第12話 「目的」
次の朝3人は、ホテルの用意された朝食を摂らずに、早々と昨日と同じ海の家にやって来た。
仕切るのはやっぱり、守だ。
「とりあえず、駐車出来たし、場所取りも終わったし、朝飯食いに行こうぜ。」
それならとばかりに、渉が指を差しながら言った。
「あっちに、ファミレス在ったよ。」
歩くこと約5分、3人はファミレスに入った。
7時台にしては、お客が多めだ。
3人共に、モーニングセットを注文して、今日の予定を相談した。
守が切り出した。
「もうすぐ8時だから、人の少ない11時くらいまで泳いで、昼飯食べたら3時までナンパして、それから帰ろうぜ。」
渉が、直ぐに反論した。
「それじゃー帰り大渋滞だぜ。」
ナンパをしたくない誠も言ってみた。
「じゃー、昼飯食べたら帰ろう。」
守は、不服そうだ。
「ナンパする時間無いじゃんか。」
誠は昨日の出来事で、ナンパなんかどうでもよくなっていた。
「ナンパなんかしなくていいじゃん。」
守は納得できない。
「また話を戻す。泳ぐのなんて適当にして、今から2時までナンパすればいいじゃん。昼飯なんか、焼きそばか何か適当に食えばいいんだよ。」
渉も、ナンパする気なんてなくなっていた。
「由香ちゃんみたいな可愛い彼女が居るのに浮気したいなんて、俺もそうなっちゃうのかなー。」
誠は、渉がそんなことを言い出す気持が解って、話に乗った。
「イヤ、俺は、絶対に浮気なんてしないよ。」
守は、絶対と言い切ることが大嫌いだった。
「何事にも、絶対なんて有り得ないね。今彼女が居たとして、もし鮎川留美が付き合ってて言って来たらどうする?」
誠は、返事に困った。
「えーっ・・・だけどそれは、絶対に有り得ない話だし。」
守の顔がマジになっていた。
「今考えたよな。迷ったってことだろ? もうそれは、絶対なんかじゃないんだよ。それに、絶対にあり得ない話とか言い切れないって。そんなこと言ったら、ジョキングしてて、鮎川留美をおんぶする確率なんて無いに等しいよ。でも、そうなちゃったんだから。」
「それは、そうだけど・・・。」
考え込んだ誠の間を縫って渉が、言った。
「ほんと、もったいねぇよなー。」
守は、ひらめいた。
「そうだ。ファンレターでも出せば、憶えてて返事くれるかもしれないぜ。」
誠は、あり得ないと思った。
「凄く人気あるのに、ファンレターなんて、いちいち読んだりしないよ。」
「ファンを大事にしてるんじゃ無かったけ?」
「それはそうだけど、忙しくて読む時間が無いと思うよ。」
守が、じれったくなった。
「終わったこと言ってても始まらない。ナンパするべし。」
渉は、目的を達成した気分になっていた。
「やっぱし、俺いいよ。彼女に悪いし。気持ちが乗らないよ。ナンパは気持ちが入らないと絶対に失敗するし。」
守は、一体自分が何のために来たのかを考えると、面白くなかった。
「何言ってるの? 渉が言い出した旅行なのに。自分が上手くいったからって、終わりじゃー誠が可哀想じゃんか。」
「いやー俺は別にいいし。鮎川留美にも会えたし。」
守は、わざわざ由香に嘘をついてまで来たことが、馬鹿らしく思えて来た。
「まったく、2人とも何言っちゃってるの? 俺は、続けるからな!
ナンパしない奴は、電車で帰ってくれよな。 ・・・ナンパなんて、もっと気楽に楽しめばいいんじゃないの? 君たち考え過ぎだって。」
渉と誠は、顔を見合わせた。
「仕方ない。もう少しナンパしますかー。」