11.サバイバル実習 その2
朝露が光る、ひんやりとした森の空気――
2日目の朝、私が目を覚ますと、すでに辺りはにぎやかな声に包まれていた。
「うおぉ! 掛かってる! でっけぇ!!」「これ、私の罠だね」「やっぱシルフィには敵わないな」
茂みの向こうから、アルフレッドくんたちの元気な声が聞こえる……。
「ふわぁ……朝っぱらから元気ねぇ……」
毛布を肩に掛けたまま、ボーっと眺めていると、アランくんとフーリオくんが茂みの向こうへ駆けていくのが見えた。
そんな中、マリルちゃんがそっと近づいてきて、ちょこんとしゃがみ込み、あたしのシェルターの入口から顔を覗かせる。
「エリちゃん先生、おはようございます!」
「おはよー、マリルちゃん。みんな、どうしたの?」
「昨日みんなで罠を仕掛けたんですよ。『朝食は肉にするぞー!』って」
「なるほど……ね」
その時、茂みの向こうから興奮した声が響いていた。
「おーい! 先生たちも早く来てみろよ! すっげぇの、獲れてるぜ!」
アルフレッドくんが茂みの奥から大きく手を振っている。隣ではシルフィちゃんが誇らしげに両手を腰に当てて仁王立ちしていた。
「おお、こりゃデカいね……!」
レオナルド先生が、いつになく感心した声をあげる。
「みんなで仕掛けたって言ってたけど、他の罠はどうだったの?」
……聞きながら、アルフレッドくんの表情で察しがついたわ。
「……こういうのは、シルフィ担当だから(ごにょごにょ)」
「ふっふっふー♪ 任せなさーい」
「早いとこ捌いちゃおうぜ!」「川はあっちだよ」「俺が担いでいくぜ」
デュロスくんが力強く野兎を肩に担ぐと、みんなでワイワイ川のほうへ移動していった。私も慌てて、みんなのあとを追う。
朝の冷たい川辺には、爽やかな風が吹き抜けていた。
アルフレッドくんとデュロスくんが野兎を木の枝から吊るす。
「よーし、アル、引っ張ってくれ!」「おう!」
その真下にシルフィちゃんが穴を掘る。
「この辺りでいいわね」
マリルちゃんとアランくんは焚火用の枯れ枝を拾い集めに行って、フーリオくんは野兎をまじまじと観察している。
「この辺りの獣はは……ふむふむ」
……なんだか各自、自分のやるべきことを心得ているみたいで、動きに無駄がないのよねぇ。本当に、あたしが学ばせてもらってようなものだわ。
そんな様子を、レオナルド先生は少し呆れたような、でもどこか満足そうな顔で見つめている。
「……ったく、今日やるはずだった実習、ほとんど終わってるじゃねぇか……」
吊るされた野兎に、まるで祈りを捧げるように手を合わせたあと、シルフィちゃんは野兎の首元にそっと刃を当てた。
◇ ◇ ◇
朝から、新鮮な野兎の肉をワイルドに頂き、さて、このあと何をするのか……。
レオナルド先生が立ち上がった。
「えー、今日、これからやるべきことだがーー、特にない」
「え?」「ん?」「はぁ?」ってなるよね~……。
「だって、お前ら、教えることがないくらい、やれちゃってるんだもん」
辺りを見渡すと、十分な量の枯れ枝が束ねられてシェルターの中に置かれているし、野兎の皮は丁寧に干されている。ナイフの手入れも行き届いているし……
「でもなー、何もしないってワケにもいかんし……川で、釣りでもしてみるかー」
アイデアを捻りだすようにレオナルド先生が呟いた。
「釣り! いいね!」「やろう! やろう!」「釣り竿作らなきゃ!」「丁度よさそうなツタがあったよ」「兎の骨、針の代わりになるかな?」
途端に生き生きとした表情で、森の中を駆け回る生徒たち。
シルフィちゃんは、器用に枝とツタを編み合わせて即席の釣り竿を完成させ、アルフレッドくんは「ほら、ミミズも見つけたぜ!」と手を泥だらけにしながら嬉しそう。
「エリちゃん先生の分も、作ったよ!」
「え? わ、私も?」
「せっかくだから、一緒にやろうよ~」
マリルちゃんが笑顔で竿を差し出してくる。
”生徒たち”なんて言ってるけど、今、本当の意味での生徒は、あたしなんだ。何でも実践していかなきゃね!
「ありがとう! でも竿の作り方も教えてくれる? あ、この骨なんか、針に丁度良いんじゃない?」
「ツタ採ってきたよーって、エリちゃんも作ってくれてるの?」
シルフィちゃんもすぐ横で枝とツタを手際よく編みながら、「ここはね、こうやって結ぶと折れにくいよ」と、コツまで丁寧に教えてくれる。
「じゃあ、この骨を削って……こうやって、針の形にしていくの」
骨の削り方も、随分と手練れていること……。先生と生徒の立場が、完全に逆転してますけど……そんなこと言ってらんないわ。
レオナルド先生は、大岩に腰かけていつものごとくニヤニヤ見守っていた。
◇ ◇ ◇
各自、即席の釣り竿を持って、川釣りタイム。
デュロスくんとアルフレッドくん、それにシルフィちゃんは、川べりで釣れそうなポイントを探して「こっちの日陰、魚が多いぞ」「いや、流れ込みのあたりが狙い目だって」「もちょっと上流の方が……」と、まるでベテランの釣り人みたいに意見を戦わせている。
フーリオくんは、川の石を調べて「この下に何か隠れてるかも……」と熱心に覗き込み、アランくんは浮きになりそうな木の皮を選んで「これで当たりが分かりやすくなるはずだ」と、工夫を凝らす。
「エリちゃん先生ー! こっちこっちー!」
マリルちゃんが釣れそうなポイントを見つけて手招きしてくれている。
その時、上流の方から「釣れたぞー!」と、アルフレッドくんの声が聞こえてきた。
「よーし! あたしもがんばって釣るぞー!」
◇ ◇ ◇
水面を眺めながら、ゆるやかな時間が流れていく。
魚がエサをついばむ感触――「きたっ!」と声をあげて竿を引くと、思ったより小さな魚がピチピチと跳ねていた。
「エリちゃん先生、やったね!」「先生もやるもんだなー」「小さいのが先生らしいよな」
あたしがぷくーっと膨れていると、釣り糸を垂らしていたマリルちゃんが、ふと大岩の上で寝そべっているレオナルド先生に目を向けた。
「レオナルド先生は釣りしないんですか~?」
みんなの視線が、一斉にレオナルド先生に向かう。
「んぁ~? ……こんだけ釣り名人がそろってるんじゃ、俺の出番もねぇかな~って思ってよ」
「えー、そんなこと言わずに、先生も釣ってみてよ!」
「自分で食う分くらい、ちゃんと獲らなきゃ様になんね~だろ?」
「言い出しっぺのくせにー」
アルフレッドくんやデュロスくんもニヤニヤとからかうような口ぶり。
レオナルド先生は、面倒くさそうに伸びをしてから、ひときわ大きなあくびを一つ。
「……ったく、お前ら、よーく見ておけよ」
そう言うと、釣り竿も持たず、ズボンの裾を捲りあげて、そのまま川の浅瀬にズカズカと入っていく。
「えっ、素手でやる気……?」「何するつもりだ?」
シルフィちゃんも、息をのむ。
レオナルド先生は川面の反射光の中、静かに腰を落とした。
その姿が、さっきまでのどこか気の抜けた雰囲気とはまるで違う。
スッと気配が消えた……というか、自然と一体化した?
一瞬の静寂……。
そして、
「……ほいっと」
スッと右手を伸ばし、目にも止まらぬ速さで水面を切り裂く!
バシャッ!!
大きな魚が水しぶきと共に宙を舞い、先生の手刀でそのまま岸まで跳ね飛ばされた!
「う、うそでしょ!?」「すげぇ……」「先生、何かの達人じゃん!?」
あたしも唖然として声が出ない。
「まぁ、たまには見せてやらねーとな。これが、冒険者ってやつよ(ニヤリ)」
先生は平然と、ビチビチ跳ねる魚を拾い上げて、こちらへ投げて寄こした。
「はいよ、エリーシャ先生。これで今夜の飯もバッチリだな」
「……は、はぁい……ありがとうございます……」
生徒たちが大興奮で集まってきて、レオナルド先生を取り囲む。
「俺もやってみたい!」「もう一回やってみせてよ!」
「先生、かっこいいです!」「見直したー!」
いつも、やる気のない素振りだけど、やる時はやってくれちゃうのよねぇ……。
なんかズルいわー。
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