第33話 「占いの館」
みずきは、電車に乗っているうちに、ふと気になる事を思い出して、寄り道をすることにした。それは、仲間うちで話題になっていることで、野毛町に在る占いの館が、怖いほど良く当たるというものだった。
「ごめんください。」と言いながら、開いた自動ドアを抜け、待合室に入るとすぐに、「どうぞ、奥へお入りください。」の声が天井のスピーカーから聞こえた。
待っている人が居なかったので、奥の占い部屋にそのまま進んだ。
アロマの香りが漂う、薄暗い間接照明の8畳程の部屋の中央に大きな水晶を前にして、黒い服を着た50代に見える女性が座っていた。
「どうぞ、こちらに腰掛けて。」
みずきは、一瞬、怖さ感じたが、占い師の前の椅子に座った。
「占いは、初めてですね。大丈夫ですよ。一回深呼吸をしましょうか。」
言われるままに、みずきは深呼吸をした。
緊張していた自分に気が付いた。
「どうですか? 落ち着きましたか? この部屋は、空気を大事にしています。
最新の大型空気清浄機に、イオン加湿器。それに、神経を落ち着かせる成分と脳波を拡張する成分の数種類の植物のアロマオイルが、拡散されています。
さぁー、何を占いましょうか? 恋愛ですね。ご家族の事も悩んでいますね。」
「あっ、はい。とりあえず、恋愛でお願いします。」
みずきは、何も言っていないのに、ここへ来た目的を当てられてしまって驚いた。
でも、考えてみると、こういうところに来る人と言うのは、その年齢で、大体の目的は解ってしまうのだろうとも思った。
「はい、いいですよ。では、生年月日とお名前をおしゃって。」
「平成5年12月24日。橘みずきです。」
「はい。それでは、両手をこの水晶玉の上に、かざしてください。」
みずきは、少し緊張して、こわごわ手を伸ばして、水晶玉の上にかざした。
「はい。そのまま。」
占い師は、大きな水晶玉をじっと見つめた。
「はい。いいですよ。大体分かりました。最近、海で出会った男性・・・大学生ですね。その男性との事がこれからどうなるのか、知りたいのですね。」
みずきは、誠のことを言い当てられたことで、背筋に寒気が走った。
「はい、怖がらなくても良いですよ。」
と言いながら、占い師は、みずきの両手を取り、クロスさせて、握手をするように手の平を合わせた。
「うーん。確かに、その人は運命の人です。結婚を考えるには最適の人なんですが、現在その人には、あなたよりも好きな人がいるようですね。ただ、その人とはまだ付き合っていないようです。上手く行くかどうかは、あなたが積極的になれるかどうかで変わります。」
「誠を取られるかもしれないんですか?」興奮気味に、みずきが聞いた。
「うーん。そうですねー。他の方法でも占ってみましょう。」
占い師は、タロットカード、手相などいくつかの占いを試みた。
「あら? その彼が好きな人は、あなたが良く知る人物と出てますねー。」
「そうですかー・・・。」
「どうやら、心当たりがあるようですね。彼の生年月日は分かりますか?あと、名前も教えてもらえますか?」
「生年月日は、知りません。名前は、野田誠です。」
占い師は、水晶玉に手をかざした。
「はい。野田誠さんの10年後の奥様の顔が出て来ませんね。きっと、まだ決まっていないのでしょう。あなたにもチャンスがあるということですね。ただ流されているだけでは、とられてしまいます。これからのあなたの行動次第ということです。ただし、分かっているようですが、相手は強敵です。」
「はい。分かりました。思っていた通りでした。やっぱり、噂通り凄く当たるんですね。
びっくりでした。ありがとうございました。」
「他のご相談は、いいの?」
「はい。もう一つの答えも出たような感じですから。どうもでした。」
「では、学割で、3千円頂きますね。」
「えっ?学割なんて有るんですか?」
「特別よ、また来てね。」
「ありがとうございます。」
みずきは、3千円を支払い、占いの館を出た。
明日からの自分の行動をあれこれと考えながら、自宅へ向かった。
家に帰って、落ち着いてみると、占い師の言った事が、当たり過ぎていて怖くなって来た。
良く当たるとは言っても、あそこまできちんと言われては、占いと言うよりも、超能力者に違いないと勝手に思い込んだ。
そして、これからどうすれば良いか、一生懸命に考えた一つの結論としては、とにかく、誠と出来る限り一緒に居る事と決めた。