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挨拶が終わったのか、他の人のところへと皇帝たちが移動していく。
一仕事を終えたようで、ほっとする。
それにしても自分でも驚くほどに、自然と言葉が出てきた。
この人の体に染み付いているのだろうか。
いや、でもこれは夢なんじゃないの。
私ではない記憶と体、そして知らない場所。
夢にしてはリアルで、胃がキリキリと痛む。
ん?胃が痛い...。
さっきも胃が痛んだ。
ハッとして、思わず二の腕をつねる。
一度つねってみたが信じられず、爪も立ててみる。
痛い、痛いぞ。
爪の跡も残っている。
それなら、ここで起こっていることはもしかして夢ではなく現実...。
いや、そんな転生みたいなこと現実で起こりうるのか?
なら、私はどうなったの。
この体の人は?
混乱する頭の中を整理するために、バルコニーに出ることにした。
バルコニーは少し肌寒く、露出した肩をさする。
この体ではない私はこんな格好をしたことはなかった。
ひとまず風に当たって頭を冷やし、この体ではない私のことを遡ることにした。
最後の記憶は会社にいる記憶。
仕事が終わらなくて中々家にも帰れなくて、眠れもしなくて。
必死に回らない頭を稼働させて、パソコンに向かい合っていた。
けど、眠くて眠くて仕方なくて。
体にも、あまり力が入らなくて。
一番最後は鮮明には思い出せないが、今が夢ではないと仮定すると何となく、前の私は死んでしまったのではないかと思った。
多分睡眠不足とか、働きすぎとかで。
そんなこともあるの...と何故だか人ごとに感じた。
ある程度前の私の最後を整理したところで、この世界の、この体の人の記憶を整理する。
この人の名前はイル・コロナリア。
そしてここはロズィーレ帝国。
さっき挨拶したのが皇帝と皇后だった。
この建国記念祭には数年前から参加しているらしい。
なるほど今回の建国記念祭には婚約者と訪れているのか。
でも2人の過去を少し遡ってみると、あまり仲は良くなさそうに思える。
この体の人の記憶の内容が思ったより濃くて、脳が処理落ちしそうだ。
頭痛がして、再びこめかみをおさえた。
「おい!」
声と同時にバルコニーと室内を繋ぐ扉が開く。
どこか聞き覚えのある高圧的な男の声がした。




