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2話:卑怯で泥臭い戦術

 アドラーの攻撃はあっさりとはじかれた。カナタは見向きもせずに適当にあしらったが、狙いは別にある。続いて、俺は一通りの状態異常を付与した。


 毒、麻痺、呪い、幻惑、エナジードレイン、一つ一つは単純の効果の能力でも多彩な種類を混ぜ込むことで解除の難しさが増す。人類の軍隊だって採用している策略だ。


 一応狙い通りダメージを与えることができたが、カナタは数秒後には全てを克服していた。"状態異常無効"シンプルながら面倒な能力だ。


 カナタの戦い方は正々堂々とした立ち回りであることが特徴だが、搦め手の対策も能力でほとんど完成していて隙がない。


「その程度ですか、僕は貴方のことを尊敬していたんですよ」


 カナタの反撃が始まる。戦死者の快復が不可能だと分かった今の彼の目には絶望が映っている。ここまで来てまだ、俺のことを信じていたい、という気持ちが残っている。


 俺は手札の数だけでこれまで勝ってきた。そして、これからも絶対に全てを利用し尽くして負けるつもりなどない。


「所詮幼い正義感でこの世の中を生きていくのなど不可能だ。結局、清濁併せ吞む必要が出てくる。尊敬していると言うのなら仲間にしてやる」


 徹底的に挑発して相手の動きを観察する。しかし、真っ向勝負では分が悪く、少しずつ追い詰められる。アドラーもサポートを入れてくれているが、焼け石に水だ。


「ふざけないで下さい。人の命をそんな、そんなことで」


 カナタの持っている剣がそれまでになく輝いた。そして、踏み込む音も心なしか迫力があって大地が震撼したように感じる。


 俺は咄嗟の判断で煙幕をはる。ほんの少しでも姿を隠せば、"身体能力向上"、"硬化"の能力を総動員して迎え撃つ準備ができる。力勝負になったのは気に食わないが、ここまで追い詰めたカナタのことを称賛してやりたい。


 暗闇の中でも、カナタの様子は青い炎や紫色の雷など五大元素の力をふんだんに使用しているようで、花火のように見えた。


 俺の能力で強化した拳とカナタの剣が衝突して地響きがなる。周囲の音が何も聞こえない。力と力のぶつかり合いのけたたましく鈍い音しかもう聞こえない。


「結局、貴方の敗因は僕と戦ったのがこの戦場だったことです」


 煙幕の中から現れたカナタは不敵な笑みを浮かべていた。均衡を保っていたと思われていた力関係は少しずつ押されてきて、間もなく俺は吹き飛ばされる。遥か彼方まで吹き飛ぶべきの体は無情にも結界に叩きつけられて、悲鳴をあげた。


 目を開けることも難しいが目の前に剣を構えたカナタがいることは気配から察した。そして、俺は死を覚悟する。


「英雄っていうのは皆の応援を力に変えて戦うんですよ。僕の能力の中で地味で軽視されがちなんですけど"人々の希望を力に変える"能力っていうのがあるんですよね。」


 俺から乾いた笑いが漏れた。俺が能力を死んだ兵士達から回収しているのと同じようにこいつも力を貰っていたという訳か。勝手に自分に有利な戦場だと思っていた自分が馬鹿らしく思えてきた。


「ゔぉぉぉ~」


 声にならない咆哮を発しながら、アドラーが後ろから影の剣で斬りかかる。あいつも少しずつ攻撃を貰っていてもうボロボロだ。


「はぁ、私が貴方の能力を警戒していないとでも思いましたか、"影を操る"能力、憎き宿敵の能力なんて分析済みですよ」


 カナタは溜息を漏らして、アドラーの手首を捻りあげた。アドラーは悶絶している。


 "影を操る"能力、比較的汎用性のある能力で現段階で三つ効果がある。影に潜伏する、影の形状や質量などを変化させる、影を攻撃することで本体にもダメージを与えることができる。

 しかし、最後の奥の手までもが看破されてしまった。負けを悟りつつも心のどこかで逆転の一手を模索していた。


 考えろ、考えろ、今までの情報を集めて捻り出せ……。


「そうだ、でっかい影をこの空間を覆いつくす程の影を生み出してくれ」


 アドラーは俺の声に呼応して己の影を巨大化させた。それに、俺は再び一通りの状態異常の効果を付与する。


 カナタは呆れ声で、

「まだ足掻くんですか」

と高を括っている。俺は"斥力を操る"能力で一時的に距離を取る。勿論、こんなの時間稼ぎにもならない。


 カナタは何かを察したようですぐに接近してくる。今度は"瞬間移動"能力を使う。はっきり言って、クールダウンが一秒ある上、距離も最大十メートルで使い勝手の悪い能力だ。でも、今はそれで十分だ。それに、もう強い能力を使う体力もない。


「"状態異常無効"が機能していない」


 カナタは焦った様子で矢継ぎ早に剣を振る。それを分かって俺達は逃げ回る。

 カナタの"状態異常"の能力は自身にかかった毒をポーションで解毒することと仕組みは同じだ。その証拠としてカナタには最初は状態異常が効いていた。


 そこで一帯を覆う影に状態異常を付与することでその影の体内のここをそういうフィールドにした。これは完全な博打だったが結界のルールにはあいつも従っていたことから思いついた。


 そして、最後にこの結界はカナタのエネルギーが自動で供給されていることが、結界が壊れても即時修復されていることから分かる。


 ここからは我慢比べだ。どちらも状態異常状態の諸刃の剣。カナタが結界を維持できなくなるのと、俺達二人が死ぬのがどちらが先か……。


 瀕死の俺達とまだ戦えるカナタの最終決着はすぐそこに……。


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