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紅眼童話  作者: arai hideo
1/1

1旅の仲間

続くか不明ですが、ちょっと書いてみたくなりました。

唯は大きく欠伸をすると、長らく旅を続けている砂猫ブンタに、


「もう3日も岩場が続いてるぜ……。

固いし冷たいし、寝不足なんだよな」


見渡す限り、茶色い石の大地が広がっていた。


川らしいものもなく、岩の大地は初夏の太陽に温められているが、夜になれば急速に熱を失う。


テントや寝袋の下に敷く敷物はあるものの、早朝は冬かと思うほどに気温が下がる。


「ガウ」


砂猫ブンタは唯を嘲笑った。


人間など、所詮群れて村で暮らす生き物なのだ。


誇り高い砂猫のように孤高の生き様は真似できない。


「笑ってる場合かよ。

もう食料も水も、僅かなんだぜ」


砂猫はロバ程の大きさがある。

背中に荷物の革袋を付けているが、今は革のジャケットのように薄べったい。


「せめてトカゲでもいればなぁ」


あまり旨くはないが、とりあえず腹の足しになるし、血は飲める。


唯は真っ赤な瞳で獲物を探すが、砂猫にも見つけられないものが少年に見つかるわけもない。


と……。


ピィーと、雲雀のような鳴き声が遠くで聞こえた。


ブンタの耳が、瞬時に立ち上がった。


2人は合図することもなく走り出した。


数十メートルの段丘を登ると、辺りが見渡せた。


遥か先で、獣人の子供がヨロヨロと逃げていた。


それを巨大な鷲が追いかけている。


「おー、鶏肉!」


鷲の肉は固いが、焼けばかなりのご馳走だ。


ブンタは素早く岩場を走った。


唯は、背中の弓を取り出した。


子供が持つには大きな弓だ。


そして、唯の体に合わせてか、3分の1程の場所に弓柄がある。


唯は矢も持たずに弦を引き絞ると、素早く放った。


弓が手の中でグルリと回る。


光の弓が発射され、鷲の頭を貫いた。


鷲は巨体をドサリと岩場に落としたが、獣人の少年は尻もちをつき、やたら短剣を振り回した。


その隙に、ブンタが鷲を確保した。

唯も走り寄り、


「おい、もう大丈夫だぞ」


獣人に声をかけるが、獣人は目を瞑ったまま、剣を振っていた。


「ま、我ながらいい腕だな」


鷲の逞しい首に直径1センチ程の穴が開いていた。

即死だろう。


唯が夢中で鷲の羽根を毟り始めると、獣人の少年も気がついたようで、


「お前、大鬼鷲を倒したのか!」


驚愕の声を上げた。


「あれ、獣人って獣人の言葉を喋るんじゃないのか?」


唯は毟った羽根を袋に入れながら、言葉だけで答えた。


「俺は違うんだ」


ん、と唯は獣人を見て、


「違うって?」


「俺の母ちゃんは大山猫だ。

たが、早くに殺されて、俺は樵の爺さんに育てられた」


ふーん、と唯は興味無さそうに聞く。


「じゃ、お前の親父は人間って訳か」


大山猫から獣人が生まれたなら、異種婚の結果、という事になる。


むす、と獣人は、


「親父は知らない。

母ちゃんは殺され、その時には親父はいなかった。

記憶にも無いから、もっと前から親父はいなかったと思う」


よくある話だな、と唯は思った。

なかなか異種族の結婚は上手くいくものではない。


「なぁ、それ、俺も食べていいか?」


獣人の興味は食欲に移った。


「俺になんか得でもあるのか?

生きてるだけでも儲けものだろ?」


獣人は慌てて、


「こ、これをやるぜ」


腰の袋から、獣人は羊皮紙を取り出した。


「なんだ、それ?」


獣人は丸まったそれを両手で広げた。


それは地図らしかった。


毛を毟ると、唯は着火魔法で炭に火を点け、鷲の表面を炙った。


「ここら辺の地図だ。

ほら、あの山がこれ」


なるほど、ギザギザがそっくりな山があった。


「で、だ。

あの山の奥に塔がある」


唯は首を傾げる。


「なんでそんな山奥に塔があるんだ?」


「魔法使いの塔だからだ」


簡単な魔法なら覚えたり、教えられたりして人も、獣も使えるが、魔法使いというのは剣士も敵わない戦闘魔法を使うという。


だが、それには沢山の書物を読んだり、魔物を呼び出して授かったりしなければならない。


学識もそうだが、魔物と交渉するため生贄を攫ったり、恐ろしい噂も絶えなかった。


「わざわざそんな危ない場所に興味はない」


町の魔法使いは病気を治したりするが、わざわざ山奥に豪邸を構えるのだ。


言わば魔法の城であり、近づくものを許すとも思えない。


「金銀財宝を蓄えてるって話だぞ」


「この羽根を売ったら金貨三枚。

俺はそのくらいで充分だ。

持てない程の金を取ってどうする?

命を狙われるだけだぞ」


「魔法の道具も手に入る。

盗賊なんかに負けないさ」


「俺はそんなものより水が欲しいね」


言うと獣人は山の麓を指差した。


「ほら、ここが泉だ」


水は必要だった。


「案内できるか?」


地図は、いわゆる絵地図であり、大雑把な周辺地形を、きわめて装飾的に描いたものだ。

四隅には蔓草の文様が描かれていた。


「任せておけ!」


仕方なかった。


唯とブンタで翌日分まで確保するつもりだったが、水があるのなら肉を取ったガラでスープを作り、大麦粥を炊けば間に合うだろう。


「仕方ない。

俺は唯だ。

コイツはブンタ。

幼い頃から一緒に育った兄弟だ」


「俺はレオ。

アルフォスの町に行きたいんだけど、無一文だと町じゃ暮らせないから、塔を狙っているんだ」


「悪いが、俺は化け物より恐ろしい魔法使いなんて興味ない。

水場までの同行だからな」


「うん、わかった」


とレオは言うが、鷲肉を炙る間も、


「その弓は凄いな。

そんな魔法道具があるなら、何も怖くないだろ」


とか、


「剣は持ってないのか?

塔には魔法剣もあるはずだぞ」


等と誘いをかけた。


「この弓は親の形見だ。

育ててくれた叔母さんが旅立つ俺にくれたものだ」


「両親はどうしたんだ?」


「2人ともなかなかの武者だったらしいが、旅の男に殺されたそうだ。

なんでも影のような化け物を使う男らしい。

だから俺は、上には上がいるのは知ってるんだ。

ブンタと旅をしていれば大金もいらないし、町になんか興味がない」


ふーん、とレオは唯を見て、


「お前、赤目は不吉とは言われるが、弓の腕は凄いし、第一、中々の男前じゃないか。

女を抱いたことはあるのか」


露骨なことを聞く。


「興味ないな。

身を固めるつもりもない」


レオは驚愕し、


「おまっ!

結婚しなくても町に行けば、お金次第で可愛い女の子と色々出来るところもあるんだぞ!

知らないのか?」


「興味ないな。

ブンタもなかなか可愛いぞ!」


レオは慌てて身を反らし、


「ま、まさかお前、獣趣味!」


唯はポカンと、


「趣味ってなんだ?」


レオはまじまじと唯を見つめる。


背はレオよりも頭一つは高いのだが、体の線は細い。

顔も整ってはいるが童顔で、どうもまだその手の事は知らないのかもしれない。


まして、町にも近づかず、砂猫だけがお友達のようだ。


射精どころか、勃起するのかもあやしい年齢なのかもしれなかった。


「お前さー、チンチンに毛、生えてるか?」


年齢を聞いても個体差は大きい。

実際的には蕾でもあるのか若葉なのかは、日当たりによって違うのだ。


「生えてない!」


意外と力強く、唯は断言した。


「あー、俺なんかは分からないけど、人って、毛を剃ったりするんだってな?」


やや顔を赤くして、唯は、


「生えてないって言っただろ!」


ほぼ事情を察したレオは、まあまあ、となだめた。


肉は、香ばしい匂いを漂わせていた。


その手のことを触れてはいけない年齢になりかけていて、必死に隠しているようだった。


機嫌を損ねては旨そうな肉を失いかねない。


「どの辺の生まれなんだ?」


レオは獣人のようで獣人ではない。

だから獣人のコミューンにも入れず、人間からは迫害されて町を彷徨った。


辛い人生だったが、その分、この辺の地理は詳しくなっていた。


「山の中だ」


言葉少なに唯は語った。


訳ありかもしれない。

普通なら、女が一人、子供を育てているのだ。

町とは言わなかったとしても村程度には住んだほうが安全であり、食べ物にも苦労しない。


ふぅん……。


レオは追求せずに、


「砂猫とは何年ぐらい一緒なんだ?」


唯は肉を見ながら、


「ほんの子供の頃からさ。

コイツも、やっと乳離れしたぐらいだ」


兄弟のように育った訳だ。


とはいえ、砂猫だってそろそろ牝が恋しいのではないのか?


「俺は生まれはダルトンの森だったが、母ちゃんを殺されてからは色々歩いた。

イオスの港、カイオスの宗教都市、王都マキナ。

アルフォスに行けばこの地図から出ることになる」


ギリギリアルフォスは乗っているが、その先には大河レンシーが流れ、対岸は強い軍隊を持つアリア共和国に到達する。


この岩だらけの土地は、大河レンシーと共に宗教国家ダイダスとの緩衝地帯と言えた。


「よし、焼けたぞ」


唯はナイフを使って肉をきり分けた。


熱い肉を頬ばると肉汁が溢れた。


「旨!

大鬼鷲って、旨いんだな!」


「すぐ硬くなるから、焼き加減が難しい」


結唯はウンチクを垂れた。


「叔母さん仕込みって訳か」


「ああ。

俺になんでも教えてくれた」


知りたくないことも……。

と、唯は思ったが、口には出せなかった。

これは唯の出生の秘密であり、決して他人に話していいことではない。


それがあるから、唯は人間の多い場所には近づかないのだ。


唯は暗い血の秘密を抱えていた。


しばらくは無言で肉を堪能し、


「さて、じゃあ水場に案内してくれよ」


え、とレオは驚く。


「今からじゃ夜になるぜ?」


「ならない」


唯は言うと、ブンタの背に乗り、後にレオを乗せた。


合図をすることもなくブンタは走り出す。


岩を飛び越え、十メートルの亀裂をジャンプし、奇妙な形の岩が林立した、岩の迷宮を疾走した。


「こりゃ凄いな」


レオは歓声を上げるが唯は、


「それより、このままでいいのか?」


「ちょい左だ。

そこの二股岩を越えれば、砂猫の鼻なら水の匂いが分かるだろう」


小山のような岩を駆け抜けると、なるほどブンタは速度を上げ、自分の感覚で走り出した。


無数の岩に囲まれて、木と草の茂みがあり、すぐに唯も水の匂いを感じた。


「おー、久々の水だ!」


唯は歓喜を叫び、砂猫はそのまま水に飛び込んだ。







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