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第91話 才能

「さっきは殘念だったね。すごい才能だと思ったのに」


「別に残念ではないだろ。危険な橋だと教えてもらって助かったぐらいだ」


「そうよ……。エヴァの言う通り、二度と使うべきじゃないわ。それに結果から魔術式の構造を予測する段階で止めるなら、才能としては十分すごいでしょ」


「う〜ん。そうなのかな?」


「まぁ、今ユウがやってるみたいに、改良して使いものになるならの話だけどね……」


「そこは頑張ってみるって」


 俺達は放課後、学院内のカフェテリアに来ていた。


 ここは普通科等、つまり上級科以外の生徒が集まる場所で、皆勉強したり放課後の休憩の場にしている者が多く、賑やかだ。


 俺は先程の魔術の改良をして、マナは机にうつ伏せになりうたた寝て、エリカは魔術理論の講義の復習をしている。


 そんな感じで俺達も皆と同じように、休憩の場として使っていると、2つほど隣の席の集団が何やら盛り上がっており、会話声が耳に入ってきた。


『ねぇ、今朝の発表きいた!? 今年の魔術闘技会。優勝者は特典として、最終試合で勇者ラルク様と手合わせできるらしいよ』


『はぁっ!?

 それほんとうか!! 信じらねぇ!

 クゥ〜早く見てぇ〜な。こう、ハイレベルで熱い試合をさぁ!!』


『ラルク様が戦う様を拝めるとか、俺達は最高についてるじゃんか!』


『まじで、席あたってくれよ!! 頼むよ神様〜!!』


『アンタ無宗教のくせに、こんな時だけ神頼みとか都合良すぎ〜!』


 会話の内容から推測するに、どうやら近く行われる上級科の生徒のみが参加できる魔術師同士の武闘大会、国立魔術学院主催の魔術闘技会の話で盛り上がっているらしい。


 そして彼らを興奮させていた要因であるラルク様とは、王より勇者の称号を授かった二代目の勇者である。

 ラルク様は先代と同じく、大陸最強の魔術師とされており、さらにはロワード王国の第一王子という設定盛り盛りのハイスペックで……。


「すこし煩いわね……」

 

 エリカは眉をひそめ、読んでいた本を静かに机に置いた。


「ここは私語オッケーだしな……。嫌なら図書室いくか?」


「いえ、いいわ……。ここのコーヒーが好きなの」


「ねぇ〜、私はあんまり関心ないんだけど、ユウは興味あったりするの?」


 マナがうずくまっていた腕枕の中から、顔をのぞかせて聞いてきた。たぶん俺が『勇者』という単語に機敏に反応していたのを、目敏く見られていたのだ。


 そして、俺が気になったのは勇者だけだ。


 つまり魔術闘技会への関心は殆どなく。例えるなら、全く嗜んでいないスポーツの大会と同程度だ。


「無いとは言えないけど、まぁ……あそこまでではないな」


「ふ〜ん……まぁ、そんなもんだよね〜。

 私もあまり興味沸かないんだ〜。大会に出るのは好きだけど、観てるだけなのはなんだか退屈で」


「それでいいのよ。どうせ私達は参加は勿論、会場に入ることすらもできないんだから」


「そ〜なの?」

 

「今朝の見てないの? 学内新聞で、大会の告知をしていたけど、会場内人数制限ありのため、観覧は抽選って書いてたわ」


 エリカはマジメだな、ホントに。

 新聞部の記事なんて、掲示板に貼ってあるだけの飾り程度にしか思っていない俺は、少しはエリカを見習わないと駄目かもしれない……。


「あぉ〜……なっとく〜。それは無理ぽいっねぇ」

 

「それに記事には、例年以上の高倍率の抽選になるだろうともね。

 ……だから、最初から興味がない方が変にストレスかからないし、精神衛生上も健康でいいのよ」


「エリカは……みたかったんだね。

 わかるよ。ラルク様の戦う姿なんて、そうそう観れないし貴重だからわかるよ」


 まぁ倍率が高いのは容易に予想できる。魔術大会は云わば、上級科の生徒たちの見せ場なのだ。

 国立学院を象徴する優秀な彼らの魔術のお披露目会。


 そのような貴重な場である大会には、外部からの観戦者や同じ上級科生徒達が最優先になるのは当然……。だから普通科等、一般生徒はまず直接観れないと考えていい。


 それに最強の魔術師である勇者の戦闘となれば、今年の倍率は相当なものになるだろう。


「ほんと残念だな……俺もラルク様を一度この目で見てみたかったし」


「えっ? ユウはラルク様、拝んだことないの?」


「拝むって、神様かよ……」


「どこぞの宗教じゃ、勇者は信仰の対象らしいわよ」


「まじか……」


 たぶん、この前言ってた魔力至上主義の命神教のことだ。エリカがと〜ても不機嫌そうな顔をしているし、間違えない。


「でもまぁ……私達にとっても神様はあながち間違えでもないかもね。

 世界最強の魔術師で、魔族と人間の戦争を停めた救世主で、ロワードの王族でもある。もはや……神様みたいなものよ」


 勇者が魔術師最強の存在と言われているのは、勇者が他を圧倒的に凌駕する膨大な魔力を有していることからだ。


 その量に底はなく無限だとも……。勿論、勇者の魔術の才能や戦闘能力の高さも、他を寄せ付けない物であるらしいが。

 俺達魔術師にとって、魔力は生命線と言ってもいい。魔術が使えなければただの人間だ。魔力量が多いとは、それだけでも最強になり得るのだ。


「そういうエリカは直接見た事あるのか?」


 顔ぐらい国民なら誰でも知っているが、実際に会う機会はそうあるものでもない。昨今は警戒も高まっていて尚更だろう。

 

「えぇ……8年前の王都での演説の時に一度だけ。

 でも、私が聞いていた勇者像とは全然違ったわね。その時の彼は、ちょうど今の私達と同じ位の年背の普通の少年で、全然勇者の風格がなかったから」


王子兼勇者が普通なわけないと思うが……。


「……滅多なこというなよ。王子でもあるんだからな」    


「わかってるわよ、そんなこと。

 はぁ……それにしても歯がゆいわ。   

 私も出場権があれば、絶対大会に出ていたのに」


「あれか? 上級科への足がかりにするためか?」


「そうよ……。何をしたら移科できるのか全然わからないから……。

 ねぇ、もう一度お姉さんに聞いてよ。今度はもっと具体的に」


 この前オリビア先生に教えてもらって、はじめて知ったというか、ユウの記憶から掘り起こしたことだが、エリカが普通科に入る事を決意したきっかけ、普通科から上級科に移った経験がある生徒とは、姉さんの事だったのだ。


「この間も言ったけど、なんか教えくれる感じでもないんだよ。姉さんは隠す気はないらしいけど、妙にはぐらかされたし」


「じゃあ……一度、直接合わせて」


「今は無理だって、俺も最近、連絡取れてないんだ」


「ケチね……」


「しょうがないだろ、今度また余裕ができたら、紹介してやるよ」


 姉さんは今忙しいんだ。この国に潜む驚異へ対応しているのに、邪魔する訳にはいかないからな。


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