第二話 説得
俺を乗せた九六式陸攻は約8時間程で、横須賀海軍航空隊に着いた。
「古賀長官、お待ちしておりました」
連絡を受けた士官が出迎えてくれた。
「急にすまんな。どうしても軍令部行かないとあかん用事があってな」
「いえいえ、古賀長官の噂はかねがね聞いております」
車が走る中、士官が笑う。
「どんな噂や?」
「嫌みな上官や先輩を私刑にしたり、曲がった事は大嫌いな古賀大和と聞いています。後は僅か十八歳で支那方面艦隊司令長官に命じられる奇跡の海軍軍人と聞いています」
……作者よ、十八で支那方面艦隊司令長官は止めとけよ。
『いや〜、小説読んでたら変な電波を受信してな……by作者』
士官と話しをしてたら、2時間くらいで海軍省に着いた。
「及川古志郎海軍大臣と面会したい」
受付にいた士官は俺の来訪に慌て、急いで及川大臣に告げて、海軍大臣室に入った。
―――海軍大臣室―――
「どうした古賀?お前は支那方面艦隊司令長官で広州にいるんじゃないのか?」
俺が入って来るなり、及川古志郎海軍大臣が俺を睨む。
「大臣に話しがあります」
俺はそれを無視して大臣に歩み寄る。
「……話しとは?」
「………米国との開戦は是非避けて頂きたいのです」
「何?」
ギロリと及川が俺を睨む。
「どういう事だ?」
「大臣。何故、米国と開戦しなければならないのですか?」
「……南方を攻略する際、フィリピンにいる米軍が邪魔だからだ。それに太平洋で戦う場合、米海軍が相手だからだ」
「邪魔やからと言って米国と開戦ですか?それはちと、おかしくないですか?」
「おかしいだと?」
「はい。東南アジアを植民地にしているのはイギリスやオランダです。わざわざ米国を攻撃する必要はないと思います」
「……しかしな古賀よ。南方の物資を届ける時にフィリピンの米軍に邪魔をされる可能性がある。なら、いっそ開戦した方がいいのではないか?」
「いいえ、輸送船団に多数の護衛艦を付ければ問題ありません」
「護衛艦だと?」
「はい、輸送船団に合わした軍艦。二等駆逐艦と言えばいいでしょう。第一次大戦に欧州に派遣した特務艦隊のような物です」
「成る程……」
「それと、護衛用の空母が必要です。こいつには戦闘機と哨戒機だけを搭載します。後は潜水艦に気をつけて航行すれば、問題ありません」
「むぅ……」
及川が腕組みをしながら唸る。
「大臣。米国との戦争は自分は一向にしても構いません。しかし、有利な条件でやらないと我々は到底奴らには勝てませんッ!!」
「……………良かろう。古賀、海軍省は貴様に賛同しよう」
ありゃりゃ?上手くいったなおい。流石、ご都合主義やな。
「ただし、実戦部隊の連合艦隊には貴様が説得しろ」
「分かりました、お任せ下さい。あ、言い忘れがありました」
「何だ?」
「実はですね。山本さんが駄々をこねたら…………………」
「な、何ッ!!」
及川は思わず立ち上がる。
「お願いします大臣」
俺は頭を下げる。
「……分かった。お前にやらせよう」
「ありがとうございます。しかし、これはあくまで保険です」
「分かっておる」
及川は頷く。
「それではこれで失礼します」
「うむ」
俺は大臣室を出た。
「……奇跡の軍人…か…。奴ならこの日本を救ってくれるかもしれんな」
及川が呟いたのは俺は知らなかった。
何とか終わったな。
あ、もう一個行くとこあったんや。
―――海軍航空本部―――
というわけで、航空本部に着きました。
え?早くない?ご都合主義てことで。
「航空本部長にお会いしたいんやけど……」
海軍省同様に受付をしていた士官は俺の顔を見ると慌てて航空本部長を呼びに行った。
―――航空本部長室―――
「これは古賀中将。本日はどのようなご用件で来ましたのですか?」
一応、二期後輩の沢本頼雄中将に面会した。
「実はな、零戦の事で少し話しがあってな」
「ほぅ……」
沢本の眉がピクッと動く。
「まぁ単刀直入に言うけど、零戦は欠陥機やから新型戦闘機を開発してほしいねん」
「……欠陥機ですか。その理由は是非とも教えてもらいたいですね」
最高の戦闘機を侮辱されるんは嫌なんやろうな。無茶苦茶耐えとるし。
「一つ目、主武装の弾丸が少ない。主武装は二十ミリ機関砲やろ?」
沢本が頷く。
「でも、一門につき弾丸は僅か六十発しかない。こんなんやったら二、三回で弾が無くなるで」
「確かに……」
「んで、副武装の七.七ミリ機銃は弱すぎる。中国軍が相手やったら勝てるけど、装甲が厚い米軍機では豆鉄砲なもんや」
「むぅ……」
沢本は唸る。
「二つ目は発動機の馬力が弱い。栄発動機で950馬力やと、米軍機相手には厳しいで」
「三つ目は装甲が薄い事や。零戦は火力や機動性はええけど防御は無に等しい。日本はアメリカと違って搭乗員の予備はないからベテランが落とされたらすぐに新米のヒヨコ達で応戦するしかないで」
「まさか……古賀中将は……」
沢本は何かに気づいた。
「そうや。零戦二一型の生産を廃止して、武装、装甲、エンジンが強化した改良型の零戦を開発して生産してほしいねん。技術者の要望に応えや」
「…分かりました。やってみましょう」
……またあっさりと決まったな。
「まぁ俺からの要望は以上や。あ、後、九九式艦爆や九七式艦攻の改良型作りや。あんな速度やと喰われるで」
「しかし、九九式艦爆の後継機は液冷エンジンを搭載した十三試艦爆が開発中ですし、それに九七式艦攻の後継機には十四試艦攻が開発中です」
「艦爆は液冷エンジンやろ?整備員が液冷エンジンを熟知しとかへんと稼働率は下がるで?艦攻も一緒や。信頼性がある金星エンジンと火星エンジンで設計した方がええわ」
「確かに……」
もう一押しやな。
「確かに我が国は、零戦といった航空機を作れるけど、大量生産する思考がない。芸術品のようなもんや。戦争になったら大量生産しなあかんし、零戦二一型で大量生産出来るか?」
「……無理ですね」
沢本は何か諦めたように顔を俺に向けた。
「古賀中将。直ちに、零戦二一型の生産を停止。零戦の改良型の開発を急ぎます」
よし、流石ご都合主義。
「すまんな」
「いえ、日本を救うためなら何だってしますよ」
俺は沢本に敬礼をして、航空本部を後にした。
「……古賀さんならやってくれるな」
本部長室で沢本が呟いた。
既に時刻は夜の7時を指していた。
俺は芝の水交社に宿を取り、翌朝、朝一番の汽車で呉に向かった。
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