第十話 モルジブ諸島攻略作戦
今回は栗田アンチの可能性大です。
無能ではなく優秀な将官なのは分かっているんですが、スラバヤやバタビアとかは傍観的な位置にいましたし、自分の中ではあまりいい評価ではないです。
ヘンダーソン飛行場砲撃はよかったんですけどね。
―――1942年(昭和十七年)4月5日モルジブ諸島沖東三百キロ―――
第二航空艦隊はセイロン島攻略作戦のためモルジブ諸島のアッヅ環礁を攻撃しようとしていた。
既に各空母の飛行甲板には攻撃隊が発艦準備を完了していた。
―――空母翔鶴艦橋―――
『…………………』
空母翔鶴の艦橋では俺から放たれている殺気に誰も俺に近寄ろうとしない。
「……長官。攻撃隊発艦します」
艦橋に来た攻撃隊指揮官の高橋赫一少佐が俺に報告しにきた。
俺は無言で長官席から立ち上がり、高橋の肩をポンと置いた。
「……環礁に敵艦隊がいたら思う存分やれ。それと、金剛にいる糞野郎に打電しろ『敵艦隊イタゾ。コノ糞野郎』てな」
「……了解です」
高橋は顔を引き攣らせながら艦橋を後にした。
俺は無言で座り、ある方向に視線を向ける。
視線の先には第三戦隊から派遣された金剛がいた。
そろそろ、何故俺がここまで怒っているのかを語ろう。
全ては昨日の作戦会議から始まったんや。
―――前日、空母翔鶴会議室―――
「我々、第二航空艦隊はセイロン島ではなく、モルジブ諸島を攻撃、攻略する事になった」
俺が会議室に集まった各戦隊司令官等に説明する。
「何故、セイロン島ではないんですか?」
第三水雷戦隊司令官の橋本信太郎少将が尋ねる。
「実はな、二日前に連合艦隊司令部から緊急電が来てな。哨戒中の伊号潜がモルジブ諸島のアッヅ環礁というところに英艦隊が退避しているのを目撃してるんや。そこで、豊田長官は一個師団の兵力でモルジブ諸島を攻略する事を緊急決定して、第二航空艦隊に白羽の矢が立ったんや。勿論、第一航空艦隊はそのままセイロン島攻略やけどな」
「しかし、セイロン島は攻略には重要な島です。モルジブ諸島はあまり攻略する意味がないと思います」
第三戦隊の第二小隊司令官の栗田が言う。
「セイロン島が重要なんは俺も分かっとるわ。けど、豊田長官が危惧したのはモルジブ諸島に退避した英艦隊や。栗田。俺らが、英艦隊を叩くねんで?」
「ですが、伊号潜が目撃したと言いましたが、既に英艦隊は察知して逃げたのでないですか?」
「……何処にやねん?」
「さぁ、南アフリカか、セイロン島か。先程も言いましたが、モルジブ諸島は攻略する必要はないと自分は思います。その兵力はセイロン島攻略に回すべきです」
慎重な栗田……いや、第一航空艦隊もいるから安心したいんやろな。何せ第二航空艦隊は寄せ集めに近い艦隊やからな。殺すぞてめぇ。
てめぇが史実にやった過ちは全部知っとるねんぞ。
「……栗田、文句があるなら豊田長官言えやッ!!」
ダァンとテーブルを叩いた。
戦隊司令官達は俺の怒号にビクッと肩を震わせた。
誰も俺が怒るとは思ってもいなかった。
会議はそのまま閉会となった。
あかん……だんだんとムカついてきた。
「……長官。頼みますから殺気を出すのはやめて下さい」
大川内が冷や汗をかきながら言う。
「ん?すまんな」
俺は空を見ると、攻撃隊は水平線に消えようとしていた。
「零戦五四機、九九式艦爆六三機、九七式艦攻六三機の計百八十機の攻撃隊や。充分な戦果を出すな」
俺は呟く。
―――2時間後アッヅ環礁上空―――
「英艦隊がいたぞッ!!やはり古賀長官の読み通りだ。野津ッ!!翔鶴に打電ッ!!『アッヅニ敵艦隊アリ。栗田少将、貴官ノ負ケナリ』」
「了解ッ!!」
野津保特務少尉はニヤリッと笑ってキーを叩いた。
―――空母翔鶴―――
「長官ッ!!高橋機より入電ッ!!『アッヅニ敵艦隊アリ。栗田少将、貴官ノ負ケナリ』です」
通信兵が艦橋に慌ただしく入ってきて俺に報告した。
「いよっしゃァァァーーーッ!!栗田の野郎ざまぁみろやッ!!」
「……あんまりはしゃぐなよ」
翔鶴がボソッとツッコミを入れる。
「すまんすまん翔鶴」
俺は翔鶴に謝る。
そして、一時間後には戦果報告がきた。
「長官、高橋機の報告によりますと、敵戦艦五隻、空母二隻が大破。巡洋艦三、駆逐艦多数が損傷。基地飛行場も使用不能した様子です」
大川内が報告する。
「かなりの大戦果やな?」
「はい、何故かは分かりませんが……」
実はサマービル大将の英艦隊は、セイロン島に敵艦隊(第一航空艦隊)が接近しているのを知り、全艦出撃準備中だったのだ。
そこへ、高橋赫一少佐率いる攻撃隊が来たため、準備中だった英艦隊は敢なく壊滅。
サマービル大将は報告を聞いたチャーチル首相の脱出命令により、無傷だった軽巡二隻と駆逐艦五隻を率いて脱出した。
第二航空艦隊は後方にいた輸送船団と合流するアッヅ環礁を目指した。
途中、栗田が翔鶴型を率いてセイロン島攻略を支援するべきだと主張したが、既にセイロン島の航空戦力と艦艇は壊滅していたため僅か一週間で攻略した。
モルジブ諸島も守備隊が一個連隊程やったため、僅か三日で日章旗が上がった。
この作戦で日本軍は戦艦五、空母三、重巡三、軽巡三、駆逐艦十、輸送船十七隻の艦艇を捕獲に成功した。
しかし、艦艇の大半をアッヅ環礁で手に入れたため、工作艦の到着を待たねばならなかった。(アッヅ環礁には修理施設が無いため)
この一連の報告により豊田長官は明石型工作艦の建造を決定。
明石を合わせて計十二隻が建造された。
さらに、捕獲した六隻の輸送船を工作艦の改装が決定した。
ちなみに、工作艦朝日はアッヅ環礁での簡易修理を終えると、内地に帰還。
新しく設立された海上護衛隊の護衛艦になるべく改装が施された。
なお、栗田少将は作戦後、軍令部に移され、後任には伊藤整一少将が任についた。
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