第十二話 疑惑
今回、大和の正体がばれます。
シリアスな展開です。
―――7月10日横須賀海軍工廠―――
空母翔鶴は生まれ地の横須賀海軍工廠で飛行甲板の強化改装を受けていた。
さらに、搭載機を百機以上にするために、二十五メートル程、全長を伸ばしていた。
大和型戦艦を越える全長になったが、後に大和型も二回目の改装の時に全長を伸ばすのであまり意味はなかった。
それはさておき、艦魂の翔鶴は自室の予備士官室に篭っていた。
「……やはり…信じられん……」
翔鶴はとある計画書を見ていた。
それは計画書ではなく、題名には『大東亜戦争』と書かれており、題名の横には『誰も見んなよ〜古賀大和』と書かれている。
翔鶴がこれを見つけたの偶然だった。
セイロン島から内地に帰還して、暇だった翔鶴は艦内を歩いていると、たまたま大和の部屋に訪れた。
「……何故、こいつの部屋にいると落ち着くのだろうな」
翔鶴がフッと笑い、大和のベッドに座る。
「……うん?」
翔鶴が真正面を見ると、制服を入れる箪笥が開いていた。
「全く……ちゃんと閉めていけよ」
翔鶴は扉を閉めようとしたら隅っこに書物を見つけた。
「……これは計画書か?」
それからは翔鶴にとって驚きの連続だった。
「『真珠湾奇襲攻撃』……開戦劈頭に行われた奇襲作戦。しかし、空母及び真珠湾の施設と燃料タンクの破壊に失敗したため、敗北と判断」
翔鶴はペラペラとめくっていくと、あるページで止まった。
「……『ミッドウェー海戦』……第一航空戦隊と第二航空戦隊の四隻からの機動部隊がミッドウェー島を攻撃。しかし、攻撃隊指揮官の判断により第二波を要請。兵装転換が終わり、発艦しようとした寸前、米機動部隊から発艦した艦爆ドーントレスにより空母赤城に爆弾二発が命中、空母加賀に四発が命中、うち一発は艦橋に直撃し岡田艦長以下艦橋にいた者全員戦死。空母蒼龍三発命中。飛行甲板に爆弾や魚雷が無ければ誘爆は防げたが、発艦寸前のため誘爆。三空母は沈没してしまう。一隻だけ残った山口多聞少将旗艦の空母飛龍は敵米機動部隊に対して二波に及ぶ攻撃を加えるが、飛龍も被弾。山口多聞と加来止男艦長は艦と運命を共にした」
翔鶴は何も言えなかった。
最初は冗談と思ったが詳しすぎるのだ。
翔鶴は続けて読むが、ある一文が見えた。
「……『翔鶴沈没』……だと?」
翔鶴はその内容を見た。
「『マリアナ沖海戦』絶対国防圏であるマリアナ諸島を守るために、小沢治三郎中将率いる第一機動艦隊が出撃。大中小の空母九隻の艦隊だが、米機動艦隊は空母十五隻。小沢治三郎中将はアウトレンジ戦法を決行するが、レーダーを使って防空体制は完璧やった。敵戦闘機は四百五十機が上空にいた。攻撃隊は次々と食われていき、米軍から『マリアナ海の七面鳥撃ち』と呼ばれる惨劇となった。一方、小沢機動艦隊は新鋭空母大鳳と……………空母翔鶴が敵潜水艦の雷撃を受けて沈没。………空母翔鶴は米ガトー型潜水艦「カヴァラ」 からの魚雷四発を右舷に受ける。魚雷によって三軸運転となり速力が低下した。また左舷への注水作業によって傾斜の復旧作業が実施されたが、注水のしすぎによって、逆に左舷に傾斜してしまう。また前部に命中した魚雷によって艦首が著しく沈下した。その後、魚雷被弾時に気化した航空燃料が艦内に充満し、それに引火し大火災を起こし沈没。1272名の乗組員が戦死した……」
翔鶴はパサッと書物を落とした。
「……そんな……」
気づくと、歯がガタガタ鳴っている。
「……………」
翔鶴は書物を拾い、再び読みはじめる。
「『戦艦大和の沖縄特攻』……フィリピンを取った米軍が次に目指したのは沖縄。陛下に航空戦力で米軍を撃滅すると言ったが、陛下は『……もう海軍には艦はないのか?もう軍艦はないのか?』と発言。連合艦隊司令長官の豊田大将は戦艦大和を起死回生として出撃を命令。僅か九隻の護衛艦に守られた大和は沖縄を目指したが、米機動艦隊の攻撃により、東シナ海に巨体を沈めた……」
いつの間にかページは最後になっていた。
「……『広島、長崎に原子爆弾投下』広島には8月6日8時15分、長崎には8月9日11時2分に原子爆弾が投下。両市で約三十万人以上の一般市民が死亡。辛くも生き残った人々は放射能の病気に苦しんだ……」
そこで文は終わっていたが、隅っこに小さく文章が書かれていた。
「『俺は日本を破滅の道から救うために転生したと思う。翔鶴や金剛、長門、大和、龍驤は死なせやしない』」
翔鶴は読み終わると哭いた。
『古賀大和は一体何者だ?』
以前、金剛が漏らした言葉だ。
それが何を意味をするのかは最初は解らなかった。
しかし、今なら解る。
『日本が踏みにじられた歴史を変えるため』その信念があるからあいつは未来の生活を捨てたのだろう。
協力したい。それはそうだ。あのまま日米戦になっていたら確実に古賀大和の歴史と同じになる。しかし、古賀大和は対米戦の原因たる山本五十六を取り除いた。……しかし、『艦魂』の私は何が出来る?
政治?
艦隊司令官?
パイロット?
『艦魂は船に宿る妖精』
戦うことなら出来る、しかし、仲間を救う事も出来ず、自艦の乗組員も救う事が出来ず、ただ爆弾、魚雷、砲弾を食らい死を待つだけ。
『何のために私は生まれてきたのだ?』
『何ノためニ艦魂は存在スルのだ?』
『ナンノタメニワタシハソンザイスルノダ?』
翔鶴はただそれを自問自答する。
何回も何回も何回も。
一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、三週間が過ぎる。
何時しか翔鶴は、自室から出る事はなく、ただただそれを繰り返して自問自答する。
いつの間にか翔鶴の服装はボロボロだった。
少し、ツンデレが特徴だった彼女。だが、翔鶴は食事も取らず、水だけを飲み、風呂にも入らず、ただただ天井を見上げる。
そこに翔鶴が求める答えがあるかもしれない。
しかし、答えは出てこない。
いつしか、8月は過ぎて秋の訪れるを呼ぶ9月に入った。
翔鶴はベッドで寝込んでいた。
しかし、時は艦魂の事情を知らず、改装の終了が来た。
翔鶴型は新しく生まれ変わった。
飛行甲板も装甲が敷き詰められ、多層式(液体利用)水中防御層の数を増やし、奥行きも深くしていた。
しかし、艦魂の翔鶴は何も変わっていない。
長い改装を終えた二隻は、駆逐艦の護衛の元、一路セイロン島を目指した。
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