26.忘れられし遺産
「……もしかして、まだあるんじゃないですか? あの“ミノタウロスの寝所”みたいな、忘れられてる施設」
レオナルド先生は、ソファにだらしなく腰を下ろして、お菓子をつまんでいた。
「だって考えてみてください。幽霊屋敷だって、訓練施設のひとつだったんですよね? あんな風に朽ち果てて放置されてるなんて……。他にもいっぱいあるに違いありませんっ」
「そりゃまぁ……学園の敷地、やたら広いしな。俺の知らない練習施設だって、幾つもあるみてーだし」
そう言うと、レオナルド先生は、いつものように面倒くさそうに頬杖をついた。
「見てくださいこれっ! アカデミーの古い施設リスト。ここ数年、授業で使われた形跡がない施設が、なんと──十七件!」
「そんな資料……どっから持ってきたんだよ?」
「ちなみに“用途不明”が四件、“魔法関連施設”が五件、他に“開けちゃダメ”って赤線で消されてるのが三件ありました!」
「“開けちゃダメ”って書いてあるやつは……開けちゃダメだろ……」
でも──好奇心が止まらない!
「というわけでっ、調査しに行こうと思います!」
「今からか行くのか? 勤勉だねぇ……ご苦労なこった……」
「ダンジョンもあるんですよ? モンスターの出そうな。幽霊が住み着いてたりするかも……」
「そうだな。そういうことも、あるかもしれないな。気をつけて行ってくるんだぞ~」
「……一緒に行ってくれないんですか?(うる目攻撃)」
「くっ…………」「(うる目攻撃!)」「わーったよ。行きゃいんだろ? 行きゃ~」
勝った! レオナルド先生はため息をつくと、面倒くさそうに立ち上がった。
強引に誘っておいてアレだけど、これって、もしかし、デート……?
……そんなわけないわよね。視察よ視察。お仕事なんだから。
◇ ◇ ◇
まず訪れたのは、地下訓練区画:B-7──通称『炎の小道』。
名前だけ聞けばカッコいいけど、実際は……
「……ここは昔、真冬の寒さから逃れようとして、炎系魔法を循環させて暖を取ってた施設だ。今じゃ火トカゲ一匹出やしねぇよ」
「でも見てください、この横穴! ここから天然のダンジョンに繋がっていたり……」
「その奥に、魔法を循環させる仕組みがあったんだよ。昔、俺がいじったら暴走して、そうなった」
「……」
次いきましょう、次っ!
◇ ◇ ◇
続いて訪れたのは、謎の地下ドーム。
何やら言葉が刻まれた石碑が並び、中央には巨大な青水晶の柱がそそり立っている。
「神殿……地下墓地的な所かしら……?」
「昔、魔導士を目指す生徒たちがよくここで瞑想してたらしい」
「なら、ちゃんと使えるようにしたほうが良いんじゃない? マリルちゃんも連れてきてみようかしら」
「雰囲気だけで、効果は無かったんだと」
石碑の言葉を読んでみると、『・・さんと結ばれますように』『卒業試験通過祈願』『お金持ちになりたい』『健康第一金運第二恋愛第三・・』
「……」
次いきましょう、次っ!
◇ ◇ ◇
「次はここですね……“魅了する館”です。何を魅了するのかしら……」
「あー、まぁ、入ってみりゃわかるよ」
嫌そうな顔をするレオナルド先生をよそに、あたしは浮かれながら扉を開けた。
「うわっ……!? な、なにこれ──」
中はまるで豪華絢爛な洋館。
赤い絨毯。豪華なシャンデリア。控えめに漂う薔薇の香り。
そして──
「──お待ちしておりました、お嬢様」
絶世のイケメン執事が、優雅に一礼して出迎えてくれてる!?
「えっ……あ、ああああの、はいっ!? え? あたし? あたしなの!? ごめんなさい、急に声出しちゃって、でもあのそのっ……♡」
「目がハートになってるぞ、バカがッ」
(スパコーン☆)
レオナルド先生に頭をぶたれて、我に返った。
すると、超絶イケメンだった執事は、無表情な木偶ゴーレムになっている……。
「あれ? イケメンの執事さんは?」
「はぁ……。ここは”こういう”訓練施設なんだよ。館に入った者の精神に反応して、どストライクな使用人が出迎えてくれる。その誘惑に囚われないよう、心と精神を鍛練するのが目的……とあるが、どうだかな」
「な、なるほど……惑わされちゃいけない、ってことですね……危なかったわ」
「お前にはイケメン執事に見えてたみたいだが、俺には猫耳メイドに見えている。今も、だ」
レオナルド先生? 鼻の下が伸びてますよー。
「つ、次行くぞ!」
「はいっ! って、あれ? あの部屋で、楽し気にお茶してるのって、ヴィルメーナ先生!?」
『ふふ……ふふ……執事さま……♡』
「……見なかったことにしてやれ。いいな?」
◇ ◇ ◇
次に辿り着いたのは、古い魔法研究塔だった。
平野を歩いていたら突然、目の前の空間がゆがんで現れた巨大な塔。
「遠くから見えないように、カモフラージュされてんだ。それも魔法研究のひとつなんだと」
「ここって、まだ使われてるんですか?」
「さぁな。でも魔道エレベータは、まだ動いてるっぽいぞ。上まで行ってみるか」
──ゴウンゴウン、と不穏な音を立てながら、魔導式の昇降機が上昇を始める。
「……高っ!」
最上階に到達した瞬間、あたしは思わず息を呑んだ。
風が吹き抜ける開放的な空間。眼下には学園、そしてウェスタニアの街並みが一望できる。
海の向こうには──
「あれ? あの島……」
ぽつんと浮かぶ緑の影を見た瞬間、頭の中を電気が駆け巡るような感覚を覚えた。
「知ってるのか?」
「……ううん、ちゃんとは。なんだか……昔、行ったことがあるような、ないような……」
「あの島は昔、学園の生徒たちが泳いで渡っていたらしいぞ。サバイバル実習を兼ねて」
サバイバル……そうだ。おじいちゃんと一緒に、船で。付き人さんたちと……キャンプして、焚き火とかして──
懐かしい記憶が、波のように胸の奥をくすぐる。
でも、はっきりとは思い出せない。
「……不思議な島だった気がする。あの島、中央が高台になってて、そこでキャンプしたりしません?」
「さぁな……俺も昔語りを聞かされただけで、実際に渡ったことはねぇから……」
数歩進んだくらいじゃ景色が変わらないのはわかってる。けど、塔の縁まで数歩、歩み出る。
「おい、落ちるなよ?」
「!」
いきなり、レオナルド先生に手を握られて──
「ぁ、すみません……ぼーっとしちゃって……あの、ありがとう……ございます」
西の空が、オレンジ色に染まり始めていた。
──やっぱり今日は、ちょっとだけ、デートみたいだったかも。
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