第二十三話 ドーバー海峡突破3
―――旗艦瑞鶴―――
「高橋機より入電ッ!!『敵空母一、巡洋艦二、駆逐艦一隻撃沈ス。空母一、戦艦一中破』以上です」
通信兵が報告をする。
「神龍と銀龍、龍驤に発光信号。第二攻撃隊用意やッ!!」
三隻には予備として、零戦十八、九九式艦爆三六、九七式艦攻三六機があった。
「無茶です長官。今から発艦すれば、帰りは夜になります。それに三隻のパイロットは夜間飛行はあまり訓練をしていないので危険です」
大川内に止められる。
くそ。
ふと俺は長門を見た。
「……進撃や……」
「……は?」
「進撃や大川内ッ!!敵は傷ついている。こっちには長門やティルピッツもいる」
戦艦群はまだ無傷やった。
「全軍進撃ッ!!合戦準備やッ!!夜戦に備えるんやッ!!」
俺は叫んで、発光信号が戦艦群に飛び交う。
古賀艦隊は機動に入ったが、ドイツ艦隊はアタフタとしている。
しまった……ドイツ海軍には艦隊決戦思想はないんや。
ドイツ海軍はどんな戦艦だろうとも輸送船を相手にする。
多分ドイツ海軍に大和型があったら通商破壊に使うやろな。
基本的にドイツ海軍は通商破壊戦が中枢やからな。
「構わへん。逃げるんやったら逃げたらええ。それが俺達の任務や。いざとなったらイギリス艦隊の腹に魚雷をぶち込んだらええねん」
日本艦隊はイギリス本国艦隊に向かって大きく舵を切った。
すると、ドイツ艦隊を見ていた大川内が嬉しそうに言った。
「長官、ティルピッツにグナイゼナウがついてきますよ」
「……やっとやる気になったな。そういや、シャルンホルストは?」
「……動いています。ゆっくりとですが、こちらは北上しています」
シャルンホルストを見ていたルツィアが報告する。
応急修理が上手くいったようやな。
シャルンホルストは駆逐艦四隻の護衛で離れていく。
そして残った艦隊は、攻撃隊を収容しつつイギリス本国艦隊に向かった。
空母は五隻の駆逐艦に護衛されながら、戦艦部隊とは少し離れた。
ズドオォォォーーンッ!!
長門と陸奥、ティルピッツが距離四万で主砲を発射した。
長門と陸奥の初弾は外れたが、射撃管制用のレーダーを搭載しているティルピッツは命中した。
被弾艦は恐らくはキング・ジョージ五世型やな。
主砲の砲門が二基あるらしいし。
長門と陸奥の二斉射目は至近弾。
次か、その次で命中やな。
それに対して、イギリス艦隊の反撃はない。
戦艦と巡洋戦艦合わせて三隻もあるんやから反撃出来るはずやねんけどな。
まぁ、航空攻撃で傷つけられ、砲撃されてたら流石に意気消沈するわな。
意気消沈した軍に勝ち目は薄いし。
「敵艦隊が遁走します」
見張り員が報告する。
双眼鏡で見ると、敵艦隊は陣形を乱して速度を出すのに必死や。
逃げるのは見知らぬ空母(後日の調べで、アメリカから貸与された軽空母と判明した)、戦艦デューク・オブ・ヨーク、推進軸を損傷したハウ。
長門と陸奥、金剛に榛名も砲撃するが、装甲が硬いのか中々沈まない。
「……手強い奴には魚雷やな」
五十鈴が修理中なので、交代として同型の長良が水雷戦隊を率いている。
水雷戦隊から次々と魚雷が発射された。
そして陽が暮れようとする北海の海に数本の火柱が上がった。
イギリス艦隊に魚雷が命中した証拠や。
敵空母があっという間に波間に消えていく。
まさに轟沈やな。
デューク・オブ・ヨークとハウは頑丈の戦艦なため、沈みはしなかったが炎上している。
多分大破やろな。
「……戦いの終結やな……」
燃える二隻を見て俺は呟く。
「全艦、ノルウェーへ向かえ。戦いは終わった」
日独艦隊は救助活動をするイギリス艦隊を尻目に、ノルウェーへ向かった。
「まぁ飲めや早川。五機撃墜おめでとう」
「ありがとうございます長官」
戦いの後、俺の部屋でルツィアや金剛達と飲んでいた。
「作戦は成功……か。何だか信じられないわね」
金髪で青い目をした女性が呟く。
「ドイツが単独でしてたら全滅してたな」
榛名が言う。
「我々海軍は弱いからな」
「まぁこれからはソ連が相手やろティル?」
女性は戦艦ティルピッツの艦魂ティルピッツ通称ティルや。
「そうだな」
「まぁ飲めやティル。それにもう少し喜べや」
「それもそうよね」
ティルが笑う。
宴会はしばらく続いた。
これが最後の宴会とは知らずに………。
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