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2.クラスメイトたち

「つまり、なんと言いますかー、手違い。そう、ちょっとした手違いがありまして、本来、生徒となるべきエリーシャさんを先生として迎え入れてしまったのですよぉ」


 職員会議のあと、あたしと、“ハズレ”のレオナルド先生は学園長室に通されていた。あたしの事情を知っておいてもらう必要があるだろうと。


 ……当然よね。


「呆れた話だな。だったら、間違いを正して生徒にすりゃ良いじゃねーか」


 (うんうん)ごもっともです。


「それが、そう簡単な話でもなくてですねぇ……。とにかく、なんとか、エリーシャさんには先生としての立場を保ちつつ、冒険者となるべく技術と知識も習得して頂きたいのですよ。もちろん、然るべき時期が来たら、卒業証書も発行しますので」


「……やれやれだな。ま、俺が受け持つクラスの生徒が1人増えたと思えば、難しい話じゃねーがな」


 レオナルド先生が肩をすくめて笑う。この珍事を楽しんでいるかのような表情だ。

 しかし、こればかりは、ぐうの音も出ない。


 嫌な奴ではあるが、学園長がこうまでして頭を下げるのだから、きっと先生としては“それなり”なのだろう。


「(チッ)まったく……そういうことなら、最初に言えっつーんだよ。ま、しゃーない。任せられたからには、演じさせてやるよ。冒険者を育成する“先生”ってやつをな(ニヤリ)」


 な、なんなの!? その含みのある笑いは……。この状況を面白がってるでしょ!


「(チッ)本っ当に不本意ながら、そういうことらしいのでー」


「(チッ)可愛げが足りねぇんだよなぁ。エリーシャ・、()()()()()ちゃんは」


 称位を隠していることは伏せたままのはずだけど、何か気付いているっぽわね。ま、いいけど。




◇ ◇ ◇




「よーし、今期、お前らに教えを垂れることになったーレオナルドだ。そして、こっちのちっこいのはー、新任の(フッ)エリーシャ()()だ」


 こっ、こいつ! 今、鼻で笑ったわね!


「エリーシャ()()、ほら、ご挨拶、ご挨拶」


 キーーー!! 腹立つーーー!!


 でも今は、気持ちを切り替えなきゃ……落ち着いて……笑顔で。


「はーい、ただいま、ご紹介にあずかりました、エリーシャ……。エリーシャ・セントールです」


 パッと見た感じ、生徒って言ったって、年齢的にはあたしと同じくらいじゃないかしら? なのに、なんだか妙に落ち着いているっていうか、隙が無いというか、とても歳相応には見えない。


「えっと、なんだか、みんなとは年齢も近そうですね。実は初めての“先生”なので、あたしもレオナルド先生から色々と教わりながら、皆さんと一緒に冒険者について学んでいけたらなーって思います。よろしくね!」


「よろしくっす」「よろしくお願いしまーす」「よろー」


 反応は、まぁ悪くはない……のかな?


 学園長から聞いた話、『二組』は一般人枠だそうなので、まぁ、礼儀作法なんかは期待していない。

 一人だけ称位持ちの子がいるって聞いたけど……。

 まあ、今はいいわ。


 さて、ご挨拶と自己紹介を終えたので、この後はどうするのか……。


 さっきから、レオナルド先生に視線を送ってるんだけど、ニヤけた顔で顎を突き出してくるだけ……。


 『続きをどうぞ』ってことかしら? 何なのよ! まったくー!!


「えーっと、そ、それじゃー、えーっと、自己紹介、そう! 皆のことを教えてくれるかしら?」


 チラ、チラとレオナルド先生の様子を窺いながら、先生を演じていく。

 やっぱり最初は自己紹介タイムよね。


 『うんうん』って、余裕ぶって頷いてるレオナルド先生……。くっ……悔しいけど、正解のようなので安心する自分がいる。悔しいけど!


「それじゃ、最初はー、手前のキミからお願いね」


 茶色の短髪にこんがり焼けた肌。見るからに”やんちゃ”な男子って感じ。


「ほーい。俺はアルフレッド。アルフレッド・トールソン。得意なのは近接武器、主にショートソード。あと、体は丈夫っていうか……俺、不死身なんで、よろしくっす」


「あ、はい。ありがとう。アルフレッドくんは前衛を目指してるのねー‥って、不死身?」


 年齢的には、17~18歳ってとこよね。『俺、不死身なんで』とか言っちゃう系の男子かー。

 他の子たちは、それを聞いても無反応……。ま、そうよね。スルーしときましょう。


「まぁ、いいわ。じゃ次は隣のキミ、お願いね」


 目つき鋭め、髪はボサッと前に垂れてて、喧嘩っ早そうな雰囲気。


「っす。デュロス・トールソン。剣技じゃ~アルに負けたことたぁねぇぜ(ニヒヒ)」


「おお~、剣士ライバルコンビって感じ? 二人とも同郷なのね。切磋琢磨できる仲間がいるのは良いわね。頑張ってね!」


 剣士その2ってとこね。笑顔は割と可愛いじゃない。アルフレッドくんと、ど突き合ってる感じ、いかにも“男子”って感じね。


「じゃ次は、お隣のあなた」


 ショートボブの黒髪。常に周囲を警戒しているような、緊張感のようなものを感じるわ。


「はーい。わたしは、シルフィ。シルフィ・トールソン。素早さには自信があります。あと、罠を見つけたり、罠を仕掛けたりするのが得意です」


「スカウト系ね。冒険には必須な能力よね!」


 見た目どおりって感じね。っていうか、この子も“トールソン”。同郷なのね。


「あなたも同郷なの? もしかして、後ろのあなたも?」


 ぽっちゃりとした体格に丸眼鏡。運動は苦手そうな男子が、ぴょこんと背筋を伸ばした。


「は、はい! フーリオ・トールソンです。ボクの特技は目利きかな。初めて見た物でも、使い方や価値なんかがなんとなくわかるので、鑑定知識を伸ばしていきたいと思います。あと料理も得意です」


「素敵な特技ね! 一緒に冒険するパーティに居てくれると心強いわよ」


 なるほど。この『二組』のメンバーは同郷グループなのね。

 それにしても、鑑定士の卵かー。古代文字とかも解読できるように育ってくれたら……。


「次は、お隣の可愛い子ちゃん!」


 他のメンバーよりも、明らかに年下な妹キャラ。ふんわりリボンで茶髪をまとめた癒やし系~。


「は、はじめまして。マリル・トールソンです。最年少ですが、治癒の魔法を使えるようになりたいです」


「あ、は、はじめまして。治癒の魔法! すごいわね……って、使える()()()()()()()、のね。良いと思うわ。目指していきましょう!」


 う~ん♡ 思ったとおりの、いや、それ以上の癒し系だわ。重点的に見守っていきましょう。


 さて、あと一人。


「最後はー」


 最後の少年が、すっと立ち上がった。動作ひとつとっても、なんか育ちの良さが出てる……。

 彼が称位持ちってわけね。

 それにしても、金髪! 澄まし顔! 端整! 整いすぎ! 王子様かよ!!


「僕はアラン。アラン・ダオス・ジオルースです。彼らとは、幼い頃の縁もあって、今まで兄弟のように育った仲です。よろしくお願いいたします」


「ダオス……って、あのジオルース商会の!? お初にお目にかかります。あたしの祖父が……あ、えーっと、いつもお世話になっております。あはは」


 名前を聞いた瞬間、顔が引きつってしまった。ダオスの称位は、大陸全土の流通を束ねる大商人に与えられるもの。つまり、相当すごい家柄……。


「ジオルースは父の商会ですので、僕が偉いわけではありません。どうか普通のイチ生徒として平等に扱ってください」


 あっ……この子、良いヤツだ。めっちゃしっかりしてる。


「わかったわ。よろしくね! えーっと、アランくん以外は、皆、トールソン出身なのね。トールソン……聞いたことがあるような、ないような……」


 その瞬間、教室の空気がほんの少し、沈んだ気がした。


「俺らの村は、もう、ありません」


 静かに、けれどはっきりとアルフレッドくんが言った。


 その声に、誰も続かなかった。


 ただ、誰かが、ぐっと奥歯を噛み締める気配だけが、教室の静けさの中に響いた……。




 えっ…………地雷、踏んじゃったかしら?

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