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3話 初めての朝餐会

 

 無事に使い魔の召喚を終え、名前も付け終わったところで勢い良く扉を開けて入ってきたミゲル。どうしてかミゲルの髪やローブはボロボロでホコリ被っている。


「落ちたんだな」


 レオンの言葉にまた豪快に笑うミゲル。

 レオンの言葉の通り、どうやら完成させた杖をはやくユーシルに見せたくて勢い良く魔法植物園を飛び出したところ、寮の鍵となるペンダントを植物園に落としてしまっていたらしく、五段飛ばしで階段に飛び乗ったところ、階段に足がつくことは無くそのまま落下したのだという。そしてペンダントを取り行って戻ってきたのだ。


「あ!杖は大丈夫だぞ、ホラ!見ろよこれ、魔法植物園にあったブラックマンドラゴラの種を砕いてスライムの核を埋め込んで作ったからどんな魔法にも耐える強度の杖だぞ!」


 そう自信満々に話すミゲルの表情は、余程杖を作ることが好きなのかランランと輝いていた。


「勝手に使ったのか?」


「バレなきゃいいんだよ!それにそもそも慣れない世界にいるってのに弱っちい杖なんかじゃ不安だろ?杖くらい良いもん使わせてあげたいからな!」


 ミゲルはそう言って、綺麗に仕上げた艶のある漆黒の杖をユーシルへと手渡す。


「ユーシル、コイツのこと大切にしてやってくれ!」


 屈託の無い笑みを向けられて、ユーシルも自然と頬が緩む。


「うん!本当にありがとう、二人共!」


 こうして同部屋となったレオンとミゲルに対して、温かい感情を抱えたユーシル。その日は明日からの授業と、一人に一冊与えられる魔導書の授与に備えて三人は早く眠りについたのだった。


 ✻✻✻


「おはよう!!!!」


 大きなミゲルの声で一瞬にして飛び起きるユーシル。早朝でもその豪快さは変わらず、ミゲルは大きな声でまだ眠っているレオンを起こすためにズンズンとベッドに近付き再び朝の挨拶をする。


「お!は!よ!う!!おはようレオン!!!」


「…………」


 それでもまだ起きないレオンに、まだまだ挨拶を続けるミゲル。


「おはよう!!!って……レ、レオンの奴……防音魔法張ってやがる!!!」


 ガーンと衝撃を受けるミゲルの横を通って、ユーシルがレオンの元に近付く。防音魔法など知らないユーシルはレオンを起こそうとして声を掛けた。


「レオンくん、おはよう朝だよ」


「あ、ユーシル、レオン多分まだ起きないぞ。防音魔法張ってやがるから声届かな……」


 声届かないと、ミゲルが言い切るより早くレオンの青い瞳が姿を見せる。


「おはよう……」


 まだ眠くはあるのか昨日よりあどけなさの残るレオン。そんなレオンを見てミゲルが更にショックを受ける。


「レオンお前俺にだけ防音魔法をッ……!??」


「うん、うるさいから」


「な!?酷いぞレオン!!」


 地団駄を踏む勢いで騒ぐミゲルの前で、再び防音魔法を張ったレオンはミゲルのことをスルーして授業の準備を始める。魔法で必要な教科書を手元に引き寄せながら、長く艶やかな銀髪を魔法で動かした櫛で梳いていく。


 ミゲルも何やらレオンに対してぶつぶつ文句を言いながらではあるが必要な教科書を魔法で引き寄せて手に取っていた。

 ユーシルも必要な教科書を教えてもらいながら準備を終えたところで、レオンとミゲルの二人と一緒に部屋を出る。部屋を出て談話室へ行くと、ユーシルたちと同じく校舎に向かおうとする寮生が多くいて、仲良さげに話をしていた。その間を通って三人は扉へと近づいていく。


「なぁなぁレオン、今日の朝餐会(ちょうさんかい)肉でるかな?腹減った〜」


「俺が知る訳無いだろう」


「あの、レオンくん。朝餐会って?」


「この学園では朝に朝餐会、夜に晩餐会があって全ての寮生が集まって食事をするんだ。席は各寮の学年ごとに別れるから、話したことの無い人とも話せる良い機会になるはずだ」


 レオンから朝餐会と晩餐会の話を聞いたユーシルは、寮の生徒たちと距離を縮める良い機会だとその表情を和らげる。ただその横でどこか対応に差を感じて頬を膨らませるミゲル。


 そんな時、寮を出ようとする三人の中でも、特にレオンに対して勢い良く視線が突き刺さる。


 そうして呟かれるヒソヒソとした小さな声だが、驚きを隠せないその声はレオンだけでなくユーシルとミゲルの二人にもしっかり届いていた。


「なぁ見たか?ヴィルヘルムが誰かと一緒にいんのなんか初めて見たぞ」


「誰かと一緒にいるのもそうだけど今喋ってた??寮長とか、先生とかと必要な時にしか喋ってるの見たことないのに」


 寮生たちの言葉を聞いたユーシルは、自分の知っているレオンとは全く違うことに驚いて隣を歩くレオンを見上げるが、レオンはそんな話を気にすることなく歩いていく。そんなレオンの様子と、周りの様子を見たミゲルも、隣を歩きながら口を開いた。


「確かに、レオンっていつも一人で一匹狼って感じだったよな!俺も昨日話したのが初めてだったしさ」


「別に深い理由は無い。俺は俺がやりたいようにしているだけだ」


 そう答えるレオンに続いて、ミゲルとユーシルの二人も寮を出ていく。だが、寮の外に出たところでユーシルが足を止めた。


 ユーシルは先程の寮生たちの話を聞いて、自分がレオンの優しさに甘えているのではと思っていた。ユーシルは右も左も分からないヒヨコ同然であり、それを不憫に思ったレオンがお情けで声を掛けてくれているだけで、それに甘えすぎているのだと。


「どうしたんだ?」


 突然足を止めてしまったユーシルに気付いたレオンが立ち止まってそう声を掛けてくれるが、ユーシルはそう思ってしまった以上、申し訳なさでいっぱいになっていた。


「僕、レオンくんやミゲルくんに甘えてたよね……。二人は僕が可哀想だから優しくしてくれてるだけなのに、いっぱい頼っちゃって……」


 そんなユーシルの言葉を聞いたレオンとミゲルは突然のことに目を丸くするが、ユーシルの言いたいことを理解して二人で顔を見合わせると、少し空いてしまった距離を縮めるために近付いていく。


「俺、別に誰にでも杖作る訳じゃないからな?俺はユーシルのこと気に入ったから杖を作ったんだ!レオンもそうだろ?」


 ミゲルにそう言われて、ユーシルがレオンの方を見上げると、レオンもゆっくり頷いてみせた。


「俺は、今まで友達とか、何も興味が持てなかった。だけど不思議とユーシルには惹かれたんだ。友達になりたいって」


 レオンとミゲルから向けられた言葉の温もりで、ユーシルの瞳から涙がこぼれ落ちる。

 そんなユーシルに向けて、レオンが言葉を紡ぐ。


「ユーシル。俺と、友達になってくれないか」


「あ、レオン抜け駆けずるいぞ!!ユーシル!俺とも友達になって!!っていうかもう友達なっ!」


 二人からの言葉に、更にユーシルの瞳から涙が溢れ出す。そんな涙を拭いながら、ユーシルは笑顔で答えた。


「うんっ!!」


 そうして、晴れて友達という関係となったユーシルたち三人は、朝餐会が行われる校舎の広間へと向かっていった。


 ✻✻✻


 広間には半数ほどの生徒が集まっており、朝餐会が始まるまでの間、楽しげに話をしたりして過ごしていた。ユーシルに対して、他寮生たちから視線が向けられるが、レオンやミゲルが隣を歩いていることで、それも気にならなくなっていた。


 やはりレオンが誰かと共にいるのは珍しいのか、ヒソヒソと話す声や、杖の名家ロードへリア家の長男であるミゲルにも視線が集まり、ユーシルはそんな二人が自分と友達だなんてと頬を緩める。レーヴェンシュタイン寮の中等部一年のテーブルには、もう数名の生徒が座っており、そこにいたハーフツインの女子生徒がこちらを見て声を掛けた。


「あ、ミゲル!おはよう」


「フィオナ、おはよう。ここ座ってもいいか?レオンとユーシルもいるんだけど」


「いいわよ、でもどうしたの?あなたとヴィルヘルムくんって何だかおかしな組み合わせね。」


「俺ら同じ部屋でもうマブだから!」


 そう言ってレオンとユーシルの肩を抱き寄せるミゲル。レオンは相変わらず無表情で嫌がっているようにも見えるが、ユーシルはミゲルの言葉に嬉しそうに目を輝かせていた。


「ペンバートンくんも、ヴィルヘルムくんもよろしくね。私はフィオナ・リンドール。ミゲルとは幼馴染みなの、ちょっとうるさいかもしれないけど仲良くしてあげて」


「う、うるさい??俺が!?」


 フィオナの言葉にショックを受けるが、その隣に座ったレオンが無表情で頷くのを見て更にショックを受けるミゲル。ミゲルは朝レオンを起こそうとしたら自分にだけ防音魔法を張られていたのだと拗ねながらフィオナに話し、フィオナはそれを聞いて楽しそうに笑う。


 仲の良い幼馴染みの姿にユーシルが笑みをこぼしていたところで、テーブルの上に魔法でテーブルクロスが敷かれてふわふわと踊るように豪華な朝食が運ばれてくる。全てのテーブルに食事が運ばれてきたところで、ユーシルは初めて見る先生がローブを翻すようにして何も無い空間から壇上に現れた。


「諸君、我は漆黒(しっこく)堕天使(だてんし)であり魔道の深淵(しんえん)に通ずる者。魔術的観点で行使する呪術教科を担当するゼロ・ルイ・ルシフェルだ。ルシファー様と呼ぶが良い。今日の朝餐会は学園長が不在の為我が指揮を執る。くれぐれもマナーを忘れず良い子で過ごすことだな」


 先生にしては随分個性的だな、なんて思いながら話を聞いていたユーシルだが、続けられた言葉でギュッと心臓を掴まれたかのような寒気に襲われた。


「特にユーシル・ペンバートン。人間として育った貴様にはここでのマナーは厳しいだろう。どうだ?我が学園の外にでも特別席を作ってやるぞ。さすれば恥をかくことも無いであろう」


 そして途端に弾ける笑い声と拍手の音。

 様子を伺えば、入学式のあの場でユーシルを騙してからかってきた三人組と同じ緑の装飾のローブの集団からのものだった。レウスオフィウクス寮の生徒たちだ。

 ギュッと拳に力が入り、恥ずかしさや惨めな気持ちに耐えるユーシルを見たフィオナが怒りを露わにする。


「ルシフェル先生……いや先生を付ける必要もない存在だわ。あんなのがレウスオフィウクスの教授だから寮もあんなのばかりなのね。気にすることないわ、ペンバートンくん」


「そうだぜユーシル。アイツらレウスオフィウクスの奴らは教授含めて嫌な奴ばっかだからな。お前には俺らが付いてるから、気にすんな!」


 そうフィオナとミゲルがユーシルに言葉をかけるが、そんなところにレウスオフィウクス寮の方から野次が飛ぶ。まるで合唱するかのように口を揃えてユーシルを侮辱し始めるその姿に、寮長であるグレイが痺れを切らして立ち上がろうとした時、それよりはやくレオンが立ち上がった。


「ルシフェル先生、一つ聞きたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」


「貴様は……レーヴェンシュタイン中等部一年レオン・フォード・ヴィルヘルムか。成績は中の中あたりと記憶しているが、そんな凡人が俺になんの用だ、言ってみろ」


「レオンくん……?」


 突然立ち上がったレオンに、どうしたのかと名前を呼ぶユーシルだが、レオンはそれには答えずルシフェルに向かって薄い笑みを浮かべて言葉を紡いだ。


「ルシフェル先生が統括するレウスオフィウクス寮の中等部一年のあの三人組。お元気ですか?」


 確か名前は……とレオンが言いかけたところでルシフェルの眉がピクリと反応を見せた。


「何……?」


「だから、お元気ですか?と聞いているんです。こんなところでユーシルを侮辱するより、二週間口から屁が出る魔法に掛かって保健室から出られなくなった自分の寮生を気にかけた方が良いんじゃないですか?」


 レオンの言葉で今度はレーヴェンシュタインのみならずレウスオフィウクス以外の寮から笑い声と拍手が漏れた。


「あれは貴様がやったのか」


「いえ、実際保健室の有名人になってますし、知っている人は多いですよ。だからユーシルより気にかけるべきは自寮生でしょうと言っているんです」


 その通りで、既にユーシルをからかった三人組が口から二週間屁が止まらない魔法に掛けられ保健室の住民となっていることは知っている者も多く、生徒たちはレウスオフィウクス寮生の方を見て笑っている。


 それで自寮を馬鹿にされたとルシフェルは遂に怒りレオンに対して魔法を放つ。


「貴様!我の寮を侮辱するか!!」


 だがその魔法はレーヴェンシュタイン寮長であるグレイがレオンの前に出て消滅させる。


「教授が生徒に魔法を放つのは如何なものかと。それに先に侮辱したのはそちらだ。この件は然るべき対応を取らせていただく」


 グレイがそう言うと、ルシフェルは舌打ちをしてその場から姿を消した。


 そうしてレウスオフィウクス以外の寮からレオンとグレイに対して拍手が起こる中、自分のために先生に立ち向かったレオンに、ユーシルはお礼を伝える。


「レオンくん、その……ありがとう」


「うん、気にしなくていい」


 皆は、レオンを無表情で冷たい感じだと言うが、ユーシルの知るは違った。


「やっぱりレオンくんは優しいね」


その後〜ミゲルとレオンが二人の時〜


「なぁレオン。あのレウスオフィウクスの三人組に口から屁が出る魔法掛けたのって……」


「あぁ。俺が掛けた」


「いつの間に!?てかなんで!?」


「何で?……不思議と友達になってみたいと思ってた子が嫌がらせされてたから、気がついたら掛けてた」


「でも何で口から屁?」


「二週間屁が止まらなかったら流石にお尻痛いかなと思って」


「口からも変わらねーだろ。お前以外と抜けてる?」


「は??」

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