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第35話 「みずきのお姉さん」


「ねぇ、朝、誠さんのアパートに行くって話したよね。」


誠は、忘れていた訳じゃなかったが時間を考えて、今日は無いと思っていた。

「えっ? これから? 遅くなっちゃうよ。」


みずきにとっては、誠が思っている以上に重要な事だった。

「だって、朝、買い物して夕食作るって約束したよね。」


誠は、どうしてそこまで言うのか理解できなかった。

「まぁーそうだけど、今から、買い物したんじゃ、食べ終わる頃には相当遅くなっちゃうよ。」


みずきが、勢いにまかせて、自分の心の中でもはっきりしていない事を口走ってしまった。

「そうなったら、泊めて。どうせ明日また来なきゃいけないんだし。そうだ、いっそうのこと免許取れるまで、ずっと泊めて?」


誠は、焦った。

まさか清純そうに見えたみずきが、そんな事を言い出すなんて、信じられなかった。

「何言ってるんだよ。高校生がそんなことしたら、ご両親が怒って、付き合いづらくなるよ。」


みずきも、誠の表情を見ると、まずい事を言ってしまったと悟った。

「うちの親は、そんな感じじゃないんだけど・・・。誠さんがそう言うなら、分かったわ。今日はこれで帰る。でも明日は、寄らせてね。」


誠は、みずきが引き下がってくれたので、ほっとした。

「分かった。」


「それじゃー、今日はどうもありがとう。明日は、朝8時だね。寝坊しないように早く寝なきゃ。誠さんも遅れないでよ。バイバイ!」


「そっかー、8時だったんだ。参ったなー。じゃー、あした。」


みずきは、駅に向かって歩き出した。


その後ろ姿は、何処となく寂しげに見えた。


誠は、改札まで行くつもりだったが、みずきに「バイバイ」と言われて、その気持ちを摘まれてしまい、自宅の方に向かって歩き始めた。


誠は、ちょっと気になって振り向くと、みずきはさっき居た場所から殆ど動かずにこちらを向いていた。


みずきは、誠が振り返ったのが分かると、待っていたかのように、満面の笑顔で、手を大きく振って、「バイバイ!」と大きな声を出した。


誠も、みずきにつられて、手を振り返した。


みずきは、気が済んだのか、駅に向かって歩き出した。


誠は、振っている自分の手を見ると、段々とみずきに引き込まれていく自分に気が付いた。


そして、もう一度、みずきが振り向いてくれるんじゃないかと、後ろ姿を見つめていた。


しかし、みずきは、それを知ってか知らずか、振り向かずに人混みに消えて行った。


みずきは、電車に乗ると空いている座席に座って目を閉じた。


自然と今日一日のことが頭に甦って来ると、知らず知らずに顔が微笑んでいた。


自宅近くの駅で降りると、コンビニに立ち寄った。


店内に入ると、美樹と知佳が雑誌の立ち読みをしているのを見つけた。


みずきは、2人に近寄った。

「美樹、知佳!」


美樹、知佳は、少しびっくりした。

「みずき! どっか行って来たの?」


「う~ん、誠さんの所。」


美樹は、びっくりした。

「え~っ! 会ってるの?」


美樹が少し大きな声を出したので、周りに居た人たちの視線を受けた。


知佳は、視線を感じて恥ずかしく思えた。

「ねぇー、ここじゃ何だから、お茶しよう?」


美樹も周りの視線が気になった。

「そうだね。詳しい話も聞きたいし。」


みずきは、話が長くなるのを気にした。

「明日早いんだけどなー。 まーいいか。」


3人は、直ぐそばに在ったファミレスに入った。


みずきは、メニユーを見るとお腹が空いて来た。

「ねぇー、夕ご飯食べてもいい?」


知佳もメニューを見ると同じ気持ちになった。

「私たちも食べる。ねぇ、美樹?」


美樹も同じだった。

「うん、お腹空いたー。食べよう。」


みずきが先に、2人に質問した。

「2人でどこかに、行って来たの?」


知佳が答えた。

「うん、横浜駅で、私の靴買うの、付き合ってもらったの。みずきにも、メールし

たんだよ。」


「えっ!ほんと?」

慌てて、携帯を取り出して見た。


「あーっ! ごめーん! 彼と一緒で気が付かなかったー。ごめんねー。」


「いいよ、美樹がとっても可愛いの選んでくれたから。今、見せるね。」

知佳が、袋の中から靴の箱を取り出して開けた。


「わーっ!可愛いー。意外だね、美樹がこういうの選ぶなんて。」


「そんなのいいから、みずきの事、教えてよ。いつから会ってるの?」


「いつって、車買いに行った次の日から。」


「えーっ! マジで、会ったんだー。それで、どっちから連絡したの?」


「どっちって、私かな?」


「うっそー、びっくり。」


「教習所に毎日通うことになって、私も一緒にバイクの免許取ることになったんだ。」


知佳と美樹が、思わず声を上げた。

「えーっ!」


美樹が身を乗り出して訊いた。

「どうしちゃったの? バイクなんて、興味無いでしょ?」


「そうなんだけど、毎日教習所に一緒に行くなら、何か取ろうと思って。」


知佳が腕を組んで呟いた。

「みずきじゃないような、積極性。信じらんない。」


みずきが、思い出したように言った。

「そうだ。正式に交際することになったんだ。私が申し込んだの。そしたら、OKしてくれたの。」


知佳と美樹が、再び声を上げた。

「えーっ!」


美樹が、頭を振った。

「ちょっと、なんか、頭がクラクラしてきた。」


「それだけじゃないよ。免許取れるまで、泊めてって言ったんだ。」


知佳と美樹がまたまた、声を上げた。

「えーっ!」


美樹が、力が抜けて椅子にもたれ掛った。

「もうだめ~。あなた、みずきじゃない。」


知佳が、質問した。

「免許取れるまで泊まるって、何日も一緒に暮らすってことでしょー。それって、Hするってことじゃない。確か、みずきって、そんなことしたこと無かったんじゃなかったっけ?」


「うん、無いよ。」


美樹が、起き上って、テーブルに肘をついて言った。

「いったい、どうしちゃったの~?

結婚する人じゃないとそんなことしちゃだめって、私の事散々非難したのに。」


「どうもしないよ。誠さんは運命の人なの。赤い糸で繋がれてるの。積極的に行動しないと、また、取られちゃうの。ほら、あの占いの館で言われたんだ。」


知佳も占いの館に興味が有った。

「あの占いの館って、ちょっと気味の悪いあそこ?1人でよく入ったね。そっかー、あそこで占ってもらったからなんだ~。でも、取られるって、誠さんは、連絡も取ってないのに。おかしいよ。」


「おかしくないよ、私には分かる。」


美樹がため息交じりで言った。

「かもねー、今まで何度も苦しめられたものだしね。」


知佳が、まじめな顔をして、訊いた。

「誠さんは、みずきのお姉さんの事知ってるの?」


「知らないよ、言う訳ないでしょ! 鮎川留美が、お姉ちゃんだなんて。また、取られちゃうよ。美樹も知佳も絶対に言わないでよ。」


「うん、それは勿論。でも、考えすぎじゃないの?」


「そんなことないよ。今まで、私が好きになった人は、例外なく、お姉ちゃんも好きになってる。そして、例外なく取られているから。」


「でも、お姉さんは、たった1回、会っただけでしょ?」


「たった1回って言ったって、心細くなってる時に現れたんだから、きっと命の恩人くらいに思ってるよ。」


「それは、大げさだよ。」


「知佳は、知らないだけ。きっと、毎日、気になってると思う。私が付き合ってるなんて知ったら、大変よ。だから、絶対に教えない。」


「美樹、何とか言ってあげてよ。」


「うーん、みずきの言う通りだと思う。私は、小学1年の時からみずきと一緒だから、よく遊んで知ってるけど、お姉ちゃんは、そんな感じの人だと思う。」


「えーっ、美樹まで!? そっかー、高校から友達になった私には理解できないことか~。まーいいや。そういうことにしときましょ。で、明日から、彼の所に泊るの?」

「分からない。今日も泊めてって言ったら、駄目だって言われた。私の親がそんな交際認めないだろうだって。そんなこと無いんだけどね。単身赴任の父に、スナック経営の水商売母じゃ、夜、私が居なくたって分からないし。」


「そうなんだ・・・。でも、偶然って怖いわね。私が、みずきのお姉さんに会いたいって、無理に頼んで、あの日、湘南に行かなかったら、私達は、誠さん達に会うこともなかったし、みずきが誠さんを好きになることも無かったし、お姉さんの事を気にする必要もなかったんだから。なんか私、責任感じちゃうなー。」


「そんなことないよ。あの日、誠さんと会わなかったとしても、いつかきっと、どこかで会う気がする。私たちは、出会う運命だったのよ。占い師の人も、運命の人と言っていたもの。だから、知佳は、気にしなくて良いんだよ。」


「そうだよ、知佳のせいじゃないよ。私だって、久しぶりにみずきのお姉さんに会いたかったし。」


「ところで、2人は、守さんや渉さんと連絡してないの?」


美 樹「全然。」


知 佳「してない。」


「どーして?あんなに2人とも、上手く行ってるように見えたんだけど。」


美樹が知佳と向き合って、先に答えた。

「連絡が来ないから、何もしてないだけ。私の方から、メールとかしたんじゃ、いかにもナンパされに行ってたみたいじゃない?」


「私も同じ。軽い女に見られたくないし。」


「それじゃー、このまま連絡が来なかったら終わりなの?」


美樹が続けた。

「そこはほれ、みずきが誠さんと付き合ってるんだから、上手く話を振って、会えるようにしてくれないと・・・。」


「そうそう、あんなお金持ちと付き合えるチャンスはそうそうないしね。」


「なーんだ、結局、付き合いたいんじゃない。」


美 樹・知 佳「かもね・かもね!(笑)」


みずき「そーかもね、って!(笑)」


3人は、食事を終えると、家路に就いた。


知佳の家は、ファミレスを出ると2人とは別方向で、みずきの家と、美樹の家はすぐ近くだった。


2人は、話しながら、みずきの家の前まで来て別れた。

「バイバイ!」


みずきの家の灯りは、消えていた。


みずきは、暗い中、慣れた手つきで、ドアのかぎを開け、中へ入ると電灯のスイッチを入れた。


シーンと静まり返った部屋が嫌いで、すぐにテレビをつけた。


お風呂にお湯が溜まるまでの時間に、誠に買ってもらったヘルメットを被って、手袋を

してみた。

鏡の前に立ち、自分の姿を見ると、つい微笑んでしまった。


お風呂に入ると、今日1日の事を思い出して、明日の予定を立ててみた。


そして、一人、ベットに入り、携帯の誠の写真を見ながら眠りに付いた。



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