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2話 新しい出会い

 

 レーヴェンシュタイン寮長である、高等部三年生のグレイ・ジークハルトの案内の元、その後を追ってユーシルや寮生たちはレーヴェンシュタイン寮へと。

 ユーシルは一番後ろについて前を行く寮生に着いていく中、入学式中は緊張で気付かなかったが、後ろから見ていて気付いたことがある。皆の髪色のことだ。


 ユーシルは生まれてこのかたずっと黒髪で、もともと人間として住んでいた国では黒髪がほとんどだったのだが、どうやらこのアカデミー、というより魔法使いの世界では違うようだ。黒髪は一人もおらず、皆がそれぞれ赤や紫、青などと個性的な色の髪を持っていた。

 ただその中でもユーシルは自然と、列の真ん中あたりにいるレオンの綺麗な銀髪に目を惹かれていた。


 後ろで一つに結われた銀髪は動く度に流れるように靡いて、キラキラと輝く。そして、髪色だけでなく先程話した時に向けられていたレオンの青い瞳の美しさにも惹かれていた。


(僕なんかに話しかけてくれるなんて、レオンくんは優しい人だな。きっと皆の人気者なんだろうな……僕なんかが友達になりたいだなんて、不相応だ)


 そうして、ユーシルはレオンの方へと向けていた視線を逸らす。そのまま学園の中を軽く案内された後に、ユーシルたちは寮の入口となる大きな広間へ辿り着いた。


「皆、ペンダントを用意するんだ。ローブのポケットの中にあるだろう?それが寮への鍵になる。くれぐれも無くさないようにね。ペンダントは肌身離さず首に掛けておくといいよ、寮に入る時はそのまま寮の色の扉へ繋がる階段を上がって行けばいい」


 寮長のグレイが寮への入り方を説明していく中、ざわつきが起きる。皆の視線がその階段へと向けられていて、ユーシルも階段の方を見ては驚きで目を見開いていた。階段はそこにあるはずなのだが、消えたり現れたりと、どうやってそんな階段を登ればいいのか皆戸惑いを見せる。


「あぁ、大丈夫だ。階段は寮への侵入者を弾くための仕掛けだから。そのペンダントはレーヴェンシュタイン寮の証で、それさえ身に付けていれば登っている最中に階段が消えることは無い。寮への他寮生の立ち入りは禁止だから、違う他寮のペンダントを持つ生徒が階段を登れば……どうなるかわかるだろう?」


 そう笑うグレイは、何やら他寮との因縁があるのか、どこか愉しげだ。


 ユーシルはグレイの話が終わると、ローブのポケットから赤色のペンダントを取り出して、皆と同じように首にかけると、動き出した寮生たちに続いて階段を登っていく。いくらペンダントがあるから階段が消えることは無いとは言え、心做しかドキドキしているユーシル。


 そんな無駄な緊張のなか何事もなく無事階段を登り、開かれた寮の扉を潜ると魔法領域が広がる。外からは何も見えなかったが、そこには広い寮の談話室が存在していた。扉しか無く、部屋などなかったはずなのに突然扉の先に現れた談話室に、魔法のすごさを実感して目を丸くするユーシルの肩に、寮長の手が触れた。


「君も今日からは俺の寮生だ、いつでも頼ってくれて構わないからな」


 そう言って寮へと入っていくグレイに、ユーシルは温かいものを感じてゆっくりと寮へ足を踏み入れる。

 ユーシルたち男子生徒は寮長に連れられてそのまま右手の通路を進み、女子生徒はレーヴェンシュタイン寮の監督生である三年生に連れられて左手の通路を進んでいく。ユーシルが通路を進んだ先には、男子生徒の部屋が用意されているようで、三人で一つずつ部屋が割り当てられていた。


「ほら、ペンダントが自分の部屋を教えてくれるから止まらずに進めよー」


 寮長や監督生である先輩たちに促されて、皆ぞろぞろとペンダントの淡い光に導かれるようにして進んでいき、それぞれの部屋へと入っていく。それに続いてユーシルも自分のペンダントの光に導かれながら部屋を探して歩き始め、ペンダントの光が消えて自分に割り当てられた部屋の前に辿り着いたユーシルは、目を瞬いた。


「あっ」


「ん?あぁ、同じ部屋か」


 ユーシルに割り当てられた部屋の前には、同じ部屋が割り当てられたのであろうレオンがいた。レオンは何も持たずに手ぶらでいるユーシルを見て何かを考える素振りを見せて、ゆっくり口を開いた。


「きみ、教科書とかの荷物はどうした?」


「あぁ、学園長から教科書とかは寮の部屋に準備しておくからそれを使うようにって聞いてるよ」


「……言い難いが、部屋の中は空の様なんだけど」


「へっっ???」


 レオンの言葉で慌てて部屋に入り中を確認するユーシルだが、レオンの言う通りで部屋の中にはベッドや空の本棚、暖炉にテーブルやソファなどの生活に必要な家具が置かれているだけで、ユーシルの教科書などは見当たらない。


 今日この後学園長が持ってきてくれるのではとも考えてレオンに伝えるユーシルだが、レオンは首を振る。


「学園長は式の後すぐ他校の学園長との会談に出かけた。あれでも強大な魔法使いだからな、しばらく学園には戻らないと思う」


(が、学園長め…………!)


 学園長というからには偉大な魔法使いで、それはそれは素晴らしい存在なのかと思っていたユーシルの中で、ガラガラと音を立ててイメージが崩れていく。

 しかしそれと同時に、明日から早速授業が始まるというのに教科書が無いとなると大変だ。どうすればいいのかも分からずに頭を抱えるユーシルに、レオンが自分の教科書を差し出した。


「教科書、自分のが貰えるまではこれ使って」


「えっ、ダメだよ!それだとレオンくんが授業受けれなくなっちゃうよ」


 そう断るユーシルの前でレオンは持っていた杖を教科書に翳す。


「大丈夫、全部覚えてるからコピーできる」


 そう言うと同時に、杖がもう一冊の教科書を作り出した。それはレオンの記憶の中にある教科書をコピーして実体化させたものなのだという。

 レオンの魔法に驚いていると、部屋にもう一人の男子生徒が入ってきた。


「あ、ヴィルヘルムと……えーっと、ペンバートンだったよな?二人と一緒の部屋か!俺はミゲル!ミゲル・ロードへリア、よろしくな!」


「ユーシル・ペンバートンだよ、よろしくね」


「おう!よろしくな!って、ヴィルヘルムはそれ何やってんだ?」


「学園長のやらかしの後始末」


 レオンのその言葉で、大体の原因に気付いたのかミゲルはうんうん頷いてユーシルの肩に手を乗せる。


「学園長そういうとこある、っていうかそういうとこしかないからな!」


 そう言って豪快に笑うミゲルに、確かにそうかもしれないと苦笑いするユーシル。レオンのお陰で教科書はどうにかなったが、他に何が足りないかさえ分からないユーシルは、ひとりで頭を悩ませ始める。そんなユーシルの前で、レオンとミゲルが何かを話して動き始めた。


「なら、杖はロードへリアに頼む」


「おう!なんたって俺は杖屋の跡継ぎだからな!魔法植物園行ってとっておきの材質の杖作ってやるよ!ヴィルヘルムには使い魔のこと頼んだからな!」


「わかった」


 ユーシルが反応するより早く、ミゲルはウキウキで部屋を飛び出していく。


(魔法植物園……?杖……??)


 何の話か分からずに戸惑うユーシルだが、ミゲルの実家であるロードへリア家は杖の精製に秀でた魔法界でも有名な一族で、その長男であるミゲルもその才能を受け継いでおり、必需品であるユーシルの杖を作りにいってくれたのだとレオンから説明を受けて目を丸くする。


「ぼ、僕なんかに杖を作ってくれるなんて」


「杖と教科書が揃えば後は使い魔が必要になる。何か好きな動物とかいる?」


「好きな動物かぁ……なんだろう……」


 ユーシルがそう考えている間に、レオンは部屋の床にスラスラと魔法陣を描いていく。その魔法陣に乗り、魔法を発動させることで使い魔を召喚することができるのだという。


「できた。好きな動物を思い浮かべるだけでいいよ。呪文はディヴェンタ・イル・クヴァーレ。この上に立って唱えるだけで発動するから」


 ディヴェンタ・イル・クヴァーレ。

 この魔法界で使われる呪文語はどの国の言語でもなく、ただ呪文としてのみ使われる言語だ。


「意味は心臓となれ。使い魔は魔法使いの心臓として、裏切ることなく最も近い場所で忠誠を誓うんだ。でも深く考えずに、友達として傍にいたら落ち着ける動物とかを考えてみればいいよ」


 使い魔といえば、なんだか不気味なイメージしか無かったユーシルだが、友達として、というレオンの言葉を聞いて、ユーシルは魔法陣の上に立つ。


 ユーシルは人間として通っていた小学校で、うさぎ係として一匹のうさぎと常に一緒にいた。そんな一匹のうさぎをひとりぼっちにしてしまったことが気になっていたユーシルは、友達のような存在だったそのうさぎのことを考えていた。


 そうして、ユーシルは呪文を紡ぐ。


「ディヴェンタ・イル・クヴァーレ」


 パッと光を放った魔法陣は、光の中にユーシルを包むように覆って、すぐに消滅する。

 魔法陣があったはずのそこにあったのは、ユーシルがずっと一緒にいたうさぎの姿。


「うさぎか」


「あ、うん!僕があっちの学校に行ってた時にずっと一緒にいてくれた友達なんだ!」


「成功したようでよかった。最初はまだ喋らないけど、傍に置いて段々魔力が馴染んでくると言葉を話せるようになるよ」


 使い魔となったうさぎを抱き上げるユーシルの嬉しそうな姿を見て、小さく笑みを浮かべてそう言うレオン。そんなレオンに手伝ってくれたお礼を伝えていると、うさぎがユーシルに頬ずりを始める。その姿を見たレオンは、うさぎが名前を求めているのだと言う。


 使い魔に名前を与えることでより強固な絆で結ばれる。


「向こうでの名前じゃなく、この世界で君と一緒に生きていく名前が欲しいんだろう」


「ここでの名前……。そっか、この子も僕と同じなんだ……」


 ひとりぼっちになったユーシルと、うさぎの新たな人生。ユーシルの使い魔であり、友達となったうさぎはユーシルの傍で新しい人生を歩み始めた。その人生を幸せにするための名前を、ユーシルは考える。


 ユーシルはうさぎを大切に抱きしめて、幸せの意味を込めた名前を紡ぐ。


「これからも、よろしくね。グルック」



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