14.サバイバル実習 その5
サバイバル実習、4日目の朝──。
朝食のあと、シルフィちゃんが腕を組んで唸っていた。
「大蛇の肉も、イノシシの肉も、こんなに残ってるけど……どうする? もう痛み始めてるなぁ」
「うーん……干し肉か、燻製か……。どっちも今の状況じゃ無理だなぁ。塩もそんなに多く持ってきてないし」
「マリル、頼めるか?」
「はいなの」マリルちゃんが小さく手を挙げた。
「凍てつく風よ──《フロストシェル》」
すう、と空気が冷えた。
マリルちゃんの指先から白い息みたいな冷気が広がり、生肉の山を包み込んでいく。
「……ぉぃぉぃぉぃぉぃ……たまげたなぁ~……」
レオナルド先生も目を大きく見開いて、驚きを隠せずにいる。
「これで腐らせずに済みますよ~」
「マ、マリル。お前さん、ヒール……聖属性が使えるようになったんだよな? 火属性も使ってたし……氷も、いけるのか?」
「はい。風と水の応用で、氷も使えるようになりました(エッヘン)」
「つまり、聖、火、風、水、氷……五属性!? きゅ、宮廷魔術師レベルじゃねーか!?」
「マリルは、俺たち”タンポポの綿毛”の秘密兵器なんだぜ(エッヘン)」
アルフレッドくんも、マリルちゃんと並んで得意顔……。これって本当に、凄いことよね?
「でも、まだ魔力量が少ないので……」
「大魔法は打てない、か。しかし将来が楽しみだなぁ~」
レオナルド先生、なんだか凄く嬉しそうに笑ってる。
「……もしかして昨日、アルフレッドが言ってた『1まで』ってのは、やっぱ威力制限の話なのか?」
「そうっす。俺らのローカルルールみたいな感じっす。『1』は生活レベルだけど威嚇やかく乱にも使える魔法で、『2』は軽い攻撃系。当たったらちょい怪我する程度。『3』は、今んとこ限界値だけど、殺傷能力ありのヤバ目な魔法っす。な! マリル」
「はい、なのです。私だけだと、どこまで強いの撃っていいか、わからなくなるので、アルくんに指示出してもらうようにしてるんです」
「幼なじみならではの縛りルールなのね。良いルールだと思うわ」
さっきまで若干の腐敗臭を放ち始めていた生肉の山が、今は霜に抱かれてヒンヤリ、キラキラと輝いています。
今夜もおいしい肉料理が頂けそうです。
◇ ◇ ◇
「この樹でござる。(クンクン)やはり、匂うでござるな(クンクン)」
拠点を探している途中、フーリオくんが気になる匂いがしたというので、みんなで散策中です。
「変なモン埋まってんじゃねーだろうなー」
デュロスくんが怪訝な表情をしているのを他所に、フーリオくんは地面を掘り始めました。
しばらくして、土の中から黒褐色の塊をそっと摘まみ上げた。
「なにそれ」「石?」「泥?」「ウン■?」
「もしかしてそれはー(クンクン)」
他のみんなが茶化す中、 アランくんだけは、それが何なのか知っている様子。鼻を近づけて匂いを確認している。
「この匂い、やっぱりそうだ。超高級食材のトゥリフですね!」
「トゥリフ? 聞いたことがあるような……」
「キノコの一種ですよ。とても貴重で、高級レストランでも、たまにしか食べられないんですよ!」
あー、そういえば、実家のお肉料理に添えられてた、アレね。
「そうでござる。この樹の独特な匂いが怪しいと思っていたでござる」
「マジかよ! 樹の根元に埋まってるのか!?」「探せー!!」
一斉に全員が四方の根元へ散っていった。
「周辺に気をつけろよー」
レオナルド先生は、いつもの”やる気のない顔”で注意を促しているけど……あたしも探しに行こうっと!
「あった!」「こっちも見つけたー!」
みんな泥まみれになって樹の根元を掘りまくった。普段は人が入ってこない場所だからなのか、そこかしこに埋まっているみたいね。これ拾い集めて市場に持っていけば、結構な稼ぎになるんじゃないかしら?
◇ ◇ ◇
トゥリフ掘りに夢中になったからなのか、深い森の奥だからなのか、暗くなるのが早い。
大量のキノコを抱えて拠点に戻り、高級食材をふんだんに使ったスープと、グロスボアの分厚いソテーでディナータイムです。
「すっげー香り(くんかくんか)」「高級感ありますねー(くんかくんか)」「はやく食べようよ!」
「いっただきま~っす!」
「あれ? レオナルド先生は食べないの?」
ふと見ると、自分用に肉だけ焼いているレオナルド先生。
「……苦手なんだよ。キノコは」
「えー!? 先生、キノコ食えないのかよ!」「マジですか!?」「人生の何割か損してますよ、それ」
「い~いから、俺に構わず、お前らだけで食ってろ」
「それじゃ、あたしも、いただきますね……(はむっ)」
口に入れた瞬間、鼻へ抜ける濃厚な香り。懐かしさとワイルドさのハーモニーね。
「うまっ……うまっ……?」
「……ふふっ」
誰かが笑った。私も、なんか、込み上げてくる。
「あははっ……美味しいもの食べたときって、なんか笑っちゃうよな!」
「そうでござるな! うひっ ひっひっひっ」
「ははっ フーリオ! あははっ なんだよその笑い方はーーあーっはっはっ」
「やだ、ファリスちゃん、笑い過ぎよーっぷふふっ」
「ひゃーっはっはっ! ダメだ! あはっ 耐えられねぇーっはっはっはっ」
今夜はみんな随分上機嫌……っていうか、何か変かも。笑いが止まらないー!
「レ、レオナルド先生、ひっひっひっ(助けてー)」
「なんだ、なんだ? お前ら、大丈夫か? ちょっと笑い過ぎじゃねーか?」
アルフレッドくんも、デュロスくんも、マリルちゃんも肩を震わせ、フーリオくんは眼鏡を外して涙を拭っている。シルフィちゃんは腹を抱えて転がってるし、普段はクールに決めてるアランくんまで、涙流しながら大笑いしてる。あんな表情、初めて見たわ……って、それどころじゃない!
「はっ、はははっ、な、なんで……っ」
「わかんないっ……けどオモシロ……っ、ふふっ、ひゃははっ!」
「……待て待て、お前ら」
レオナルド先生が、調理に使わなかったトゥリフのヘタを拾い上げて何か確かめている……ように見える。フフフ、あははっ
「こいつぁ……”爆笑茸”じゃねーか!?」
……え、今なんて? ば、ばくしょう……?
「ば、爆笑……?(ひぃーひぃー)」
「食べると笑いが止まらなくなるっつー、毒キノコだよ!」
「「「な、なんだってー!」」」「あーっはっはっ! い、今、すっごいハモってたーはははははっ」
「毒!? あ、あたしたち、このまま死ぬの!? 笑い死に!? はひっはひっ お、お腹イタいー」
「そんだけ笑やぁ、腹もイタくなるだろうよ……。致死性は無いはずだ。笑いが止まらなくなるのと、腹を下す程度だったと思うぞ」
「ま、まって、レオ、レオナルド先生の真顔……っ、じわる……っ!」
「『じわる』って何だよ! こっちは真面目に……まぁ、いいか。死にゃしねーだろ」
じわる、の波状攻撃。笑ってはいけない、と思えば思うほど笑いが増幅していくー!
「とにかく、お前ら、笑いながらでいいから、水飲め。水を。いっぱい」
「水を一杯ですか? くくくっ」「一杯だけで良いっすかーっはっはっはっ」
「違う、いっぱい! たくさん飲めっつってんだよ!」
「マリ、マリルー! 水出せるかー!?」
「えへへ、もちろん、出せますよー。うふふ、出しちゃいますよー」
「ほら、このバケツに」
真顔のレオナルド先生、じわる……ぷっ!
「ふふふっ、み、みずよ──あははっ ミミズって言っちゃいましたー」
「だーっはっはっ!」「ミミズなんか飲めねぇよーっ!」
「もう1回、ふー、ふーっ、、、水よ、集え──《アクアウォータ》」
マリルちゃんの手から、だばだばだばーーっと水が湧きだしバケツを満たしていく。
そのあと、レオナルド先生が順番に水を飲ませてくれて、みんな少しずつ落ち着きを取り戻しました……。
「ふぅーー。今夜の見張りは俺がやるから、お前らはさっさと寝ちまえ。な」
みんな笑い疲れて、既に爆睡状態でした。
◇ ◇ ◇
翌朝。
朝霧、鳥の声、そして──
ブベッ■■■自主規制■■■ッ■■■自主規制■■■ッ■■■自主規制■■■ッ
「ひぃーーーん……マリルちゃんのヒールで治せないのーーー?」
「ダ、ダメみたいですぅーーー。病気とっ……怪っ我はっ……別物みたいですぅーーー」
拠点の周辺から鳴り響く、■■■自主規制■■■の音色は、しばらく止むことはありませんでした。
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