第39話 「懇親会」
試合が始まった。
誠の上手さが群を抜いているのが、誰の目にも確かだった。
サーブは、その殆どがリターンされずに決まり、みずきの出番は、無いに等しかった。
みずきのサービスゲームやリターンゲームも、誠がボレーを全て決め、終わってみれば
6-0、6-0の圧勝だった。
相手がネットに来て、握手の手を差し伸べた。
「少しは、手加減してくれないと!」
「ほんと、野田さんったら、容赦無いんだから。」
笑顔で、野田が答えた。
「常に全力が、僕のモットーですから。」
ベンチの戻ると、みずきにも何人も話しを掛けて来た。
「橘さんも、上手ね! ミスも無く、サーブも良いコースに全部決まってるし。」
「そんなこと無いですよ。たまたまです。」
「そんなことないなー。ラケットの面がしっかりしてるし、フォームも綺麗だし。」
「いえいえ、恰好だけです。」
「ねぇー、どこの高校?」
「霧ケ峰です。」
「あー、霧高かー。上手い訳だ。レギュラーなの?」
「いえいえ、そんなー。」
その後、練習は3時間ほど続き、暗くなって来たので終了となった。
練習が終わり、居酒屋で毎度恒例の懇親会が行われた。
参加者は、21人、ある意味主役のみずきと誠も参加した。
光井会長の挨拶から始まった。
「今日から来てくれることになった、新しい仲間を紹介します。橘みずきさんです。拍手。
橘さんは、うちの大学ではなく、高校3年生で、なんと野田の彼女だそうです。」
冷やかしの声や、女子からのブーイングが鳴った。
水川奈緒が立ち上がった。
「ひどーい!野田さん。私が居るのに! 私とは、もうペアを組まないんですか?」
勝山卓司が、横槍を入れた。
「今上が、組みたいって言ってるぞ!」
「ヤダー、今上となら、ミックスなんか辞めてやるー。」
西堀由美が、立ち上がって身振りを付けながら、誠に言った。
「ひどい!どうして私より、女子高生を選んだのー?」
河原泰三が、ヤジを入れた。
「西堀さんの家には鏡が無いんですか?」
ふとっていて、おしゃべり好きな西堀に、河原がふざけ半分で言った。
西堀由美も負けてはいない。
「白雪姫に出てくる鏡が有るわよ。世界で一番美しいのは、私って毎日言ってるわよ。」
一同笑いの中、西堀が河原におしぼりを投げた。
おしぼりは、立ってヤジっていた河原の口に吸い込まれた。
一同大爆笑の渦に包まれた。
「ほら、みんな座って、座って! それでは、新しい仲間と今日の練習で一層強くなったメンバーに、乾杯!」
「乾杯!」
会長の乾杯の音頭が終わり、宴は談笑に包まれた。
みずきが、誠に話し掛けた。
「誠さんってモテモテだったんだ。ナンパなんかしてたから、もてない人だと思ってたわ。」
誠が、答えた。
「全然持てないって! 声を掛けてくるのは、こんな時だけだよ。」
みずきが、疑いの目をして聞いた。
「本当は付き合ってる人が居るんじゃないの? さっきで組んでたと言ってた人なんかは、怪しい気がする。」
誠が、笑いながら答えた。
「あーっ、水川のことかー。たしかに、ミックスで組んでたけど、テニス以外では、会ったりもしてないし。」
と、突然、後ろから、水川奈緒が顔を出した。
「そうなのよ! 私がいくら誘っても、全然、遊んでくれないのよ。抱いてもいいからって言ってるんだけどね。(笑)でも理由が分かったわ。こんな可愛い彼女が居たんじゃしょうがないわね。(笑)」
みずきは、圧倒された。
「いえいえ、私なんてとても、とても。」
水川奈緒が、顔を近づけて来た。
「そんなこと言ってると、取っちゃうわよ。野田君は人気有るんだから、気を付けないと。ほら、あそこの髪が長い池山優とか、そこの髪を縛ってる片倉美幸とか、みんな狙ってるんだから。」
片倉美幸が自分が言われているのに気が付いた。
「何よ、水川。今、ガン飛ばしたでしょ。(笑) 橘みずきさんだっけ?宜しくね!」
みずきは、慌てた。
「あ、はいっ! 宜しくお願いします。」
片倉美幸が、誠の腕を引っ張った。
「おい! 野田! こう云う子が、タイプだったんだ! だったら早く言えつーの! 私も化粧変えたのに!」
水川奈緒が、片倉美幸に向かって言った。
「単に化粧の違いの話か、つーの! だったら、池山優なんか好みだったんじゃないの?」
片倉美幸は、少し考えた。
「確かに言えてる。可愛さも負けてないと思うし。どうなのさ!野田?」
誠は、困った。
「勘弁してよ。」
片倉美幸が立って「おーい! 池山! こっちこーい!」
池山優が、こちらを伺った。
「何ですか?先輩。」
「おい!お前、何で化粧しないんだ!」
池山優が、近づいて来た。
「肌が弱いし、どうせテニスで汗かくから・・・。」
「そんなこと言って、先輩たちのように化粧しなくても、可愛いと思ってるんだろー。」
「そんなことないですよー。片倉さんや水川さんはとても綺麗ですよー。私なんかとても、とても。」
「本気で言ってるのかな?(笑)でもさー、野田の彼女がこの子って、どう思う?」
池山優は、困った。
「えっ、あー、可愛いし良いと思いますよ。」
「池山は、野田のこと好きだったんだよね?」
「試合見てると、恰好良いなーって、思いますけど・・・。私、彼氏いますから。」
水川奈緒の目の色が変わった。
「なにーっ! いつのまに。先輩の私を出し抜いて、いったい誰なのよ?」
「ミックス組んでる松尾さんです。」
片倉美幸が、うなずいた。
「そーか、やっぱりね。いつも一緒に帰るから、そーだと思ったよ。」
「すみません。先輩2人よりも先に。」
片倉美幸が、池山優の肩に手を載せて行った。
「謝るなよ。なんか腹立つじゃん。もー行って良し。」
池山優もしたたかだ。
「はーい。・・・みずきちゃんだっけ?目立っちゃダメだよー。先輩怖いから。」
みずきは、困惑した。
「あっ、はい。」
片倉美幸が呟いた。
「余計な事を・・・。」
水川奈緒が、マジ顔で言った。
「橘さん、今度私達と勝負しましょ!さっきの池山とあなたが組んで、私達とやって、勝った方が、野田君と組むの。いいわね。」
「えっ? でも、野田さんと組むのは、会長さんが決めたことだし・・・。」
片倉美幸は、水川奈緒とは、ダブルスでペアを組んでいた。
「あんなマントヒヒの言うことなんて、関係なーい!」
みずきが笑った。
「似てる~。」
片倉美幸はマントヒヒの身振りを付けて言った。
「あんまり見るな。奴が気付く。」
みずきの笑いが大きくなった。
「そっくり。似てる~。(笑)」
片倉美幸と水川奈緒も笑い出した。
「お前、ほんと可愛いな。性格も悪くなさそうだし。野田君が惚れるのも分かる気がするわ。これからも、よろしくな。」
懇親会は、2時間ほどで終わり、それぞれ気の合う者同士で、バラバラになった。