第九話 艦政本部と陸軍省
ちょっとご都合があると思います。
―――2月22日、艦政本部―――
またまた来ました艦政本部。
受付の士官を若干驚かせて本部長室に入る。
「岩ちゃんいるか?」
「誰が岩ちゃんですか」
ひょいと本部長室の扉を開けると岩ちゃん事―――岩村清一中将が座っていた。
「急に来るなんて、どうしたんですか?」
「あぁ、航空主義者達の件でな」
俺の言葉に岩ちゃんは顔をしかめた。
「……あの人達には苦労しましたよ。けど、二航戦の山口多聞少将は来なかったですが……」
「山口は俺が説得したから大丈夫や」
確かに空母の力は偉大やけど、護衛の戦艦がいなかったらどうしようもないしな。
山口にその事を言うと、すぐに方向転換したし、山口の切り替えの速さには俺もびびったわ。
「んで、豊田長官は旧式戦艦の空母化は反対やから、それでこれは俺の考えやけど聞く?」
岩ちゃんは頷く。
「俺が前に岩ちゃんに言ったアングルドデッキはどうなった?」
「廃船間際の輸送船を買い取って改装した結果、着艦、発艦はスムーズで見事に成功しました」
俺が岩ちゃんに紹介したアングルドデッキはタイコンデロガ型航空母艦の奴や。
ニミッツ型のアングルドデッキはまた考えたらええねんやし。
「よっしゃッ!!なら、それを装備した空母を建造してほしいねん」
「……成る程、航空主義者を黙らすためですね?」
俺はニヤリッと笑う。
「当たりや。その空母は改飛龍型のように流用しようや」
「はい、妥当な線で行くなら翔鶴型の設計図の流用ですね」
「あぁ、せやけど、搭載機は百機以上にな。それに飛行甲板にも装甲をしないとな。ついでに、翔鶴型も改装しようや」
「……いいんですか?」
「まだ内密やねんけど、4月の頭にセイロン島を占領計画があんねん。それが終わってまぁ6月くらいから改装したらええと思うで」
「分かりました。6月を基準にして準備をしときます」
「頼むわ。後な、戦艦を作ってほしいねん」
俺の言葉に岩ちゃんが目を丸くする。
「作るんですか?」
「あぁ、長門型の図面を流用して高速戦艦作ってな」
「……無理難題ですね」
「そういうなや。高速艦は空母の護衛に回して九隻(レパルスも入れて)、大和型と長門型、それとプリンス・オブ・ウェールズを入れても五隻やからせめて後二隻から四隻は欲しいねんな。米艦隊との艦隊決戦を入れるとな」
「本当に艦隊決戦は起きますか?」
岩ちゃんはあまり信じてない。
「まぁ米軍次第やな」
史実の第三次ソロモン海戦みたいなになるかもしれんしな。
「……分かりました。一応、二隻は考えときます」
「悪いなぁ」
「気にしませんよ」
俺達は苦笑した。
艦政本部を出て、今度は陸軍省に向かった。
―――陸軍省―――
「東條閣下お久しぶりです」
俺は東條英樹首相兼陸軍大臣に敬礼する。
俺が陸軍省に訪れると、直接大臣室に呼ばれた。
「マレー作戦、ジャワ島、スマトラ島攻略作戦はご苦労でした」
東條も陛下が気に入っている俺に頭を下げる。
「それで、今日はどのような用件ですかな?」
東條にくっつく虫―――辻政信が問う。
「まぁ率直に言うと、ある条件の兵士を除隊してもらいたいねんな」
「除隊かね?」
東條が問う。
「それはどういった者ですか?」
「技術者や研究者、熟練工員等を除隊してもらいたいんです」
「なッ!?いくらなんでも無理だッ!!そいつらが引き抜けば、中国戦線は崩壊しますッ!!工員なんぞ女性や子どもに任せたらいいですッ!!」
辻が言う。
「ええ加減にせぇよ辻?日清や日露戦でなら文句はないが、あの頃より技術は進歩しとるねん。近代戦は総力戦やッ!!産業を支える熟練の技術者や熟練工なしには戦えんねんぞッ!!」
ダァンとテーブルを叩く。
辻は俺の一喝にびびったのか汗出まくりやな。
「……確かに技術者や工員は必要だな。……良かろう。古賀中将、技術者や研究者、熟練工員の除隊並びに、中国から撤退することにする」
東條は決断した。
「閣下ッ!?我々は中国を屈服しないといけませんぞッ!!」
辻が激昂してる。
「辻、よく聞け。中国に駐留の部隊をインド攻略に廻すのだ。中国はアメリカから武器供給を受けているからインドを抑えたら中国は我々と戦わずして屈服するはずだ」
東條さ〜ん。遠回しにインド攻略するから海軍も力を貸せと言わないでくれよ。
「分かりました。豊田長官に進言しときます。それと、占領地の悪政は絶対にしないで下さい。後で問題になります」
「うむ」
東條は頷き、俺は陸軍省を後にした。
「閣下。本気に中国から撤退するのですか?」
辻が東條に問う。
「あぁ、中国とは泥沼化になっているからな」
「しかしッ!!」
「先日、関東軍から内密の電文が届いた。ソ連の国境線が慌ただしいとな」
「……まさか満州に?」
「分からん。しかし、戦車や装甲車の数が異常に増えているとの事だ」
「ッ?!……そのために撤退を受諾したんですね?」
「そうだ。満州は何としてでも防衛せねばならん」
「分かりました。早急に会議を開きます」
辻は部屋を出た。
数日後、中国に駐留していた日本陸海軍は撤退を開始した。
しかし、後の調査でソ連軍は兵力を増やしていないことが判明した。
逆に減少していた。
理由は独ソ戦やからや。
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