第三話 旗艦長門へ
汽車の中で、ふと俺はあることに気づいた。
「新型戦闘機作れゆうたのに零戦の改良型を作れになったな……まぁええや」
決まったもんはしゃあない。
俺はそう思って、水交社から特別に貰った握りメシを食べた。
―――呉―――
「やっと着いたな。尻が痛……」
朝7時の汽車に乗って呉に着いたのは、午後3時やった。
「とりあえず、長門に行くか」
確かこの時期の旗艦は長門やったはずや。
桟橋に着くと、一艇の内火艇を見つけた。
艇長の一等兵曹に頼み、柱島泊地に停泊してる戦艦長門に向かった。
―――戦艦長門―――
「ありがとうな」
俺は艇長に御礼を言って、タラップを登る。
舷門にいた当直の二等兵曹が俺の顔を見て驚いた。
「山本長官に会いにきた。悪いが士官の一人を呼んで案内してほしいねんけど……」
「りょ、了解しましたッ!!」
当直兵は慌てて士官を呼びに行く。
連絡を受けたのか当直兵に連れられた士官は俺を見て敬礼をした。
俺も返礼して、此処に来た訳を話し、長官室に案内してもらった。
―――長官室―――
俺は案内してもらった士官に礼をして、長官公室に入った。
「失礼するで」
中に入ると、俺が来ると予想してなかったのか、山本長官とたまたま居たのか黒島亀人先任参謀は目を丸くしていた。
「(まぁ将官登舷の笛も吹いてないからな)」
「どうした古賀?お前は支那方面艦隊司令長官になって中国に行ったはずだ。何故此処にいる?」
流石連合艦隊司令長官は違った。
直ぐさま我に帰ると、俺に話し掛けてきた。
「実はお願いがありましてね。それではるばる中国から来たんです」
「ほぅ、まぁ座れよ」
俺はソファーに座る。
「それで?願いとは何だ?」
山本長官の顔が真顔になる。
「実はですね……対米戦を中止してもらいたいんです」
「……何?」
長官がギラリと俺を睨む。
「長官は米国に行って実際に工業力を見てるんでしょ?なら、真珠湾作戦は止めるべきです」
「馬鹿なッ!?初戦で米太平洋艦隊をくじいて米国市民の戦意喪失を狙うんですよッ!!」
黒島が声を荒げる。
「黒島の言う通りだ。初戦で敵をくじいてこそ、日本が生ける道だ」
「しかし、ルーズベルトはそう思ってませんよ」
そっから約3時間。
俺達は討論の熱戦を繰り広げたが、二人が折れる事はなかった。
もうこれはあかんわ。
やっぱ、山本は米国政府をよく見てなかったな。
工業力だけしか見とらん。
確かに工業力を見るのは大事やけど、それを動かす政府をよく見ないと。
山本五十六は所詮そこまでの男て事や。
「分かりました。もう自分は諦めました」
「そうか。よく分かってくれたか」
山本は満足そうにしとる。
「自分は、また中国に戻りましょう」
山本に敬礼をして長門を退艦した。
俺は、一旦、呉鎮守府に向かった。
鎮守府長官の豊田副武大将は俺の来日に驚いたが、海軍省に電話をしたいと言うと快く貸してくれた。
『及川だが?』
電話相手は及川海軍大臣やった。
「及川大臣、古賀です。今、呉鎮守府から電話をしています」
『そうか。……どうだったかね?』
「……駄目でした」
『……そうか。で、あれを発動するのか?』
「……するしかありません。何度も対米戦は中止するようにと言ったのですが、山本五十六は聞く耳を持たないようです」
『……分かった。とりあえず古賀君は支那艦隊旗艦に戻ってくれ。軍令部は自分に任せてくれ』
「分かりました」
俺は、豊田大将に御礼を言って、日本から広州に戻った。
それから一週間後の9月10日。
及川海軍大臣は、突如、連合艦隊の人事異動を発表。
連合艦隊司令長官山本五十六大将を解任。
後任は、豊田副武大将に任命。
連合艦隊参謀長宇垣纏少将は留任。
連合艦隊先任参謀黒島亀人大佐を解任。
後任は神重徳大佐に任命。
その他の参謀達は留任となる。
第一航空艦隊司令長官南雲忠一中将を解任。
後任は南遣艦隊司令長官小沢治三郎中将に任命。
なお、南雲忠一中将は南遣艦隊司令長官に任命。
支那方面艦隊司令長官古賀大和中将を解任。
後任は山本五十六大将に任命。
新設第二航空艦隊司令長官に古賀大和中将に任命。
以上が人事異動の内容だった。
これには海軍中の激震が走った。
「……やられた……」
人事異動を聞いた山本五十六は暫し、呆然とした。
また、黒島亀人もそうであった。
豊田大将はいきなりの司令長官任命に驚いた。
豊田は海軍省に呼ばれ、及川から説明を受けると納得した。
また、俺も困惑していた。
「第二航空艦隊て何?」
基地航空艦隊のなら知ってるけどな〜。
「新鋭空母の翔鶴型と龍驤、瑞鳳の四隻を中心とした航空艦隊ですよ」
「……何で知ってんの?」
大川内に問う。
「……及川大臣に参謀長になれと言われましたから」
ようするに、俺の抑え役か。
可愛そうに……。
「そう思うなら、書類から逃げないで下さい」
「無・理♪」
俺は隙をついて逃げた。
「ちょ、Σ( ̄▽ ̄;)逃げるなァァァーーーッ!!!」
今日も、軽巡五十鈴の艦内に大川内の怒号が響いた。
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