第29話 「高い中古車」
第29話 「高い中古車」
守は、本気で見たくなって、すぐにでも行くつもりだ。
「渉、何処に行けば見れる?」
「ちょっと待ってー、携帯で調べてみるから。」
守は、みんなの顔を見渡した。
「みんな都合は大丈夫?」
こうなったら橘みずきに他の用事なんて有りはしない。
「誠さんが好きな車、どんなのか見てみたーい!」
井上知佳は、自分が蒔いた種でも有り、行かないわけにはいかない。
「はいはい、付き合います。」
渉が、携帯を見ながら答えた。
「青山で、売ってるみたいだなー。」
車にさほど興味の無い守だったが、誠が好きだという車をこの目で実際に見たくてたまらなくなった。
「よし、行ってみよう。誠に好きな車が有るなんてびっくりだもんなー。」
渉が、携帯をしまいながら、誠を見た。
「フェラーリーでなくて、ランボルギーニってところが、誠らしいというか~。」
カーショップを出ると、渉が手慣れた感じでナビをセットして青山へ向かった。
30分程で、目的の店に着いた。
車から降りると、みんなどれほどの物か、興味津々で店に向かった。
ガラス張りの店の前まで来ると、みんな立ち止った。
「凄い!」知佳が、思わず声を出した。
みずきや美樹も、声には出さないが、目は釘付けになった。
「早く入ろうぜ!」渉が、みんなをせかした。
店に入ると、皆の顔色が変わった。
新車が2台、中古車が5台展示されていて、その羨望なスタイルに圧倒された。
井上知佳が、ランボルギーニを目の前にすると、驚きの余り声を出した。
「何これ! 車じゃないみたい!」
上野美樹も、実際に見ることの少ない車を目にして感動している。
「やっぱり、すごーい!」
橘みずきは、今までに見た記憶が無いようだ。
「誠さんが好きなの分かる気がする! 他の車と全然違う!」
土田守も、一度に7台の実車を間近かで見るのは初めてだ。
「確かに。俺も誠と同じで車に大して興味ないけど、これは違う。
なんか欲しくなって来た。」
橘みずきが、指を差した。
「何あれ。ドアが上に上がってる!」
水越 渉は、得意げに答えた。
「ガルウィングと云って、ランボルギーニのウリの一つだよ。」
営業マンが、声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。何か有りましたら、御声をお掛け下さい。」
営業マンの雰囲気が、何処となく落ち着いた感じだ。
守も少し緊張した感じになった。
「はい、ちょっと見させてください。」
営業マンは、にこやかに軽く会釈した。
「どうぞ、ごゆっくり。」
井上知佳が、車を覗きこんだ。
「これって、低すぎでしょー、寝て運転するみたいだよ。」
水越渉が、反対側から、覗きこんで言った。
「そこがいいんでしょ。」
橘みずきが、フロントガラスに置かれたプライスカードを見て驚いた。
「えっ! 2300万円? たかっ!」
上野美樹が、横の銀色の車を見て言った。
「こっちのは、1800万だよ。」
水越渉が、内側に向いている2台の新車の方から言った。
「そっちの5台は、中古車だよ。」
上野美樹は、中古車だとは思っていなかった。
「えーっ! 中古なのに、みんな1000万以上だよ。」
土田守が、誠の傍に行って聞いた。
「誠は、どれが好きなんだ?」
野田誠は、実はランボルギーニに色々種類が有るとは思っていなかった。
「えっ? あ~、ま~、どれでも~、あっ!これなんかいいかも。」
土田守は、誠が指を差した車が、いくらするのか気になった。
「これかー、新車ってことは、最新型なんだなー。えっ?4200万。」
水越渉が、2人の傍にやって来た。
「ムルシエラゴだよ。結構速いんだよねー。」
守が、営業マンを呼んで、座ってもいいか聞いた。
営業マンは、少しためらった表情をした。
おそらくは、20歳くらいのが6人で来て、べらべらしゃべっている姿を見て、買う気の無い見学者だろうと思っているのだろうと、守は感じた。
「あのー、僕達は、ただの冷やかしじゃないですよ。買う気は有りますから。」
営業マンは、苦笑いを浮かべながら、
「どうぞ。」と言って、ドアを上に向けて開いた。
良いということで、一人ずつ恐る恐る運転席に乗り込んで楽しんだ。
土田守は、営業マンに言った手前もあり、にわかに本気で買う気になっていた。ただ、4200万円はさすがに、父親に交渉する気にはなれなかった。
「誠、これ以外はどれが好きなんだ?」
野田誠は、道路の方に向いている中古車の方を指差した。
「そうだなー、向こうの黄色いのかなー。」
土田守は、誠とその車の方に歩いた。
「よし、ちょっと乗ってみよう。」
渉もその黄色の中古車の前に来て、得意の解説をした。
「これは、ムルシエラゴの前のランボルギーニを代表するモデルでディアブロだよ。12気筒エンジンだし、ガヤルドよりも俺は好きだけど、旧型だし中古車だから、守は嫌だろ?」
土田守が、プライスカードを見た。
「まーな、でも1400万か。中古車の金額じゃないよ。」
守が、眉間に右手の指を当てて考え込んだ。
水越渉は、守のそのポーズは、本気で考えている時にだけする事を知っていた。
「お前、まさか買う気?」
土田守は、右手を下げると言った。
「おー、久々に、ほしーぃ、って気持ちが湧いて来たよ。
誠が好きだって言うのも分かる。」
守は、営業マンの方に歩いて行き、何やら話し始めた。
電卓を叩き始めて、割と時間が掛かっている。
守の様子もいつものヒョーヒョーとした感じではなく、真剣だ。
10分くらいして、守が笑顔で戻って来た。
「よっ!話がついた。これ買うぞ!諸費用込の乗り出し価格で1400万にしてもらった。」
みんなが、一斉に声を上げた。
「おーい! マジで?」
「すごーい!」