4.タンポポの綿毛
ある日の放課後──。
「先生ー! ちょっといいッスかー!」
「ど、どうしたの? アルフレッドくん。真面目な顔して」
今日も、いつも通り、午前の実技と、午後の学科を終えたところだった。
ここ数日、彼らが何か思い悩んでいる雰囲気は感じていたけど、やっぱり何かしらの悩みとか、あるのね。
「そのさー、俺らの組……『二組』って呼び名、どうにかなんねーっすか?」
「……はぁ~?」
「いや、だってさ、なんか戦力外っぽくね? 言いにくいし、カッコ悪いっていうか」
「……まあ、言われてみれば、確かに味気ない気はするけど……」
「冒険者ってさ、パーティ名で名乗ったりして、すげー強そうなイメージあるじゃん! 俺らもそういう名前つけた方が気合入ると思うんスよ!」
「名前……パーティ名?」
「いいじゃん! おもしろそう!」「パーティ名! それ、わたしも考えてたー!」「あ、でもデュロスの世界観は禁止で頼むわ」
突然はじまる、パーティ名・命名会議――!!
「レ、レオナルド先生、どう思います……か?」
助け舟を求めて振り返れば、レオナルド先生は背後の壁にもたれかかって、面倒くさそうに腕組みしてた。
「(チッ)好きにしろ」
舌打ち! そして丸投げキターーー!!
「……はいはい、それではー、生徒の皆さんと相談して決めていきまーす(棒読み)」
補佐って……面倒事を処理するためにいるんだっけ……。
◇ ◇ ◇
「……じゃー、まずは候補を出してもらおうかしら」
「”黒き閃光の牙”!」
「いきなり重いのきたわね!!」
「”真紅の誓い”ー!」
「それ、どっかで聞いたことあるような気がするんだけどぉ!? 何を誓うつもり!?」
「”雷神とその眷属”! とかどう?」
「主従関係みたいなのやめなさい!!」
「”トールソン・ファミリー”ってどうかな!」
「それもアレでしょ!? なんかマフィアみたいじゃん!?」
「”アルフレッドとゆかいな仲間たち”!」
「逆にそんなので良いのかしら!?」
「”Aチーム”!」
「どこに特攻する気なのーーー!!!」
あれよあれよと混迷を極めるパーティ名・命名会議。
そろそろ終わらせたいけど、みんなすっごい楽しそうで、止めづらいなぁ……。
うぅ~、誰か決めてくれないかな~、宿題とかにしちゃダメかしら~。
チラッとレオナルド先生に視線を送るけど――案の定、目線すらくれない。
窓の外を眺めて、あくびなんかかいちゃって。
完全に『他人事モード』ってわけですね。ちょっとムカつく……。
「じゃあ、エリーシャ先生も何か案を出してよ?」
「えぇぇぇ!? え、あ、そ、それはそのぉ……」
あたしが!? 今!? この流れで!?
「さっきっからツッコミばっかじゃーん」「たまにはボケろよー」
ボケ? ツッコミ!? パーティ名を考えているのよね?
えーっと、こういうときは――えっと、雰囲気を壊さない、でもちょっとファンタジー感あって、でも他にない感じで、可愛くて、ポエミーで――
――出てきたのは、なんか昔、絵本で読んだお花の名前。
「……『タンポポの綿毛』とか、どうかな?」
「…………へ?」「は?」「タンポポって、なんだ?」
おっと、微妙な間。
「ほら、東方の大陸にだけ咲くっていう花の名前よ。ほら、あの……風に乗ってどこまでも飛んでいくっていう、神秘的で……黄色い花……の、アレよ!」
「へぇ~」「東方かー。なんか、ロマンあるな……」「たしかに、冒険者っぽいかも」
「え、それって、現実にあるの?」「え? 知らない? タンポポよ、タンポポ」
こ、こうなったら押し切るしかない!!
「(オホンっ)タンポポっていうのはね、遥か東方に咲く神秘の花で! その綿毛は旅の始まりと希望の象徴って言われてるのよ!」
「へぇ~、初耳」「東方の大陸か……行ってみたいなぁ」「それ、ちょっとイイかも」
「それなら――俺、賛成っす!」
アルフレッドくんが手を挙げる。
「綿毛てのがどんなのか、わからないけど、どこまででも飛んでいけるような冒険者になりたいっすよ、俺」
あっ、ちょっと、カッコよくまとめちゃってる……!
「じゃ、投票しようぜ!」「タンポポの綿毛に1票!」「私もー!」
「おいおい、俺の案は全部負けかよー」「『黒き閃光の牙』渋くて恰好良いのに~」
「それでは――今日からこの『二組』は……!」
「『タンポポの綿毛』ですっ!!」
……うん。なんか、可愛い響きだし、ちゃんとまとまったから、良し!
◇ ◇ ◇
「ふぅ~、なんとか形になったかな……」
生徒たちがワイワイ騒ぎながら解散していく中、背後から声がした。
「……タンポポ、ねぇ~」
振り向けば、レオナルド先生がこっちをチラ見してニヤけている。
「タンポポって……そこら辺に咲いてる、キィーボンボンのことだろ?」
「……う」
「よく村のガキどもが頭に挿して走り回る花だよな。で、何だっけ? 東方の神秘の花……だっけ?(ニヤニヤ)」
「っ……しっ……黙りなさいよっ!!」
いいのよっ! あの子たちは知らなかったんだから!
いえ、むしろ、みんなに夢を与えたってことで、これはこれで教育的なんとかってやつよっ!
「東方では神聖な花かもしれないじゃない!?」
「んなワケねぇ~だろ」
「(チッ)あなたにはねー、ロマンが足りてないんじゃないかしら?」
「へ~いへい。ロマンにメルヘン、良いんじゃない?(ぷぷっ)」
何はともあれ、こうして――
『二組』改め、『たんぽぽの綿毛』として、新たな一歩を踏み出したのでしたっ。
親愛なるおじいさまへ
本日、わたくしの『二組』の皆さまが、クラスの呼び名を決めたいと申し出られました。
思いのほか盛り上がり、わたくしも意見を求められましたので、東方の大陸に咲くという花の名をお借りして――『タンポポの綿毛』という案を出してみましたところ、満場一致で採用となりました。
どこまでも風に乗って飛んでいく綿毛のように、皆が遠くへ羽ばたけるよう願いを込めて。
これからの日々が、彼らにとっても、そしてわたくしにとっても、実りある冒険の第一歩となりますように――。
港町より、おじいさまのご健康をお祈りしつつ。
敬具
エリーシャ