表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/96

第32話 「バイク免許」


2人は、マイクロバスの小さな送迎バスに乗った。

バスには、2人を入れて、8人が乗っていた。

少しすると、バスは走り始めた。


さっきの出来事で、誠は何となく様子が変だったが、みずきは構わず話し掛けた。


「ねぇー、誠さんが好きになった子ってどんな人だったの?」


「どんなって・・・、可愛くて、明るくて、優しくて、スタイルも良くて。」


「でも、あんまり話とかしてなかったんでしょ。多分、それは、誠さんのこうあって欲しいと思う気持ちだよね。その人が優しくないっていう訳じゃないけど、その時の状況を考えれば、一緒に居てつまらないとは、言わないと思うけど。」


誠の表情が、少し険しくなった。


「そんなことないさ。ただ単に、僕が面白いこと一つも言えずにいたから、つまらないと思っただけだよ。誘っておいて、退屈させた僕が悪いんだ。」


「ご、ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないの。調子に乗ってしゃべった私が馬鹿だったわ。」


「いや、いいんだ。別にその子のことは、忘れたから。」


嘘つき、忘れてたら、そんな顔して喰い付いてこないでしょ。と思いながらも、心に傷を受けても、その人のことを嫌いにならずに、自分が悪いと言っている誠を、なぜか、みずきは、より好きになっていた。


誠も解っていた、高校の時の失恋を引きずっていて、新しい恋愛に踏み切れずに、芸能界に興味を持つことで現実逃避をして、自分をごまかしていることを。


暫くの間、沈黙が続いた。


そして、思ったよりも早く、教習所に着いた。

降りると全員が、足早に教習所の入口に向かった。


2人は、入校案内と書かれたカウンターに近づいた。


「ご入校を希望ですか?」担当の若い女性が、聞いてきた。


「はっ、はい。」みずきが、反応した。


「どうぞ、お掛け下さい。」担当の女性は立ち上がると、手で椅子を示した。


入校の説明を一通り聞くと、外に出て、教習風景を眺めた。

橘みずきが、不安そうに言った。


「なんか難しそうだねー。私なら、あそこの車庫入れなんか、絶対、周りの棒に当てちゃうよ。」


「うーん、かもね。慣れなんだろうけど、規定時間オーバーしたくないなー。」


「誠さんなら、運動神経いいから、きっと大丈夫だよ。」


「どうかなー。運転は別なような気がするけど。」


「あっ! あそこ! 女の子がバイクに乗ってる。なんかカッコイイ。」


「小さな体で、大きなバイク乗ってると、スゲーって思うもんな。」


「そうだ! 私、バイクの免許取ろうかな。そしたら、ここで会えるし。」


「親が許してくれるの? バイクは危ないから駄目って、言われるんじゃないの?」


「かもしれないけど、内緒で取っちゃうからいいの。」


「お金はどうするの?」


「貯金も有るし、バイトしてるし、何とかなるよ。」


「凄い! 意外に行動力有るんだね。」


「まーね。ちょっと、話聞いてくるね。」


みずきは、さっきのカウンターに戻り、バイク免許の話を聞いた。

戻ってくると、元気に言った。


「25万円くらいだって。決めた! 誠さんが通うなら、私も通う。」


「マジで?」


「うん!」


2人は教習所を送迎バスで出て、蒲田駅に戻って来た。

駅前のレストランで、入校の手続きを検討することにした。


橘みずきは、少し意地悪気に聞いてみた。


「何迷ってるの? 入校するつもりで見に来たんでしょ?」


「えっ、まー。友人とはいえ、人に金借りるのは、いい気がしないよ。」


「分かるけど、せっかくの友達の好意を無駄にするのもどうかと思うけどなー。」


「まーね。僕も色々と助けてあげることもあるし、いいのかな・・・。」


「そうだよ。友達って助けたり助けられたりだから。」


「でもさー、金の貸し借りは、友達をなくすとも言うしなー。」


「もー、煮え切らない人ねー。もっと、クールな人だと思ってたのに。

土田さんの場合は、金銭感覚が同じレベルじゃないから、一般論は当てはまらないと思うけどなー。」


「そうだよな。守にとって30万は、僕の3万円ってとこかなー。彼の1月分の御小遣いは、もっとあるし。」


「えっ、そんなに貰ってるの?」


「前に聞いた時、40万って言ってたなー。僕が住んでるアパートの家賃が全部貰えるんだってさ。月4万だから、10部屋で、40万円っていうこと。」


「40万! すっごい! 全部自分で使えちゃうんだから、普通のサラリーマンには、なれそうにないよね。」


「何で?」


「だって、普通のサラリーマンは、毎日辛い思いして一生懸命働いて貰った給料だって、家賃や生活費に取られて、自由になるお金なんて、数万円でしょ? 何もしなくて、それくらい貰えるんだったら、働くのなんか、ばかばかしくなると思わない?」


「まーね。・・・ちょっと電話してみるよ。」


誠は、守に電話をした。

守は、ふたつ返事で了解した。


「今日、帰ったら、金、貸してくれるって。」


「そっか、それじゃ、あした入校しようよ。」


「えっ、あした? ・・・まー、どうせなら早い方がいいかもね。」


「決まり! じゃーあしたも、同じ時間に駅で待ち合わせね。」


「いいのか? 毎日、毎日大変だろ? 電車賃も掛かるし。」


「ん~ん、そんなの大したことないよ。」


「借りた金から、電車賃も出すよ。」


「大丈夫だから、気にしないで。」


「そういう訳にはいかないよ。」


「それじゃー半分、半分だけ出して。」


「半分? ・・・解った。それじゃー代わりに、奢るから好きな物食べなよ。」


「え、いいの? そしたらー・・・・・チョコレートパフェ。」


「他には? もっと、いいよ。4時だし、夕飯食べちゃおうよ。」


「えっ、もう?」


「腹減っちゃったし、どうせ、夜また食べるから。」


「そう、分かった。じゃー、和風ハンバーグ。」


「僕も、それにしよう。」


「駄目だよ。違う物頼んで、半分こ、しよう?」


「なるほど、それじゃー、サイコロステーキにするよ。」


「うん。いいかも。」


店内に、流れていた音楽が変わった。


「あっ! 鮎川瑠美の曲だ。」


「そんなに好きなの?」


「うん、凄く好き。」


「どうして? どこがそんなに好きなの?」


「この前言ったじゃん。みずきちゃんも、好きなんだろ?」


「まーね。でも、今は、恋敵かな。」


「えっ? ミュージシャンを一方的に好きなだけなのに? ファンの一人なだけだよ。」


「分かってるよ。でも、会ったんだよね。」


「転んで歩けなくなってるのを、ホテルまでおぶっただけだよ。連絡先も言わなかったし、連絡もしてないし。」


「失敗した、言っておけば良かったと思ってるんでしょ?」


「そんなこと無いよ。」


「でも、それだけで十分だわ。」


「何が十分なんだよ。」


「あの人には、十分なのよ。」


「何言ってんだよ。訳分かんないよ。」


みずきは、誠に聞こえるか聞こえないか位の声で、呟いた。

「ずっと分からないままだと、いいんだけど・・・。」


料理が来ると、2人は誰が見ても恋人同士のように、楽しんで食べた。


ファミレスを出た頃には、空はうす暗くなっていた。


「奢ってもらって、本当にいいの?」


「全然いいよ。こう見えても、小金は、沢山持ってるんだ。」


「ほんとかなー。明日のお昼ご飯、抜きなんてしないでよ。」


「大丈夫、大丈夫!」


「ありがと。ご馳走様。じゃ、これで帰るね。」


「うん。気をつけて。」


2人は、駅まで少し歩き、別れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ