるのさ。」
誠は鮎川瑠美はそうじゃないと信じていた。
「そうかなー。親の借金で小さな頃から結構苦労していたから、人の痛みが分かる優しい人だと思うんだけどなー。」
守は、勝手な道理をたまに言う。
「何言ってんの? 小さな頃から苦労していたら、性格が強くなるし、周りの人がうらやましくなって、自己中心的になるんだよ。」
誠は、守よりも鮎川瑠美の方が好きだ。
「そうかなー。そうは見えないんだけどなー。」
渉は鮎川瑠美の話が飽きた。
「もう、芸能人なんかいいからさ、ナンパしようぜ。」
守も鮎川瑠美の話から抜け出したかった。
「そうだよ、時間ないぞ。ほら、頑張ってこい。」
渉が、前を歩く髪の長い娘を見て言った。
「誠、あの娘どうよ?」
誠の好みじゃなかった。
「ん~、なんかなー。」
実は渉の好みのタイプだった。
「何だよ、やる気あんのかよ。まー、鮎川瑠美を見た後じゃ仕方ないか。」
誠はヤル気が無くなっていた。
「まーな。」
渉は適当に言ってみた。
「じゃー、あの赤色の水着の娘は?」
誠はヤル気が無い。
「ちょっとなー。」
渉は、誠の気持ちに感づいた。
「それじゃー決まんねーよ。とりあえず、行こうぜ!」
誠は、面倒に思えた。
「えー、マジ?」
渉は強引さが必要と判断した。
「マジ、ほら。」
渉は、気乗りしない誠の手を引っ張って歩き出した。
赤と黒の水着を着けた2人の女の子が歩く前を、渉と誠が遮った。
渉が切り出した。
「2人で来たの? どこから来たの?」
女の子Aが面倒くさげに言った。
「ナンパしてるの? 用ないんだけど。」
渉は引かなかった。
「かき氷でも食べない?君、イチゴみたいだから、いちごミルク味でも。」
女の子Aの顔が歪んだ。
「まじウザイんだけど。」
渉は、この娘達はかき氷が好きじゃないと思った。
「じゃー、スイカは? あっちに冷えてて、すごーく美味しいの有るんだけど。」
女の子Bは勘違いをした。
「えっ? 海の家の呼び込み?」
渉はジェスチャーを付けて言った。
「ノーノー、ナンパ、ナンパ。」
女の子Aは、呆れた。
「ばっかじゃないの? 行こう由美。」
2人の女の子は、早足で行ってしまった。
渉は自分は頑張ったと思っていた。
「誠が、何も言わないのが悪いんだぞー。」
誠は、女の子に端からその気が無いように思えた。
「そうかなー。」
渉は自分の努力が解って欲しかった。
「そうだよ。あれでも、俺、スゲー頑張ったんだから。可愛い女の子前にして、あんなにしゃべったの初めてなんだから。それも、水着。ビキニだぜ。」
誠は、渉の気持ちが分かった。
「そうだったんだー。でも、今のは、年上だよ。女の子としゃべる練習するなら、うちのサークル入ればいいじゃん。」
渉はそうしようとも思った。
「テニスだっけ。でも、俺、運動音痴だからな~。誰も相手してくれないよ~。」
誠はどうしてそう思うのか分からなかった。
「そんなことないと思うけどなー。」
渉は気持ちが冷めてしまった。
「今日は、もう止めよー。なんか疲れちゃった。」
守は雰囲気を察した。
「それじゃー、ホテル行こうぜ。ひと風呂浴びて、作戦でも練ろう。」
3人は、予約して有った近くのホテルに向かった。