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第31話 「似た者同士」


守が来た事で難を逃れた渉が、美樹からまた質問をされるのを、ごまかすために守と話そうとした。

「守、行くって、何処行くんだよ?」


「あっ、そっかー、決まって無かったけ。」


誠が、どういう訳だか急に真面目な事を言った。

「時間も時間だし、君達高校生は、帰った方がいいんじゃないのかなー。」


上野美樹が、何言っちゃってるの?とばかりに返事をした。

「まーだ、4時じゃない。カラオケでも行こうよ! 

ねっ、みずきも知佳もいいでしょ?」


「イェース!」


誠の言葉など誰も気にする者はなく、カラオケに行くことになった。

全員、車に乗り込み、彼女達の家に近い方が良いということで、横浜に向かった。

3人が良く行くという上大岡のカラオケ店に行くことになった。

着くと、5時半になっていた。

店は空いていて、すぐに部屋に案内された。


みんなが座ると、上野美樹が呟いた。

「なんか、お腹空いちゃったー。」


「私も~。」と、井上知佳が、空腹で元気なく続けて言った。


こんな時の土田守には、決まり文句が有った。

「オッ! 何でも、好きな物頼めよ。俺のおごりだ。」


井上知佳に、元気が戻った。

「カッコイイ~!」


水越渉が、呆れたように言った。

「そうか?」


上野美樹は、渉の言葉に反応が速くなった。

「そうだよ。じゃー、渉さんのおごりでいいの?」


「ノーノー、無理無理。」


井上知佳が、苦笑いしながら言った。

「でしょー! やっぱ、違うのよねー。」


全員がこの時とばかりに好きな物を注文して、カラオケ店とは思えないほど、次々と料理が運ばれて、テーブルは、あっ、という間に埋め尽くされた。


カラオケもいつの間にか、美樹が歌い始め、その後も、ひきりなしに誰かが続き、5時半から始まったカラオケ会も3時間が経ちお開きとなった。



誠が蒲田の自宅に戻って、風呂から出てのんびりしていると、携帯が鳴った。

橘みずきからのメールだった。

「今日は、楽しかったよ。ありがとう。

誠さんの意外な面も見れたし、凄い車も見たし。

ずーずーしく、明日も1時に蒲田駅でなんて言っちゃって、ごめんなさい。

明日、本当に教習所に行きますか?

もし行くのであれば、みずきも一緒に行きたい!

待ち合わせしてもらえますか?

お返事待ってまーす♡」


誠は、話の成り行きで言ってしまったが、本当は教習所に行く気にはなれないでいた。しかし、みずきからのメールを見ると、今さら、行かないとも言いだせなかった。仕方なく、教習所を覗くことにして、みずきにメールを返した。


「こちらこそ、今日はどうもありがとう。楽しかったよ。

それじゃー、明日も蒲田駅で1時ということで、よろしく。」


みずきも、誠が本気で教習所に行こうと思っていないのは感じていた。だから、その気になるようにと、メールをしたのだった。そして、その作戦は成功して、明日は、2人だけで会うことになった。


そして当日、誠は時間の読めない慣れないバスを使って、30分も前に駅に着いてしまった。

きのう美樹が、言っていた気持ちが何となく分かった。

待ち合わせ場所の改札口へ歩いて行くと、まさかこんなに早く、みずきが来ているとは思っていなかったが、みずきらしい姿を見て、慌てて近づいた。


それは、みずきだった。


「みずきちゃん! 待った?」


「んーん、来たばっかり。」


「そっか。良かった。昨日の美樹ちゃんじゃないけど、待たせるのは良くないからね。」


「いいよ。でも、本当のこと言うと、2時間前に来てたの。んーん、最初からランチしたり、本屋さんに、行く予定だったからいいのよ。気にしないで。」


「えっ? 2時間も前に! 気にするなって言っても・・・。

電話くれればよかったのに。」


「ん~ん、約束は、1時だから、いいの。

それに、こうやって、30分も前に会えたし。さぁー、行こうよ。」


「でも、どこに教習所があるのか分からないんだよね。」


「それなら、電話帳で探せばいいよ。」


2人は、電話を探した。

割とすぐに見つかり、電話帳をめくった。


誠が、教習所の広告を見つけた。

「あった! 送迎バスが、この駅まで来てるじゃん。」


「ラッキーだね。 でも、どこで待てばいいの?」


「電話して、聞いてみるよ。」


誠が電話をすると、なんとなく場所が分かった。

そして、その待合場所に行ってみると、小さな送迎バスが来ていた。


バスを見ると思わず、橘みずきが声を出した。

「わっ! グットタイミング。 きっとイイことあるよ。」


「みずきちゃんって、みんなと居る時と雰囲気が違うね。」


「えっ? もしかして、嫌われちゃった?」


「いや、その逆。」


「ほんと?」


「明るくて、良い感じ。」


みずきが、歩く足を止めて、誠の顔を見上げた。

「なら、私と付き合って!」


二人の目が合った。

みずきの目は、そのニコッとした笑顔とは不釣り合いに、とても不安そうに揺れていた。

橘みずきは、今まで自分からこんなことを言った事など無かった。

だから、返事を待つ気持など考えた事も無かった。

あまりの緊張から、みずきの瞳を涙が濡らしていた。


誠は、思いもしない突然の状況で、金縛りになった。

しかし、黙っている訳にはいかない。


「そうだね。」


みずきの目を見て、断ることなんて、誠には出来なかった。


「えっ、いいの?」

「いいよ。だけど、君が思うほどの男じゃないと思うよ。」

「どういうこと? 何か隠してる事でも有るの?」

「そういう意味じゃなくて、何の面白みも無いつまらない男ってこと。」

「どうして? そんなことないと思うよ。」

「前に、一緒に居てもつまらないとか言われた事あるからさ。」

「そーかなー、それは、何か別な理由が有ったんじゃないの?」

「別な理由?」

「例えば、その子は、誠さんに特に興味がないとか、他の性格の人がタイプとか。」

「そーかなー。」

「あっ! もしかして、誠さんが、その子のことが好きで、一緒に居ると緊張してたとか?」

「えっ! 何でそんなこと。」

「その顔は、ずぼしでしょ! だって私は解るもん。誠さんのそういう性格。私も似たようなところが有るから。」

「そうなんだー。」

「そう。昔私も、仲良くなる前に、好きって気持ちが先行しちゃって、その人の前では、緊張して何も話が出来なくなちゃった事が有って失敗したことがあったから。その時の教訓で、好きって思う前に、少しでも良いなーって思ったら、無理やりにでも頑張って沢山しゃべるようにしたんだ。つまりは、私みたいな性格は、一目惚れはしちゃダメってことね。誠さんもそうなんでしょ?その子とは、初デートだったんでしょ。」

「えっ・・・まー、そんなとこかな。」

「そーかー、誠さんにも、そんなことが有ったんだー。」

みずきは、何だか嬉しそうに、にこやかに歩き出した。


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