第二十一話 ドーバー海峡突破
「敵艦隊の経路はどうなってるんや?」
「スカパフローの艦隊は西を、ポートランドの艦隊は真南を目指しているとのことです」
俺の問いに、大川内が答える。
俺は頷いて、ヨーロッパの地図を見る。
スカパフローはイギリスの最北端、本国艦隊の母港や。
こいつが西へ進んでいるのは恐らくはアイルランドを回り込んで、俺の機動部隊が北へ抜けようとする頭を抑える作戦やろうな。
一方で、ポートランドは南端の港、海峡部隊の根拠地や。
情報では旧式艦を中心とした鈍速の艦隊やけど、近いだけ早く接触しそうやな。
まぁ、そうやすやすと捕まるつもりはないけどな。
「敵哨戒機発見ッ!!」
見張り員が報告する。
「撃墜しますか?」
マリノが聞く。
「夜が明けてからやな」
イギリス軍のサンダーランド飛行艇はずっと接触を続けてくる。
随時報告をしているらしく、頻りに電波が発信されている。
機動部隊は十八ノットの速度で、北々西に進み続ける。
直進すればアイルランド西方海上を通過する航路や。
夜が明けた。
「早川、橘、六道。あの飛行艇を叩き落とすんや」
『了解ッ!!』
三人は飛行甲板に降りて、用意していた零戦に乗り込んで発艦。
あっという間にサンダーランド飛行艇を落とした。
「取り舵一杯ッ!!全艦全速前進やッ!!ドーバー海峡目指して突っ走れッ!!」
艦が大きく傾き、出力も最大速にまで高められる。
瑞鶴の蒸気タービンが十六万馬力を絞り出す。
艦隊は一気に三十ノットにまで速度を上げる。
海峡部隊がサンダーランド飛行艇の偵察を元に行動しているんやったら、俺の部隊がイギリス本島西側を目指していると信じているはずや……多分。
もし、気がついてドーバー目指して転針したとしても遅い。
俺の艦隊は俊足をもって海峡部隊を振り切る。
古賀艦隊の転針と同じ時刻、ドイツ、イギリス両国で動きがあった。
イギリスはサンダーランドの接触が途絶えたと同時に古賀艦隊を再発見しようとイギリス全体に配備されたレーダーの出力を上げたと同時にパニックを起こした。
レーダー画面に映るのはざらざらとした映像だけである。
急いで原因を調べたが、気象現象や機械の故障ではなかった。
ドイツ側が妨害電波を発していたのだ。
ドイツは十一メートルから八十センチまでのあらゆる波長の電波をイギリスに発していた。
恐らく史上初めてのレーダー妨害である。
イギリス側は直ぐに原因に気づいたが、十数機のドイツ軍爆撃機がロンドンの軍事工場を爆撃。
ロンドンの防空司令部は空襲の恐怖に惑わされて、対空監視をしざるをえなかった。
行方の消えた機動部隊は洋上の本国艦隊に任され、ドイツ艦隊についてはちらとでも思い浮かべるものすら彼等にはなかった。
「ドイツ艦隊を発見しました」
見張り員が報告する。
三隻の戦艦と四隻の駆逐艦の小規模の艦隊であるが、ドイツ海軍の戦艦全隻がいる。
「直掩の零戦を増やせ。無線封止を徹底するんや」
両艦隊は速度を二十八ノットに合わせて航行する。
1100時、イギリスの巡視艇がドーバー沖を通過する艦隊を発見した。
直ぐにロンドンに報告が来たが、いつハインケル爆撃機の空襲があるかとロンドン上空を睨んでいたロンドンの首脳をそれを信じなかったらしい。
続々と入ってくる報告でようやく事実を認め、叫んだという。
「ドイツ艦隊がやって来るとしても、それは真夜中であってこんな真っ昼間じゃないッ!!」
ドイツの防諜の勝利の瞬間だった。
イギリス側の攻撃が開始されたのは日独艦隊がドーバー海峡の一番狭い部分を通過した後だった。
ズシュウゥゥーンッ!!
ズシュウゥゥーンッ!!
沿岸砲台が火を噴くが、錬度が悪く水柱が上がる一方や。
「砲撃準備完了ッ!!」
「全艦撃ち方始めェッ!!」
ズドオォォォォォーンッ!!
長門以下の戦艦と重巡が火を噴き、沿岸砲台を砲撃する。
ヒュルルル………ズガアァァァァァーンッ!!
沿岸砲台が次々と燃える。
使用弾は勿論三式弾や。
沿岸砲台の砲弾が次々と誘爆して、沿岸砲台はたちまちの内に沈黙した。
艦隊はドーバー海峡を通過していく。
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