第28話 「誠の好きな車」
白く輝くワゴン車は、カーショップに向かって走り出した。
10分くらい走ると、GTRを売っている日産のお店に着き、みんな、ぞろぞろとショールームに入って行った。
すぐに、渉と美樹の目の色が変わった。
グレーメタリック色のGTRが展示してあった。
渉が運転席に乗り込むと、美樹も助手席に乗り込んだ。
近づいて来た40歳くらいの営業マンに、守が声を掛けた。
「この車は、いくらですか?」
「かしこまりました。では、御見積りを致しましょう。あちらに腰掛けてお待ちください。」
守と知佳、誠とみずきは、椅子に腰かけたが、渉と美樹は、車から離れずに他の営業マンから説明を受けていた。
少しするとお店の女性が、アイスコーヒーを持って来てくれた。
渉と美樹以外の者達が、アイスコーヒーに口を付けると間もなく、先ほどの営業マンが資料を手に戻って来た。腰掛けるとすぐに資料を開き、テーブルへ載せた。
「お待たせしました。基本的な金額はこの様になります。サウンドバージョンなども有りますが、オプションで何をお付けになるかで、金額は変わります。下取り車は、御座いますか?」
守は、即答した。
「いえ、有りません。」
「では、オプションは何かご希望は御座いますか?」
守は、良く解らないから、車を見ている渉に声を掛けた。
「おい、渉! 何かオプションで付けたい物は有るのか?」
渉は、展示車に夢中だった。
「任せるよ。」
守は、装備が充実したものが好きだった。
「じゃー、付けれる物みんな付けてください。ステレオとナビは一番いい物を付けて。」
「はい、それでは、一番高い物で。では、お色は如何しましょうか? 」
守は、渉の気に入った色にしようと思った。
「渉、色は?」
渉は、展示車両を見ながら答えた。
「これが、いいよ。」
「それじゃー、あの車と同じグレーメタリックで。それと、支払いは、今、一括現金で。」
「分かりました。ありがとうございます。では、御見積りを作成して参ります。」
約10分後に、営業マンは戻って来た。
その後、オプションで付けた物や今後の説明が行われて、契約書にサインをした。
値引きは期待出来ない車で、大したことはなかったが、守は気にしなかった。
営業マンは、ポーカーフェイスを決め込んでいたが、この瞬間は、少しだけにやけたように見えた気がした。
「では、お支払いの方はよろしいでしょうか?」
守は、カバンからおもむろに1000万円を取り出した。
それを見ていた井上知佳が、思わず声を出した。
「すごーい! 私、1000万円の札束、初めて見た!」
上野美樹の目も輝いた。
「わたしも初めて! 1000万円って、そのくらいの厚さになるんだー。」
橘みずきも何か言わずにはいられなかった。
「すごーい! でも、そんな大金が、そのカバンに入っていたとは、誰も思わないね。」
渉が守の代わりに答えた。
「それが狙いで、ブランド物でもない汚いカバン使ってるんだよな、守?」
守が、照れ臭そうに言った。
「まーね。」
代金を払い終えると、展示してある車をみんなでいじり回した。
渉が、得意げに誠に言った。
「なーっ、誠! かっこいいだろうー。」
誠は、正直それほど良いとは思っていなかった。
「ん~、まーね。」
「えっ? カッコイイと思わないの?」
「ん~、それほど普通の車と変わらないじゃん。」
上野美樹が、どうして解らないの!と言わんばかりに言った。
「すごく速いのよ!」
「走らないと分からないし。」
橘みずきには、誠が渉と美樹に攻め立てられているように見えてきて、誠の味方をしたくなった。
「私も、普通の車と変わらない気がする。」
井上知佳も、車の事は大して解らなかったが、みずきが、良いタイミングで誠の後押しをしたのが、気になった。
「あ~あ~、みずき、ったら、恋人気分?」
「もー、違うよー、私もそう思っただけよ。」
井上知佳は、車に興味がなさそうな誠に、ちょっと気になった質問をしてみた。
「誠さんって、好きな車って有るんですか?」
誠は、考えるしぐさも無く、瞬時に答えた。
「ランボルギーニかな。」
渉が、相当びっくりした声を上げた。
「えっ!ランボルギーニ? 初耳だー。」
井上知佳は、自分にでも解るような名前が返ってくると思っていた。
まさか、車好きの渉がびっくりするほどの名前を言うとは、どんな車か興味を持った。
「それって、カッコイイんですか?」
上野美樹が、思わず漏らした。
「あれは、凄いよ!」
守も、誠の口から出るとは思ってもみなかった。
「本物見たことが無いけど、映画で見たなー。カッコ良かったなー。」
橘みずきも、どんな車か知らなかった。
「そうなんですかー、見てみたいなー。」
守は、割と単純に行動を起こすタイプだ。
「見に行ってみようか?」
上野美樹も、見たくなった。
「行こう、行こう!」