第14話 「ナンパの達人」
2人は、水越渉が居るガールズウォッチングポイントへ戻った。
「よっ! どうだった?」
守は、自分がナンパ下手だと思っていない。
「どうもこうもないよ。ここに来てる女、みんなバカじゃねぇの?」
渉が、なぜかナンパの達人のように上からものを言った。
「歩いてる女を狙っても、ダメさ。何か目的があって歩いてるんだから、よほどツボに入らないと、うまくいかねぇよ。」
どういうわけか、いつも仕切り屋の守が、素直に渉に聞いた。
「それじゃー、どーすればいいんだよ。」
「寝てる奴を、狙うのさ。それも微妙に、周りを気にしてる女。つまり、待ってそうな女に声を掛ける。これ成功の道なり。」
渉は、この日の為に前もって読んでおいた本の記憶を、鼻高々に紐解いて話した。
「なるほど。でも、水越大先生は、昨日はそんなことしてなかったと思いますが。」
「ちょっと昨日は、人物重視でどこまでやれるのか、試してたのさ。成功すれば誰でもいいって訳じゃないからね。」
守が渉の講義に感心しているとき、誠が指を差して言った。
「あそこの2人は、そんな感じに見えるけど。」
守が、目を凝らした。
「どれ、どれ。おー、なるほど。でも、ちょっと、けばくない?」
渉が一括した。
「もう今日は、選べる立場じゃないつーの。どーせ断られる可能性が高いんだから、練習、練習。」
「分かった! 行くぞ、誠!」
「えーっ! 俺?・・・行くの? 俺はいいよ。好みじゃないよ。」
「何言ってんだよ。人は外見じゃないよ。それとも電車で帰るのか?」
「電車って、えーっ、参ったなー。外見を一番気にしてるのは誰だよ。」
「いいから、来いよ。遊びなんだから。お前だって、ナンパで恋人が出来るなんて、本気で考えてないんだろ?」
「はいはい。仕方ないかー。」
2人は、黒色のビキニに金のアクセサリーを身に付けて、パラソルの下でうつ伏せに寝て雑誌を見ている2人の所に近寄った。
誠が認める守の凄いところは、誰にでもちゅうちょなく声を掛けられるところだった。
「ねぇ、君たち一緒に遊ばない?」
誠は、がっくりした。守は学習というものをしないのかなっと思った瞬間、驚いたことに一人の女性Aが普通の返事をした。
「何して遊ぶの?」
守は、今までの人とは雰囲気が違う対応にちょっと動揺しながらも言った。
「ビーチバレーとかさ。」
隣にいた女性Bが、答えた。
「なんか、かったるいな~。」
「身体動かすと気持ちいいよ。」
女性Aが手を振った。
「疲れるから、いいや。バイバイ。」
「そんなこと言わないで、遊ぼうよ。」
女性Bが、聞いてきた。
「お金有るの? 仕事何してるの?」
「金なんて大して無いけど・・・。まだ大学生だし。」
「なんだ、大学生か。お金無いなら、遊べないじゃん。」
女性Aが起き上って座った。
「見て解らないかしら? わたしら、お水よ。お金無い人とは、遊ばないの、バイバイ。」
守は、ハッとした。
「キャバ嬢か。行くぞ、誠。」
守は、何のちゅうちょもなく渉の居るポイントに歩き出した。
誠は、金持ちの守が、何でそんな対応を取ったのか不思議だった。
「守、何で、あっさり引き下がったの?どうせ遊びなんだろ?別にいいじゃんか。」
「あのさー、あいつらは、プロだよ。痛い目に会うのが落ちだよ。金なんかいくら有っても足らないさ。」
「へーっ、そんなものかなー。女好きの守が言うんだから、当たらずも遠からずだな。」
守と誠は、渉の所に戻った。
戻るとすぐに、守は渉にうっぷんをぶつけた。
「何だよ、キャバ嬢だったぞ。お前の言うこともあてになんねーじゃん。」
「そんなことねぇーよ。見れば分かるじゃん、ケバイもん。前に痛い目に有ったからって毛嫌いすることないじゃん。良い人だっているかもよ。でも、待ってたのは当たってただろ?」
「まーな、確かに。黒に金色は、俺達の趣味じゃなかっただけかな。」
誠は、もう嫌になっていた。
「守、もう、やめようよ。疲れたよ。普通に泳いで遊んだ方がいいよ。」
「確かに、疲れたな。誠が良いなら、もういいっか。」
渉が、にやけた。
「やっと気付いたか。」
守が涼しげな渉に言い返した。
「言い出しっぺのくせに、自分が成功したからって、上から目線かよ。」
誠が、海を指差した。
「いいから、泳ごうぜ。」