表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンシェント・ワーズ ~タンポポの綿毛たち~  作者: 角山亜衣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/35

10.サバイバル実習 その1

「えー、今日から7日間、お前たちはー、昨日受け取った必要最低限の装備で演習の森に入り、そこでサバイバル生活を送ることになる。水、食料は全て現地調達だ」


 珍しく、レオナルド先生の口調に、そこはかとない重みを感じる。


「演習の森は、一応この学園の敷地内ってこともあって魔獣の類はいないが、ほとんど手を加えていない自然のままの大森林だ」


 みんなの顔には不安とワクワクが入り混じった、遠足前のような雰囲気があった。


「先生~! 目的地みたいなのとか、あるんですか~?」


「特に設けてはいないが……そうだな。最初の拠点は俺が決める。体を慣らす意味も含めて、そこに二泊する。三日目からはお前たち自身の判断で次の拠点を探せ。水源、野獣への警戒、注意すべき重要項を見落とすなよ」


「ふぇぇ……」「えーと……水源は(ぶつぶつ)」「野獣はいるんだな」「食料も現地調達だよね」


「はいはーい。そんじゃ、エリーシャ先生からも、何かひと言」


「えっ……あ、あたし?」


 みんなの視線が、一斉にこちらに集まる。


 ど、どうしよう……心の準備とか、なにも……!


 でも、こんな時こそ──先生として、ビシっと決めなきゃ!


「えっと……その……みんな、不安もあると思うけど……」


 視線をさまよわせながらも、一生懸命、言葉を探す。


「この7日間は、ただのサバイバルじゃありません。食べ物を探すこと、水を確保すること、夜を安全に過ごすこと──これまで座学で学んだことを全部、自分たちの力でやらなきゃいけません。けど、それだけじゃなくて……」


 あたしは、ぎゅっと拳を握った。


「きっと、君たち自身のことも、すごくよくわかる時間になると思うの」


 おお、と小さな感嘆の声が上がる。


「誰かと意見が合わなかったり、失敗して落ち込んだり、思い通りにいかないことも、きっとある。でも、そういう時こそ、仲間を信じて、助け合って、自分の力を試すチャンスです!」


 言いながら、自分自身にも言い聞かせる。


「だから……あたしも頑張るから、みんなも、最後まで諦めずに、全力で、楽しみましょう!」


「「「おおーっ!!」」」


 みんなが一斉に拍手をくれて、ちょっとだけ……先生らしいこと、できたかな?

 レオナルド先生をチラ見すると、小さく拍手してくれていた。


 うん。ちゃんとできたんだ。


「よ~し、そんじゃ、出発するぞ!」


 レオナルド先生の掛け声で、一斉に歩き出す一行。


 あたしもその後を追って歩き出す。目指す先には、演習の森が黒々と広がっていた。




◇ ◇ ◇




 しばらく歩いていくと、向こう側からこちらへと歩いてくる、一組の生徒たちとすれ違った。


 みんな、明らかに疲れ切っている……。泥にまみれた服、破れて血が滲んだような跡も見える。


「あれ……? 一組って、あと二日残ってなかったっけ?」


『森の中で遭遇するかもなー』って、レオナルド先生が言っていたのを思い出して、小声でつぶやく。

 レオナルド先生は小さく頷くと、一組の引率の先生のもとへ歩み寄った。


「体力的に持たなかったらしい。全員、無事ならよし。ま、初めてなら、あんなもんだろ……」


 軽く手を上げて「お疲れさん」と見送るレオナルド先生の横顔が、少しだけ険しい。


 こ、この演習って、そんなに過酷だったの!?


「せ、先生……もしかして、私たちも、あんな風に……」


 マリルちゃんが不安そうに見上げてくる。


「ふふふ。大丈夫だよ、マリルちゃん」


 あたしは笑顔を作りながら答える。

 生徒たちを不安にさせちゃ、先生失格よね。適度の緊張感で挑まなきゃ。


 その直後、レオナルド先生は全員を振り返って、ニカッと笑った。


「いいかお前ら! この7日間で得るのは、技術でも知識でもねぇ! “生き抜く意志”だ!! 遠足気分でいたら…………死ぬぜ」


 レオナルド先生の一言に、ぴりっとした空気が流れる。


 ひぇぇ~~~! 能天気に『楽しみましょう』なんて言ってた自分をひっぱたきたい……。




◇ ◇ ◇




 森に踏み込んだ瞬間、急に空気が変わった気がした。


 ひんやりとした湿気、遠くから聞こえる獣の鳴き声、葉のこすれる音……

 今までは「学園の敷地内」なんて甘く見てたけど、これはもう完全に、大自然の森だわ。


 道なき道を進みながら、生徒たちがざわざわと話し合う。


「さっきの一組、マジでボロボロだったなー」


「レオナルド先生も気合入ってたねー」


「いいじゃん、燃えてきた! やってやろーぜ!」


 そして、アルフレッドくんが大きく拳を突き上げた。


「俺たち”タンポポの綿毛”は、7日間キッチリ生き延びてやろうぜ!」


「「「おおーっ!!」」」


 ──みんな、頼もしいわねぇ……(ほろり)


 問題は“あたし”ですよ……。

 心構えだけはしてきたつもりだけど、いざとなると、みんなにくっついて歩くのだけで精一杯……。




◇ ◇ ◇




 しばらく歩いたあと、少しだけ開けた場所に出た。


「よーし、ここを今夜のキャンプ地にしよう。視界も開けてるし、敵の接近にも気付きやすい。向こうの岩場に水も湧いているはずだ」


 あらかじめ用意されていた場所のようね。


 さて! ここからは、あたしの出番よ!

 みんなに的確な指示を出さなくちゃ……


「デュロス、水場の確認頼む!」

「おう!」


 そう! それ! 水は大事。アルフレッドくん、ナイスな指示よ!


「シルフィとフーリオは、この辺の植物で食べられそうなのがないか調査! 毒っぽいのに注意して!」

「おけ~」「了解~」


 ……うん、そうね。毒には気を付けてー。


「アラン、俺たちはシェルター立てようぜ! そっち持って」

「任せてくれ!」


 …………シェルターの立て方なら……って、なんて迷いのない動き……。


「マリルー、火ぃ頼めるか?」

「はいっ、任せてください!」


 そう! 火を起こさなくちゃよね!


「マリルちゃ~ん、火の起こし方、教えてあげる」

「ぁ、先生、私……」

「ふふっいいのよ。任せてちょーだい!」


 ようやく、あたしの出番ってワケね。火起こしは手にマメが出来るほど練習したもの。


「い~い? 今回はサバイバル実習なので、火打石に頼らずに火を起こすわよ」


 まずは──乾いた草を用意して、手ごろな木と、細くてまっすぐな木の棒を……。

 丁度良いのが見つかったわ。


「さて、ここからが本番よ。見てなさーい」


 ごりごりごりごりごり……


「あの、先生……」


 ごりごりごりごりごり……(はぁ、はぁ)


『おい、あの火起こし、懐かしーなー』『僕はあの方法で成功したことないよ』


 テントを設営していた二人のささやきが耳に入る。ふふふ、いいのよ、見ておきなさい。

 あたしはこの日のために特訓して手の皮も厚くなってるんだから!


 ごりごりごりごりごりぃぃぃっ!(はぁ、はぁ、はぁ、はぁ)


「ちょ、ちょっと休憩(はぁ、はぁ、はぁ、はぁ)」


「先生……、火打石はダメでも、魔法なら良いですよね?」


 えっ……?


「灯よ、ここに──《フレアリット》!」


 ──ぼっ☆


 ほんの小さな火花が、あっさりと草束に火を移し、たちまち炎がパチパチと燃え上がった。


「あっ……えっ……えぇ~~~!?!? それ、火の初級魔法じゃない!?」


「え、あっ、はいっ! 初歩的な属性魔法なら使えるので……。あっ、でもでも、先生のもすごかったです! 根性と汗と、あと、めっちゃ……努力が!!」


 えっ……どういうこと……?


「……あ、あたしの出番が……」


「おーい、エリーシャ先生ー、俺たちも自分のシェルター設営しなきゃ」


 レオナルド先生が、ドスン☆と大きな荷物を下ろす。ほぼ二人分の荷物を背負ってくれていたのでした……。


「あ、ありがとうございます! そうよね。あたしたちもシェルターを……(って、どうやって組み立てるんだっけー?)」


 困り果てているあたしの雰囲気を察してか、レオナルド先生が助け舟。


「おーい、アルフレッドー。そっち終わったら、エリーシャ先生のシェルターも立ててやってくれー」

「了解っすー」


「あー、ごめんね! 助かるわ。この型のシェルター、初めてなのよねー(どのシェルターも立てたことはありませんが)」


「先生ー、そっちの杭、もう一本打っといた方が安定しますよー」


「へ? あ、うん……ここね!」「もうちょい右……じゃなくて逆っす」


 カンッカンッと打ち込みながら、内心で思う。


(おかしいなぁ……こっちが教える側だったはずなのに……!?)


 しばらくして、鍋に水が張られ、山菜と乾燥肉が投入され、

 焚き火の上で、ぐつぐつとスープが煮込まれていた。


「アルフレッドくんたちって、すごい手際良いわよね。キャンプとか慣れてるの?」


「あー、まあね。俺たち、小さい頃から森の中駆けずり回ってたし。トールソンを出てからは、アランのお屋敷で世話になってたけど、外で寝泊まりすることも多かったし。こういうのは慣れてるよ」


「……そっかー」


 そうだよね。みんな、ただの生徒じゃない。

 辛い過去を背負って、今ここにいるんだもの。


「先生、これ、スープできたんで、よかったら」


 マリルちゃんが、笑顔で木の器を差し出してくれる。


 ありがたく受け取って──


「……あっつ!? でも、おいし……!」


「ふふふ、タンポポの綿毛のシェフ、フーリオにぃ渾身のスープですよぉ」


「へぇ~、フーリオくんって、料理上手なのね」「森の恵みのスープ~ウィード風~でござる。まだまだあるでござるよ~」「ウィード? 雑草ってことかしら……でも、美味しぃ~」


 しみじみとスープを飲みながら、火のゆらめきを見つめる。


 先生として来たつもりだったけど、たぶんあたし、

 この7日間でまた、生徒たちから、いろんなことを教えてもらうんだろうな──。


 いつの間にか、すっかり日も暮れて、空には星が煌めいている。

 ふわりと頬をなでた夜風が、焚火の炎を優しく揺らしていた。

読んで頂き、ありがとうございます!

「★★★★★」「ブックマーク」「いいね」で応援して頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ