私って、一体何なのですか?
「エリーヌ、今日も可愛いね」
銀色の髪を優雅にかきあげる、涼しげな深緑の瞳をした麗しい婚約者アレン・ファンダルの甘い囁きは、私に向けられたものではない。
「お兄様ったら・・」
砂糖菓子のような微笑みを浮かべ、彼の腕をぎゅっと抱きしめるアレンの妹・エリーヌ。
アレンが幼少の頃、母君が再婚し、再婚相手の連れ子がエリーヌで、ふたりは血のつながらない兄妹。
いくら母君が、兄妹仲良くするのですよ、と仰ったからといって、婚約者の前でまでイチャイチャと。
親同士が決めた婚約だから、私に対して愛が無いのかもしれないけど、会う時にいつも妹が連いてくるのは勘弁してほしい。
婚約者なのだから歩み寄ろうと思ってもシスコンにしか見えなくて、彼に対する気持ちは冷める一方だ。
アレンから見れば、可憐で女の子らしいエリーヌ嬢の方が、堅物で地味な私よりも好みのタイプなのだろう。
この婚約、無かったことにならないのかなぁ・・。
今日も、私の屋敷でアレンとふたりでお茶したり庭を散策する約束だったのに、妹も普通に連いてきて、応接間のソファに彼と並んで座り、いつものようにイチャつき始めた。
他の人が見れば、お似合いの恋人たちの甘い時間を私が真正面のソファからひとりで堂々とのぞいているようにしか見えない状況。
王立学園内に居る時も、このような光景が日々繰り広げられ、友人たちにも同情されていたりする。どちらが婚約者なのか分からない対応だわ。
「お兄様。このケーキ、とても美味しいわ。あ~んして?」
フォークに刺した一口大のケーキの欠片を、嬉しそうにアレンの口元に運ぶエリーヌ嬢。
それを、デレデレに緩んだ顔で頬張り、
「エリーヌが食べさせてくれたから、もっと美味しくなったよ」と、まなじりを下げ、
「エリーヌも、あ~んして?」
同じように一口大に切ったケーキの欠片をフォークに刺して、彼女に食べさせる私の婚約者。
「あ~ん。お兄様、美味しいわ」
幸せそうに微笑むエリーヌ嬢。
「そうか、よかったね」
「うふふ」
仲睦まじいふたりの真向かいで、ひとりさびしくケーキを食べる私・・。
一体、何プレイなの?
人のイチャイチャを眺める趣味は無いのに~! 拷問だわ!
ふたりの甘い世界にどっぷり浸っているわね。
私に話も振ってくれないし、きっと存在を忘れているんだわ。
今日は婚約者と親睦を深める日のはずなのに、その主旨も綺麗さっぱり忘れているのでしょうね。
私は、美味しいケーキとデート場所を提供している赤の他人でしかないのね。
どういう立ち位置なのよ! なんでこんなことに?
ムキ~! プンスコ!
あっ、血圧上がっちゃう。平常心、平常心。
もう退屈だし、何か楽しい事でも考えて、時間を潰しちゃいましょう。
あぁ、そういえば。先週、開催された王立学園の武闘競技会、楽しかったわ。
優勝したアレックス様がとても素敵で、令嬢たちが黄色い声援を送っていたわね。
キラキラ輝く金色の髪に蒼い瞳。風を切るようなスピード感あふれる攻撃が見事だったわ。人柄も良い方らしいし。彼を見ていると、ふわふわと幸せな気持ちになってきて・・。
手の届かない方なのに、いつの間にか目を奪われてしまっている。
冷たいシスコンの婚約者でも、私には婚約者がいるんだから。
アレックス様のことは、見ないようにしなくちゃ・・。