7話:英雄になった理由
翌日の授業にもロゼは顔を出していてひとまず安心した。そして、相変わらず授業について興味を持たずに頬杖をついていた。時々、俺と目が合ったらその度にそっぽを向いて対話の意思がないこと示してくる。
「昨日はすまなかった」
開口一番に俺が謝罪しても相手にしてもらえない。
「事情を知らなくてあんなことを」
それまで俺をあしらっていた彼女はその言葉に耳をピクリと動かして反論してきた。
「だから何、事情を知っていたら手を抜いたとでも言うつもり」
しまった。また失言をしてしまった。言葉に焦りが表れている。
「弱い者を見下して楽しいの、しかも翌日まで粘着してきて」
返す言葉もなかった。俺が敵と戦う時も勝てる勝負しかしなかった。本質的に俺は弱虫のままだった。誰かから能力を譲り受ける前までの無能力だった俺から何も成長していない。
「ただ、他の人に影響されてこの道を志した俺からすると自分の行きたい道を認められないのが不憫だったから」
もうその場から離れようとしていたロゼが振り向いた。俺はただ自分がこの道を選んだ理由を語った。己の本音を曝け出す以外に信用される方法を知らなかったからだ。
「元々俺には幼馴染の女の子がいたんだ。俺はこどもの頃は人を救うヒーローに憧れていた。年頃の男の子としては普通のことだろ。しかし、ある時俺達は事件に巻き込まれた。犯人は無差別殺人で誰でも良かったらしいがたまたま俺達が標的にされた。当時能力が発現していなかった俺はヒーローに憧れていても何もできなかった。挙句の果てには幼馴染に救われる始末だ」
俺は空を眺めて話を続ける。ロゼは俺の話くらいは聞いてくれるらしい。
「俺を庇って死んだ幼馴染に何て言われたと思う。頑張ってヒーローになって、だ」
こんなことを言われると断れないに決まっている。幼馴染はまだ未熟だった"斥力を操る"能力で俺だけ逃がした。しかし、その能力は今俺が所持している。今でも俺の代わりに幼馴染が助かっていたらと思う。
だから俺は禁忌といわれる"死者蘇生"の能力を求めた。能力を組み合わせてでも完成させる。アドラーと協力しているのもそれが理由だ。能力の研究でもしかしたら誕生するかもしれない。ほんの少しの希望に縋りつくしかない。
「だから、親から反対されているのが可哀そうで、人に応援された俺でもつらい道のりだったのに」
一応俺の思いは届いてくれたらしい。ロゼは感情でグチャグチャになった表情をしている。
「私の父はああ言うけど違うの。だって私の能力は完全に下位互換、父の能力は"対象の能力を消す"だから味方に迷惑をかけない。一方で私は誰かと連携してもその人の能力まで消しちゃう。だから、私は一人でも戦えるようにならないといけないの」
彼女の目には涙が浮かべられていた。俺はそれから愚痴とも言える彼女の本音を受け止めることに徹した。
彼女の能力は別に父親の劣化版ではない。フィールドを張る能力は基本的に無効化することが不可能に近い。しかし、そんなことよりも彼女の気持ちを楽にさせることの方が先決だと考えた。だってそれは、最も俺が求めていることだからだ。弱音を吐く相手は今の俺にはもういない。
「ごめんなさい、感情が高ぶっちゃって」
彼女は涙を拭いながらそう言った。関係が修復できたのなら何よりだ。俺はこれから彼女の能力を何が何でも受け取りたくは無かった。そもそも俺が見殺しにはしない。彼女の成長が楽しみになった。
授業の終わり際、トワは俺に向かってこっそりとグッドサインをしてきた。
「中々やるじゃない、貴方。てっきりもう口もきいてくれないと思っていたもの」
職員室にて俺はトワにお褒めに預かっていた。俺も今回は手を焼いた。
「まあでももう少し他の生徒とも関わらないといけないけど」
トワはいたずらに笑ってそう言った。